ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
その頃――グランドライン。
ロジャー海賊団の船、オーロ・ジャクソン号では宴が開かれていた。
白ひげ海賊団との激突を終えたばかりだというのに、船員たちは元気そのものだった。
酒を飲む者。
歌う者。
騒ぐ者。
笑う者。
船中に賑やかな声が響いている。
その中心には、もちろんロジャーがいた。
「ガハハハハ!」
豪快な笑い声が夜空へ響く。
病に侵されているとは思えないほど元気だった。
だが、長年共に旅をしてきたレイリーやギャバンは知っている。
ロジャーに残された時間が、決して長くないことを。
宴もひと段落した頃、ロジャーは酒瓶を片手に甲板へ腰を下ろした。
潮風が吹く。
静かな海だった。
そこへ近付いてきたのは、光月おでんだった。
「ロジャー」
「ん?」
「何を考えておる?」
おでんは興味深そうに尋ねる。
ロジャーはニヤリと笑った。
「面白いことだ」
その笑顔を見て、おでんも笑う。
この男がこういう顔をする時は、大抵ろくでもない。
だが、大抵面白い。
だから困る。
「おでん」
「何だ?」
「実はな、東の海の端の方に面白い少年がいるんだ」
その言葉に、おでんは眉を上げた。
「少年?」
「ああ」
ロジャーは頷き、どこか懐かしそうな顔をした。
「一年前に会ったんだが、あいつは変な奴だった」
「初対面で俺の本名を見抜きやがった」
おでんの目が見開かれる。
「本名?」
「ああ」
ロジャーは笑った。
「世間じゃ、ゴールド・ロジャーで通っているだろ?」
「だが、あいつは最初からゴール・D・ロジャーと言いやがった」
おでんの表情が変わる。
Dの名。
それは世界政府が意図的に隠している名前だ。
知る者は限られている。
まして、東の海の少年が知っているなど普通ではない。
「ほう……」
おでんは興味深そうに腕を組んだ。
「面白いだろ?」
「確かにな」
ロジャーは楽しそうに笑う。
「あいつはな、俺が海賊王になるとも言いやがった」
「ガハハハハ!」
思い出しただけで笑えるらしい。
近くで聞いていたレイリーが苦笑する。
あの時のことは今でも覚えている。
レインという少年。
異常なほど聡く、異常なほど落ち着いていた。
子供とは思えなかった。
「それだけじゃない」
ロジャーの目が少し真剣になる。
「誰にも言うなと言われたんだがな」
おでんの表情も引き締まった。
ロジャーが秘密を話す時は、重要な話だ。
「その島には、ポーネグリフがある」
空気が変わる。
おでんの目が鋭くなった。
「何だと?」
「しかも、その少年の一族は代々、そのポーネグリフを守っているらしい」
おでんは目を見開いた。
「守っている?」
「ああ」
ロジャーは頷く。
「詳しくは聞いていない」
「だが、先祖代々受け継がれてきた役目らしい」
おでんは考え込む。
ポーネグリフ。
それを守る一族。
偶然とは思えない。
「読めるのか?」
「いや」
ロジャーは首を振る。
「少なくとも、俺が会った時は読めなかった」
「だが、何か知っている」
「そんな気がするんだ」
おでんは静かに空を見上げた。
ポーネグリフを読むことができるのは光月家。
それは確信している。
だが、守る者がいてもおかしくはない。
むしろ、八百年もの間残り続けたことを考えれば、どこかで誰かが守っていたはずだ。
興味が湧く。
非常に湧く。
「だからな」
ロジャーが言った。
「もう一度、会っておきたいんだ」
おでんはロジャーを見る。
その表情は、いつもの豪快な海賊のものではなかった。
どこかに焦りがある。
残された時間を知る男の顔だった。
「もう、俺も長くない」
静かな声だった。
誰も茶化さない。
レイリーも。
ギャバンも。
おでんも。
皆、知っている。
だからこそ、この男が最後の航海へ懸ける想いも。
「行くか?」
ロジャーが笑う。
「東の海へ」
おでんは数秒考えた。
そして、豪快に笑った。
「当然だろう!」
即答だった。
「そんな面白そうな話を聞いて、行かぬ理由があるか!」
ロジャーも大笑いする。
「ガハハハハ!」
「そうだろう!」
近くで聞いていたギャバンが頭を掻いた。
「また面倒事が増えそうだな」
「間違いない」
レイリーも苦笑する。
だが、二人とも少し楽しみだった。
あの少年は今、どうしているのか。
一年前ですら異常だった。
それからさらに一年が経ったのだ。
まともな成長をしているとは思えない。
ロジャーは満面の笑みを浮かべる。
「待ってろよ、レイン」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
東の海のとある小さな島。
そして、グランドライン。
本来なら交わるはずのない二つの航路が、再び交差しようとしていた。
運命の歯車は、静かに動き始めている。
それが世界を揺るがす旅の始まりになることを、まだ誰も知らなかった。