ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
穏やかな航海が続いていた。
シモツキ村を出てから数週間、雨神は東の海をゆっくりと進んでいる。
その日も快晴だった。
海は穏やかで、風も心地良い。
レインは船首で昼寝をしていた。
ルークは船舵を握っている。
平和だった。
実に平和だった。
そんな時だった。
「クワーッ!」
空から聞き慣れた鳴き声が響く。
ルークが顔を上げた。
「あ」
レインも目を開く。
空を飛んでいたのはニュース・クーだった。
新聞を届ける世界経済新聞社の配達鳥である。
「久し振りですね」
ルークが言う。
そういえばシモツキ村にいた一年間は、ほとんど新聞を読んでいなかった。
たまに村へ届くものを見る程度だったのだ。
レインは財布を取り出した。
「一部くれ」
ニュース・クーが器用に新聞を落とす。
代金を受け取ると満足そうに飛び去っていった。
レインは早速新聞を開く。
そして次の瞬間、目を見開いた。
「お?」
「どうしたんですか?」
ルークも覗き込む。
そこには大きな見出しが載っていた。
『激突!!』
『白ひげ海賊団 VS ロジャー海賊団!!』
『三日三晩続いた伝説の戦い!!』
二人は思わず固まった。
さらに記事を読み進める。
そこには信じられない内容が書かれていた。
「おいおい……」
レインが笑う。
「本当にやったのか」
記事によれば、
世界最強の男。
白ひげことエドワード・ニューゲート。
そして海賊王候補筆頭。
ゴール・D・ロジャー。
二つの海賊団が激突。
その戦いは三日三晩続いたという。
さらに、
「え?」
ルークが声を上げた。
「何ですかこれ」
記事の中央を指差す。
そこには別の大ニュースが載っていた。
『ワノ国の侍、光月おでん』
『ロジャー海賊団へ加入!!』
ルークの口がぽかんと開く。
完全に固まっていた。
「え?」
「え?」
「白ひげ海賊団から移籍?」
「そんなことあるんですか?」
世界最強クラスの海賊団から別の海賊団へ移籍。
意味が分からない。
しかも記事によれば、ロジャーが直接勧誘したらしい。
ルークの頭は混乱していた。
一方、レインは違った。
新聞を見ながら口角を上げている。
「もうそんな時期か」
小さく呟く。
前世の知識がある。
だから分かる。
ロジャーが最後の航海へ向かう時期が近付いていることを。
そして、ラフテルへ辿り着く日も、そう遠くないことを。
歴史が動き始めている。
そんな感覚があった。
「社長?」
ルークが怪訝そうに尋ねる。
レインは記事を見つめたまま笑った。
「いや」
「ロジャーも白ひげも、おでんも」
「凄い面子だなと思って」
それは本音だった。
今の自分でも。
あの三人と戦えばどうなるのか分からない。
むしろ負ける可能性の方が高いだろう。
だが、だからこそ、面白い。
「戦ってみたいな」
ぽつりと呟く。
その瞬間、船上の空気が凍った。
ルークがゆっくり振り返る。
嫌な予感しかしない。
レインは新聞を読みながら続けた。
「ロジャー」
「白ひげ」
「おでん」
「今の俺がどこまで通用するか興味あるな」
笑顔だった。
完全に戦闘狂の顔だった。
ルークは頭を抱えた。
そして叫ぶ。
「行きませんよ!!」
海へ向かって声が響く。
レインが顔をしかめる。
「まだ何も言ってない」
「絶対言うつもりでしたよね!?」
「少しだけ」
「少しじゃないです!」
ルークは断言した。
分かる。
八年以上一緒にいるのだ。
この人の思考回路は嫌というほど知っている。
強い相手の話を聞く。
戦いたくなる。
会いに行こうとする。
いつもの流れだ。
「だってロジャーだぞ?」
「知ってます!」
「白ひげだぞ?」
「知ってます!」
「おでんだぞ?」
「知ってます!」
「会いたくない?」
「会いたくないです!」
即答だった。
レインは少し残念そうだった。
だがルークは譲らない。
「そもそも東の海とグランドラインです!」
「遠いです!」
「危険です!」
「却下です!」
完璧な反論だった。
レインは肩を竦める。
「冗談だって」
「嘘ですね」
「いや本当に」
「嘘です」
即答だった。
レインは笑う。
ルークはため息を吐く。
そして新聞を見つめた。
世界が動いている。
ロジャー。
白ひげ。
おでん。
そんな伝説級の人物たちが動き始めた。
だが、今の自分たちは東の海だ。
まだその舞台へ立つ時ではない。
「社長」
「何だ?」
「絶対勝手にグランドライン行かないでくださいね」
「分かってるよ」
「本当ですか?」
「多分」
「分かってないじゃないですか!」
再びルークの叫び声が響く。
その声を聞きながらレインは笑った。
世界は動いている。
そして自分たちもまた。
いつかその大きな流れへ飛び込むことになる。
そんな予感を胸に抱きながら、雨神は今日も東の海を進み続けるのだった。