ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
コン、コン、コン。
木刀同士がぶつかる乾いた音が響く。
「めん!」
「やあっ!」
子供たちの気合いの入った声が道場の中から聞こえてきた。
レインとルークは門をくぐり、その光景を見つめる。
広い道場だった。
年齢も様々な子供たちが木刀を握り、汗を流している。
真剣な表情で打ち込みを行う者。
悔しそうに歯を食いしばる者。
楽しそうに稽古している者。
その姿は実に生き生きとしていた。
「すごいですね」
ルークが感心したように呟く。
「ああ」
レインも頷いた。
想像以上だった。
ただ剣を振るうだけの場所ではない。
空気が違う。
礼儀があり、規律があり、それでいて堅苦し過ぎない。
自然と背筋が伸びるような雰囲気だった。
「何か懐かしいな」
レインがぽつりと言う。
ルークが首を傾げた。
「来たことありましたっけ?」
「ない」
「ですよね」
即答だった。
ルークは苦笑する。
いつものことである。
レインはたまに意味の分からないことを言う。
もっとも、レインにとっては前世の剣道場や武道場の雰囲気を思い出していただけだった。
もちろんそんなことは説明しない。
説明しても理解されないからだ。
その時だった。
「珍しいですね」
穏やかな声が聞こえた。
二人が振り向く。
そこには一人の男性が立っていた。
眼鏡を掛けている。
和服姿。
柔らかな笑み。
だがその立ち姿には隙がなかった。
自然体なのに強い。
そんな印象を受ける。
レインはすぐに分かった。
この人だ。
シモツキ・コウシロウ。
一心道場の主。
「見学ですか?」
コウシロウは穏やかに尋ねる。
その口調は優しい。
だが観察されている感覚があった。
レインは一歩前へ出る。
「弟子入り希望です」
即答だった。
ルークが横で苦笑する。
「早いですね」
「こういうのは先に言った方が早いだろ」
確かにその通りだった。
コウシロウも少し驚いたようだった。
だがすぐに笑みを浮かべる。
「そうですか」
「はい」
「理由を聞いても?」
レインは少し考える。
そして正直に答えた。
「強くなりたいからです」
その言葉に嘘はなかった。
コウシロウは静かに頷く。
「良い理由ですね」
そして二人を道場の中へ招き入れた。
見学は歓迎らしい。
道場の隅へ座る。
目の前では稽古が続いていた。
レインは自然と剣筋へ目が向く。
足運び。
体重移動。
構え。
呼吸。
一つ一つを観察する。
すると気付く。
基礎が徹底されている。
派手な技はない。
だが無駄もない。
だからこそ強い。
レインは内心で納得した。
ロジャーやレイリーと出会ってからずっと考えていた。
自分には何が足りないのか。
答えは簡単だった。
基礎である。
覇気はある。
身体能力も高い。
だが剣士としての積み重ねが圧倒的に足りない。
だからこそここへ来た。
その横でルークも別の視点から見ていた。
彼は剣に詳しくない。
だが気付くことはある。
礼儀。
挨拶。
集中力。
道場全体の雰囲気。
子供たちが先生を尊敬していること。
それらが自然に伝わってきた。
「良い場所ですね」
ルークが呟く。
コウシロウが微笑む。
「ありがとうございます」
「皆楽しそうです」
「強くなることも大事ですが、それ以上に人として成長して欲しいと思っています」
その言葉にルークは少し感心した。
なるほど、だからこの道場の雰囲気は温かいのだ。
ただ技術を教えるだけではない。
人としての在り方も教えている。
しばらくして、コウシロウの視線がルークへ向く。
「君は剣士ではないのですね」
「はい」
ルークは頷いた。
「剣は使えません」
「では何で戦うのですか?」
「拳です」
コウシロウは少し驚いたようだった。
そして優しく笑う。
「なるほど」
「ですので、弟子入りというよりは付き添いです」
「そうでしたか」
ルークは続ける。
「ただ、こういう場所で学べることはあると思っています」
その言葉にコウシロウは頷いた。
「その通りです」
そして少し考える。
「剣術は教えられませんが」
「はい」
「武道者としての心得なら教えられるかもしれません」
ルークの目が少し輝いた。
「本当ですか?」
「ええ」
コウシロウは穏やかに答える。
「武器が違うだけで、本質は似ていますから」
ルークは嬉しそうだった。
まさか自分まで学べるとは思っていなかった。
レインも少し安心する。
一人だけ退屈させるのではないかと思っていたのだ。
その時だった、奥から木刀のぶつかる音が一際大きく響いた。
レインが視線を向ける。
そこでは十代前半ほどの門下生たちが真剣な表情で打ち合っていた。
誰も手を抜いていない。
勝ちたい。
強くなりたい。
そんな思いが伝わってくる。
「熱心ですね」
ルークが言う。
コウシロウは静かに頷いた。
「強くなりたいという気持ちは素晴らしいですから」
「なるほど」
レインも納得する。
この道場が慕われている理由が少し分かった気がした。
強さだけではない。
努力することの大切さ。
礼儀。
覚悟。
そういったものを教えているのだろう。
そんなやり取りをしていると、コウシロウがふと口を開いた。
「さて」
レインへ視線が向く。
その瞬間。
空気が少し変わった。
穏やかな笑みは変わらない。
だが師範としての顔になっている。
「弟子入り希望でしたね」
「はい」
「なら」
コウシロウは道場の壁へ歩く。
そして一本の木刀を手に取った。
それをレインへ差し出す。
「まずは実力を見せてください」
道場が静かになった。
子供たちの視線が集まる。
新しく来た少年がどれほどの実力なのか。
皆気になっているのだろう。
レインは木刀を受け取った。
手に馴染む重さ。
普段使っている黎明とは違う。
だが問題はない。
そして自然と笑った。
「望むところです」
コウシロウも微笑む。
こうして、船大工レインと一心道場師範シモツキ・コウシロウ。
二人の最初の手合わせが始まろうとしていた。