ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌朝…
まだ太陽が昇り切る前の一心道場には、すでに人の気配があった。
庭へ出たレインは思わず目を見開く。
そこには道着姿の門下生たちが整列していた。
全員が木刀を握り、黙々と素振りを繰り返している。
シュッ。
シュッ。
シュッ。
木刀が風を切る音だけが響く。
誰も喋らない。
誰も手を抜かない。
ただひたすら剣を振り続けていた。
「うわぁ……」
レインは思わず呟いた。
昨日は冗談だと思っていた。
だが本当に素振りから始まるらしい。
すると後ろから声が聞こえた。
「おはようございます」
振り返るとコウシロウが立っていた。
「おはようございます」
「では始めましょう」
そう言って一本の木刀を差し出す。
レインは受け取った。
「千回でしたっけ?」
「はい」
「途中休憩は?」
「ありますよ」
少し安心する。
だが次の言葉でその希望は消えた。
「五百回ごとに一回です」
「少なっ!」
思わず叫ぶ。
コウシロウは笑った。
「では構えてください」
諦めたレインは木刀を握る。
そして一回目を振る。
シュッ。
二回目。
三回目。
十回目。
二十回目。
五十回目。
百回目。
ここまでは余裕だった。
しかし、二百回を超えた辺りから腕が重くなる。
三百回。
肩が悲鳴を上げる。
四百回。
手の感覚が怪しくなる。
「はぁ……はぁ……」
額から汗が流れ落ちた。
だが周囲の門下生たちは黙々と振り続けている。
誰も弱音を吐かない。
レインは歯を食いしばった。
「負けるか……」
そして五百回。
ようやく休憩が許された。
その場に座り込む。
「死ぬ……」
「まだ半分ですよ」
コウシロウが微笑む。
鬼だ...
レインは本気でそう思った。
一方その頃...
ルークは道場の裏庭にいた。
こちらには木刀を持った者はいない。
代わりに数人が静かに座っていた。
目を閉じている。
何をしているのか分からない。
「コウシロウ先生から聞いています」
年配の門下生が言った。
「君は剣士ではないそうですね」
「はい」
「ではまず心を整えるところから始めましょう」
「心?」
「瞑想です」
ルークは首を傾げた。
海賊や盗賊を警戒する見張り役として生きてきた。
瞑想など考えたこともない。
だが言われるまま座る。
目を閉じる。
すると、驚くほど雑念が浮かんできた。
工房のこと。
レインのこと。
船のこと。
故郷のこと。
次々と思考が溢れてくる。
全く集中できない。
「難しい……」
思わず呟く。
年配の門下生は静かに笑った。
「皆そうです」
「瞑想とは何も考えないことではありません」
「え?」
「考えている自分に気付くことです」
ルークは目を開く。
何となくだが面白いと思った。
昼過ぎ、ようやく素振り千回を終えたレインは地面へ倒れ込んだ。
腕が上がらない。
肩も痛い。
全身が重い。
「終わった……」
「まだですよ」
コウシロウの声。
レインは嫌な予感がした。
「夕方にもう千回です」
「……帰っていいですか?」
「駄目です」
即答だった。
その様子を見ていたルークが笑う。
「社長」
「何だ」
「俺の方が楽そうです」
「代われ!」
レインは即座に叫んだ。
しかしルークは首を振る。
「嫌です」
そう言って笑った。
その顔はどこか楽しそうだった。
レインは知らない。
ルークもまた、自分自身と向き合う厳しい修行の入口に立っていることを。
こうして、レインは剣の基礎を、ルークは心の基礎を、それぞれ学び始めるのだった。