ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第十八話 「独学という魔法の言葉」

 

ルークがレイン工房へ入ってから一か月が経とうとしていた。

 

最初の頃と比べると成長は目覚ましい。

 

木材を運んで転ぶことも減った。

 

工具を落とす回数も減った。

 

釘を曲げる回数も――減った。

 

減っただけで無くなってはいない。

 

そのため父親からは、

 

「成長したな」

 

ではなく、

 

「前よりマシになったな」

 

と言われていた。

 

ルークは少し不満そうだった。

 

今日も工房は忙しい。

 

父親は木材を加工している。

 

ルークは工具の手入れ。

 

レインは机で設計図を書いていた。

 

いつもの光景だった。

 

カリカリと鉛筆が紙を走る音。

 

金槌の音。

 

木材を削る音。

 

工房の中には独特の心地良い空気が流れている。

 

ルークは工具を磨きながらレインを見る。

 

最近ずっと気になっていることがあった。

 

いや、最近ではない、工房へ入った時からだ。

 

だが聞く勇気がなかった。

 

しかし、今日は聞こうと思った。

 

「レインさん」

 

レインが顔を上げる。

 

「ん?」

 

ルークは少し迷う。

 

だが意を決した。

 

「前から気になってたんですけど」

 

レインが嫌な予感を覚えた。

 

父親も何となく察したらしい。

 

面白そうにこちらを見ている。

 

絶対ろくなことにならない。

 

「なんでそんなに何でもできるんですか?」

 

工房が静まり返った。

 

レインは瞬きをする。

 

父親は吹き出した。

 

ルークは真剣だった。

 

「何でも?」

 

「はい!」

 

ルークは勢いよく頷く。

 

「設計できますよね?」

 

「まぁ」

 

「発明もしますよね?」

 

「まぁ」

 

「商売もできますよね?」

 

「まぁ」

 

「見積書も作れますよね?」

 

「まぁ」

 

「六歳ですよね?」

 

「最後余計だな」

 

レインは即座に返した。

 

父親は笑いを堪えている。

 

ルークは本気だった。

 

最初は天才なのだと思った。

 

だが。

 

一か月見てきて分かった。

 

天才で済む話ではない。

 

まず設計図。

 

父親でも感心するような図面を描く。

 

営業もする。

 

商売もする。

 

工房運営もする。

 

発明もする。

 

それなのに六歳。

 

意味が分からない。

 

ルークは父親を見る。

 

「親方は知ってるんですよね?」

 

父親が首を横に振る。

 

「知らん」

 

「え?」

 

ルークが固まった。

 

父親は真顔だった。

 

「俺も知らん」

 

「いやいやいや!」

 

ルークが慌てる。

 

「息子ですよね!?」

 

「息子だぞ」

 

「じゃあなんで!?」

 

父親は腕を組んだ。

 

そして遠い目をする。

 

「気付いたらこうなってた」

 

ルークは頭を抱えた。

 

「絶対おかしいじゃないですか!」

 

ルークの叫びが工房へ響く。

 

レインは少し傷付いた。

 

「失礼だな」

 

「失礼じゃないです!」

 

ルークは止まらない。

 

「六歳で工房作る人いません!」

 

「そうかな」

 

「いません!」

 

「そうかな」

 

「いません!!」

 

父親は腹を抱えて笑っていた。

 

ルークはさらに追及する。

 

「誰に教わったんですか!?」

 

レインは答える。

 

「独学」

 

ルークが固まった。

 

数秒後…

 

工房中へ叫び声が響く。

 

「またそれだぁぁぁ!!」

 

父親が笑う。

 

「俺も毎回それ言われる」

 

ルークが振り返る。

 

「親方も信じてないんですか!?」

 

「信じてない」

 

即答だった。

 

レインはさらに傷付いた。

 

「父さんまで」

 

「だって怪しいだろ」

 

父親は真顔だった。

 

「六歳が営業覚えるか?」

 

「覚えるかもしれない」

 

「見積書作るか?」

 

「作るかもしれない」

 

「発明するか?」

 

「するかもしれない」

 

父親は頷く。

 

「全部まとめてやる六歳はいない」

 

ルークも頷く。

 

「いません!」

 

二人の意見が一致した。

 

レインだけが孤立した。

 

「なんなんですかこの人!?」

 

ルークが頭を抱える。

 

父親が笑う。

 

「俺もそう思う」

 

「親方まで!?」

 

「だって本当に分からん」

 

父親は真面目な顔だった。

 

レインが幼い頃。

 

突然滑車を作った。

 

突然設計図を書いた。

 

突然商売を始めた。

 

父親自身も未だに理解していない。

 

レインはため息を吐く。

 

「そんなに変かな」

 

父親とルークが同時に答えた。

 

「変だ」

 

息ぴったりだった。

 

その日の帰り道。

 

ルークは家へ向かっていた。

 

夕焼けが港を赤く染めている。

 

頭の中では昼間の会話がぐるぐる回っていた。

 

設計。

 

発明。

 

商売。

 

工房。

 

そして六歳。

 

何度考えてもおかしい。

 

家へ帰る。

 

扉を開ける。

 

すると母親が顔を出した。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

母親はすぐに気付いた。

 

「どうしたの?」

 

「何が?」

 

「難しい顔してる」

 

ルークは少し考えた。

 

そして言った。

 

「母さん」

 

「うん?」

 

「レインさん絶対おかしい」

 

母親が吹き出した。

 

「何があったの?」

 

ルークは説明する。

 

工房のこと。

 

設計のこと。

 

発明のこと。

 

商売のこと。

 

そして六歳であること。

 

全部説明した。

 

母親は最後まで聞いていた。

 

そして笑った。

 

「凄い子なのね」

 

「凄いじゃ済まないよ!」

 

ルークは叫ぶ。

 

「怖いよ!」

 

母親はさらに笑った。

 

その頃。

 

レイン工房。

 

父親は作業を終えながら呟いた。

 

「なぁレイン」

 

「何?」

 

「お前本当に何者なんだ?」

 

レインは少し考えた。

 

そして答える。

 

「レインだけど?」

 

父親は天を仰いだ。

 

「やっぱり分からん」

 

夜風が吹く。

 

港の灯りが揺れる。

 

ルークは思う。

 

やっぱりこの親子はおかしい。

 

父親は思う。

 

やっぱりこの息子はおかしい。

 

そしてレインだけが思っていた。

 

(なんで二人ともそんな顔してるんだろう)

 

レイン工房の夜は今日も平和だった。

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