ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
時は流れた。
レインとルークがシモツキ村へやって来てから半年。
季節はすっかり移り変わり、道場の周囲の景色も少しずつ変化していた。
しかし変わったのは景色だけではない。
二人自身もまた、大きく成長していた。
朝、まだ日が昇りきる前、一心道場には既に木刀を振る音が響いていた。
シュッ。
シュッ。
シュッ。
規則正しく木刀を振る少年がいる。
レインだった。
半年前、素振り千回で腕が上がらなくなり、歓迎会では箸すらまともに持てなかった少年はもういない。
今では毎日の素振りが完全に習慣となっていた。
千回。
二千回。
その程度なら平然とこなしてしまう。
最初は退屈だった基礎も、今では当たり前になっている。
コウシロウから学んだ型。
足運び。
体重移動。
呼吸。
剣術の基礎。
その全てが少しずつ体へ染み込んでいた。
もちろん修行は剣だけではない。
レインとルークは毎日瞑想も続けていた。
最初は集中することすら難しかった。
雑念ばかり浮かぶ。
工房のこと。
故郷のこと。
商会のこと。
様々な考えが頭を埋め尽くした。
だが半年も続けると変わる。
呼吸を整える。
心を落ち着ける。
周囲を感じる。
そういったことが自然に出来るようになっていた。
さらに二人は道場の外でも様々なことを学んでいた。
シモツキ村の農家の手伝いである。
最初は人手不足だからという理由だった。
だがレインはすぐに興味を持った。
畑の作り方、
作物の育て方、
土の管理、
水の流れ、
季節ごとの違い、
知らないことばかりだった。
前世でも農業に関わったことはほとんどない。
当然、この世界でも同じだ。
「勉強になりますね」
汗を流しながらレインが言う。
農家のおじさんが笑った。
「船大工が農業か」
「いつか役に立つかもしれませんから」
レインは真面目に答える。
実際、そう思っていた。
将来どこかの島を開発することになるかもしれない。
会社を大きくするかもしれない。
知識は多い方が良い。
それがレインの考えだった。
ルークも隣で頷いていた。
彼もまた様々なことを吸収していた。
そして、半年間の積み重ねは確かな成果となって現れ始める。
特に変化が大きかったのはルークだった。
ある日の朝、いつものように瞑想を行っていた時のこと…
目を閉じる。
呼吸を整える。
心を静める。
すると突然、誰かが近付いてくる感覚を覚えた。
足音は聞こえない。
それでも分かる。
後ろから人が来る。
その瞬間だった。
頭の中へ映像が浮かんだ。
年配の門下生が肩へ手を伸ばしている。
ほんの一瞬の光景。
次の瞬間、実際に肩へ手が伸びてきた。
ルークは反射的に振り返る。
「おお」
門下生が驚いた。
「気付きましたか」
ルーク自身も驚いていた。
何が起きたのか分からない。
だが確かに見えた。
ほんの一瞬先、未来視というほどでもないが、それでも確かに見えたのだ。
その話を聞いたコウシロウは静かに頷いた。
「見聞色が研ぎ澄まされていますね」
「見聞色?」
「元々持っていた見聞色の感覚が研ぎ澄まされたのでしょう」
ルークは目を瞬かせた。
そう言われて思い返す。
確かに昔から勘は良かった。
危険を察知する。
誰かの視線に気付く。
物音に敏感だった。
だがそれを特別なものだと思ったことはない。
「瞑想によって自覚できるようになったのです」
コウシロウはそう説明した。
それからルークの見聞色は急速に成長していく。
人の気配。
感情。
敵意。
殺気。
そういったものを以前より遥かに鮮明に感じ取れるようになった。
そして時折、ほんの少し先の未来まで見えることがあった。
まだ未熟だ。
未来視と呼べるほどではない。
だが確かにその入口へ足を踏み入れていた。
レインもその成長には驚いた。
「お前すごくないか?」
「俺もびっくりしてます」
ルークは苦笑する。
だがレインにも大きな成長があった。
剣術である。
半年間ひたすら基礎を積み重ねた。
素振り。
型。
足運び。
呼吸。
地味な修行ばかりだった。
しかし、その積み重ねは確実に実を結んでいた。
そして事件は起きる。
その日もレインは素振りをしていた。
特に何かを意識したわけではない。
ただ自然に振った。
今までで一番気持ち良く振れた。
力みもない。
理想的な一振りだった。
その瞬間、
ブォンッ!!
空気が震えた。
次の瞬間、少し離れた場所にあった木へ一本の線が走る。
ズズズッ……
木が傾く。
そして、
ドォォォォン!!
盛大な音を立てて倒れた。
道場中が静まり返る。
レインも固まった。
ルークも固まった。
門下生たちも固まった。
「あ……」
嫌な予感がした。
ゆっくり振り返る。
そこには、笑顔のコウシロウが立っていた。
とても優しい笑顔だった。
だが目だけが笑っていない。
「レイン君」
「はい」
「説明をお願いします」
「飛ぶ斬撃……ですかね?」
「でしょうね」
優しい声だった。
だからこそ怖かった。
その後、人生でもトップクラスに長い説教を受けた。
結果...飛ぶ斬撃は一心道場で禁止となった。
「絶対に使わないでください」
「はい」
「絶対ですよ?」
「はい」
「木を切らないでください」
「はい……」
レインは深く反省した。
もっとも、ルークはその後三日ほど笑い続けた。
「社長」
「何だ」
「飛ぶ斬撃で先生に怒られる人、初めて見ました」
「うるさい」
そう言いながらもレインは少し嬉しかった。
飛ぶ斬撃。
それは確かな成長の証だったからだ。
半年……長いようで短い時間だった。
だが二人は確実に前へ進んでいる。
そんな二人を見つめながら、コウシロウは静かに微笑んでいた。
一年後が楽しみです。
かつて口にした言葉は、どうやら間違いではなかったらしい。