ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
シモツキ村を出てからしばらくが経った。
雨神は東の海を順調に航海している。
天候は穏やか。
風向きも良い。
食料も十分。
シモツキ村でもらった野菜や果物のおかげで食事事情はむしろ豪華になっていた。
「農家のおじさんたち、本当に積み過ぎですよね」
ルークがリンゴを齧りながら言う。
「助かってるから文句言えないけどな」
レインは苦笑した。
船倉にはまだ大量の野菜が残っている。
当分食料に困ることはなさそうだった。
だが、レインには別の悩みがあった。
船首に座り、海を眺める。
静かな海だった。
平和。
あまりにも平和。
「暇だ……」
思わず呟く。
東の海へ戻ってから何度か海賊にも遭遇した。
もちろん見逃してはいない。
賞金首なら捕まえた。
海軍へ引き渡した。
懸賞金も稼いだ。
だが、弱い。
とにかく弱い。
レインは思い返す。
先週遭遇した海賊団。
船長の懸賞金は三百万ベリー。
部下たちはもっと低い。
戦ってみれば、正直なところ話にならなかった。
レインが出るまでもなくルークだけで片付いてしまった。
その前の海賊団も似たようなものだ。
さらにその前も...
結局、一年間の修行があまりにも効果的だったのである。
コウシロウとの修行。
毎日の鍛錬。
飛ぶ斬撃。
見聞色。
瞑想。
農作業による体力作り。
それら全てが積み重なった結果。
東の海では相手がいなくなってしまった。
「社長」
後ろから声がした。
ルークだった。
「何考えてるんですか?」
「別に」
「絶対嘘です」
即答だった。
レインは視線を逸らす。
ルークが怪訝そうな顔になる。
最近のルークは厄介だった。
本当に厄介だった。
見聞色が成長したせいか。
妙に勘が鋭い。
いや、元々鋭かったが、最近はさらに磨きがかかっている。
何かを企んでいると大体バレる。
「何も考えてない」
「社長」
「何だ」
「俺を誰だと思ってるんですか」
嫌な予感がした。
ルークはじっとレインを見つめる。
数秒。
そして、大きくため息を吐いた。
「駄目ですからね」
「何がだ?」
「グランドラインです」
レインの動きが止まった。
「……」
「図星ですね」
ルークが頭を抱えた。
やっぱりだった。
絶対そうだと思っていた。
最近のレインは海賊を倒した後、妙に物足りなさそうな顔をしている。
退屈そうにしている。
そして今、一人で海を眺めている。
答えは一つしかない。
「だってさ」
レインが口を開く。
「東の海に敵いないんだもん」
「十四歳ですよね?」
「十四歳だな」
「子供ですよね?」
「世間的にはな」
「じゃあ何でグランドライン行こうとしてるんですか!」
ルークのツッコミが響く。
レインは少し不満そうだった。
「いやでもさ」
「グランドラインって強い奴いっぱいいるじゃん」
「だからです!」
ルークは即答した。
強い奴がいる。
だから行く。
そんな理由で行って良い海ではない。
あそこは魔境だ。
海王類。
異常気象。
賞金首。
海賊。
海軍。
何もかもが危険。
少なくとも今行く場所ではない。
「大丈夫だって」
「全然大丈夫じゃないです」
「船もあるし」
「それも駄目です」
「俺強いし」
「それが一番危険です」
ルークの反論が早い。
もはや慣れたものだった。
レインは頬を掻く。
正直、本気で少し考えていた。
グランドライン。
偉大なる航路。
世界の中心。
今なら何とかなるのではないか。
そんな考えが頭をよぎっていた。
だが、
「見聞色のお陰でレインさんが考えること、前より読めるようになったんですよ」
ルークがじと目で言う。
「怖っ」
「怖いのは社長です」
即答だった。
「今も考えてましたよね?」
「少しだけ」
「少しじゃないですよね?」
「ちょっとだけ」
「絶対嘘です」
レインは笑って誤魔化した。
ルークは頭痛がしてきた。
この人は本当に懲りない。
強くなればもっと強い相手を探す。
それは良い。
だが限度がある。
「とにかく」
ルークは真剣な顔になった。
「グランドラインなんか行きませんからね」
「……」
「聞いてますか?」
「聞いてる」
「本当に?」
「聞いてるって」
レインは苦笑する。
だが内心では少し感心していた。
ルークも強くなった。
剣ではない。
武道でもない。
精神的にだ。
昔ならここまで強く反対できなかっただろう。
今は違う。
しっかり自分の意見を言う。
それは大きな成長だった。
「分かったよ」
レインは両手を上げた。
「しばらくは東の海を回る」
「しばらくじゃなくて数年です」
「長いなぁ……」
「普通です」
ルークは真顔だった。
レインは空を見上げる。
青い空。
穏やかな海。
確かに今はまだその時ではないのかもしれない。
だが、いつか必ず行く。
グランドラインへ。
その決意だけは変わらなかった。
もっとも。
その考えも。
見聞色が鋭くなったルークには何となく伝わっていた。
「絶対諦めてないですよね」
「何のことかな」
「はぁ……」
ルークは深いため息を吐いた。
東の海は今日も平和だった。
そして、雨神の船上もまた、今日も平和なのであった。