ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ロジャー海賊団来訪。
その知らせは、あっという間に島中へ広がった。
当然である。
世界最高峰の海賊団が、東の海の小さな島へ再びやって来たのだ。
島民たちは仕事どころではなかった。
「本当にロジャーだったぞ……」
「レイリーもいた……」
「おい、あの大男がおでんじゃないか?」
「新聞で見たぞ……」
「何でそんな奴らが、またうちの島に来るんだ……」
皆、不安そうに囁き合っていた。
一方、当の本人たちは気にした様子もない。
レインの家では大騒ぎになっていた。
母は朝から落ち着かない。
何度もお茶を淹れ直している。
「レイン!」
「何?」
「お茶、これで大丈夫かな!?」
「大丈夫だと思う」
「本当に!?」
「多分」
「多分って何よ!」
母は頭を抱えた。
海賊王候補が家にいるのだ。
落ち着けと言う方が無理だった。
居間では、ロジャーが豪快に笑っている。
「ガハハハハ!」
「良い家だな!」
「何だか落ち着くぞ!」
レイリーは苦笑しながらお茶を飲む。
ギャバンは父と工房の話をしていた。
おでんは窓の外を眺めている。
「あの畑は誰が作った?」
「レインです」
「ほう!」
「面白いな!」
相変わらずだった。
そんな騒がしい時間が流れた後。
日が沈み始めた頃、父がレインへ声を掛けた。
「少し来い」
真面目な声だった。
レインは頷く。
二人は家を出た。
向かった先は工房だった。
一年以上前まで、毎日のように通っていた場所。
夕暮れの工房は、どこか懐かしかった。
父はしばらく無言だった。
工房の中を見渡す。
そして、ぽつりと呟いた。
「まさか、ロジャー海賊団を連れて帰ってくるとは思わなかった」
レインは苦笑した。
「俺も思ってなかった」
それは本音だった。
ローグタウンへ行った理由は観光だ。
ロジャーの生まれた町を見てみたかっただけ。
まさか、本人と再会するとは思わなかった。
まして、ロジャーたちが自分に会いに来ていたなど、想像もしていなかった。
父も苦笑する。
「だろうな」
「お前の顔を見れば分かる」
しばらく沈黙が流れる。
工房の外からは、波の音が聞こえていた。
やがて、父が口を開く。
「改めて聞く」
「なぜ、ロジャー海賊団は来た?」
レインはローグタウンでの出来事を最初から話した。
ロジャーたちと再会したこと。
宴を開いたこと。
おでんがポーネグリフを読めること。
そして、ポーネグリフを見せてほしいと頼まれたこと。
父は黙って聞いていた。
最後まで聞き終えると、小さく息を吐く。
「なるほどな」
「筋は通っている」
少なくとも、無理やり奪いに来たわけではない。
それだけは分かった。
父は窓の外を見た。
夜空には星が輝いている。
そして、静かに尋ねた。
「お前はどうしたい?」
レインは目を見開いた。
予想していなかった言葉だった。
「俺が?」
「ああ」
父は頷く。
「今までなら俺が決めていた」
「だが、今回は違う」
レインは黙る。
父はゆっくりと続けた。
「気付けば、お前も十四歳だ」
「工房の社長でもある」
「一年以上島を離れ、自分の力で修行してきた」
「そして、ロジャーたちとも対等に話している」
父は少し笑った。
「もう、俺だけが決める話ではない」
その言葉は重かった。
レインは理解する。
父は今、自分を子供ではなく、一人の人間として見ている。
工房の跡取りではなく。
守られる存在でもなく。
共に決断する相手として。
レインはしばらく考えた。
そして、答える。
「見せても良いと思う」
父は何も言わない。
レインは続ける。
「ロジャーは秘密を守った」
「レイリーも信用できる」
「おでんなら、ポーネグリフを読める」
「それに――」
レインは少しだけ笑った。
「無理やり奪う気なら、とっくにできてる」
父も笑った。
確かに、その通りだ。
ロジャー海賊団なら、この島程度、力ずくでどうにでもできる。
それをしない。
だからこそ、信用できる。
しばらく沈黙が流れる。
やがて、父は大きく頷いた。
「俺も同意見だ」
レインの表情が少し緩む。
父は工房の壁に立て掛けられた工具を眺めた。
そして、静かに言う。
「なら、長老にも話そう」
レインが目を見開く。
長老。
島で最も信頼されている人物。
だが、ポーネグリフの存在だけは知らない。
「いいのか?」
「今だからだ」
父は即答した。
「ロジャーが来た」
「お前も十四歳になった」
「そして、俺もいつまでも生きられるわけじゃない」
その言葉に、レインは少し眉をひそめる。
父は笑った。
「何十年も先の話だ」
「そんな顔をするな」
レインも苦笑した。
「ならいい」
父は頷く。
そして、工房の扉へ向かった。
「明日の朝、長老を呼ぶ」
「そこで全て話そう」
レインも後に続く。
工房の外へ出る。
夜空には、無数の星が輝いていた。
その光を見上げながら、レインは思う。
明日、長老は驚くだろう。
そして、その先には一族が守り続けてきた秘密がある。
ポーネグリフ。
失われた歴史。
そして、ロジャーたちが求める答え。
長い間、地下に眠り続けてきた秘密が、少しずつ日の下へ現れようとしていた。