ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第十九話 「初めての給料」

 

ルークがレイン工房へ入ってから一か月が過ぎていた。

 

港には今日も潮風が吹いている。

 

工房の中では木材を削る音が響いていた。

 

カン、カン、カン。

 

金槌の音も混ざる。

 

以前なら父親一人で行っていた作業だ。

 

だが今は違う。

 

ルークがいる。

 

まだ見習いだ。

 

失敗も多い。

 

それでも確実に工房の一員になっていた。

 

「よし」

 

ルークが額の汗を拭う。

 

以前より動きが良くなっている。

 

工具の扱いも少しずつ慣れてきた。

 

レインは机からその様子を眺めていた。

 

やはり人は成長する。

 

それを見ているのは案外楽しい。

 

夕方…

 

工房の仕事が一段落した頃だった。

 

父親が帳簿を開いている。

 

最近の父親の日課だ。

 

工房を始めてからお金の管理も重要になった。

 

もっとも、数字を見るのは父親よりレインの方が得意だった。

 

「父さん」

 

「ん?」

 

「今月どうだった?」

 

父親は帳簿を見ながら答える。

 

「悪くない」

 

「黒字?」

 

「黒字だな」

 

レインは頷く。

 

依頼は増えている。

 

滑車の評判も良い。

 

港での信頼も少しずつ積み上がっている。

 

まだ小さな工房だ。

 

それでも確実に前へ進んでいた。

 

ルークは掃除をしながら話を聞いていた。

 

黒字という言葉の意味はよく分からない。

 

だが良い意味なのだろう。

 

二人とも機嫌が良かった。

 

すると、レインが言った。

 

「なら払おうか」

 

父親も頷く。

 

「あぁ」

 

ルークが首を傾げる。

 

「何をです?」

 

父親とレインが顔を見合わせた。

 

そして、父親が笑った。

 

「給料だ」

 

ルークは固まった。

 

数秒…完全に停止した。

 

レインが首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

「きゅ、給料?」

 

「うん」

 

「俺の?」

 

「ルーク以外誰がいるの?」

 

ルークの頭が追いつかなかった。

 

給料…

 

働いた人が貰うお金。

 

もちろん知っている。

 

父親も母親も働いている。

 

だが、自分が貰う側になるとは思っていなかった。

 

父親は引き出しを開けた。

 

小さな袋を取り出す。

 

そしてルークへ差し出した。

 

「ほら」

 

ルークは恐る恐る受け取る。

 

思ったより重かった。

 

袋の中を見る。

 

お金が入っている。

 

本物だ。

 

夢ではない。

 

「こんなに……」

 

思わず声が漏れる。

 

父親は笑った。

 

「働いた分だ」

 

「でも俺、まだ何もできないです」

 

「何もできない奴は毎朝誰より早く来ない」

 

父親はそう言った。

 

レインも頷く。

 

「掃除もしてるし」

 

「片付けもしてるし」

 

「荷物運びもしてる」

 

「ちゃんと働いてるよ」

 

ルークは何も言えなかった。

 

レインは前世を思い出していた。

 

初任給…

 

社会人になったばかりの頃。

 

決して多くはなかった。

 

それでも嬉しかった。

 

初めて自分の力で稼いだお金。

 

あの感覚は今でも覚えている。

 

だからこそ思う。

 

お金の価値は金額だけではない。

 

そこに込められた努力だ。

 

「胸張って受け取れ」

 

父親が言う。

 

ルークは袋を握りしめた。

 

そして深く頭を下げる。

 

「ありがとうございます!」

 

その声は少し震えていた。

 

帰り道、ルークは給料袋を何度も確認していた。

 

なくなっていないか。

 

本当にあるか。

 

何度も確かめる。

 

少し変な顔になっていたかもしれない。

 

それでも仕方なかった。

 

人生で初めて稼いだお金だ。

 

嬉しくないわけがない。

 

家へ帰る。

 

扉を開ける。

 

「ただいま!」

 

弟妹達が駆け寄ってくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「おかえりー!」

 

いつもの光景だ。

 

母親も奥から顔を出した。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

ルークは少し緊張していた。

 

そして、給料袋を取り出す。

 

母親へ差し出した。

 

「母さん」

 

「ん?」

 

「これ」

 

母親は受け取る。

 

中を見る。

 

そして固まった。

 

「え……」

 

ルークは少し照れながら言った。

 

「初めての給料」

 

静かになる。

 

弟妹達は意味が分かっていない。

 

だが、母親には分かった。

 

目の前にいる息子は十歳だ。

 

まだ子供だ。

 

それなのに。

 

働いて。

 

努力して。

 

初めて稼いだお金を持って帰ってきた。

 

母親の目が潤む。

 

「ありがとう」

 

その一言だった。

 

ルークは少し照れ臭そうに笑う。

 

「うん」

 

それ以上の言葉はいらなかった。

 

その日の夕食は少し豪華だった。

 

普段より肉が多い。

 

弟妹達は大喜びしている。

 

「お兄ちゃんすごい!」

 

「やったー!」

 

「ごちそう!」

 

ルークは少し誇らしかった。

 

家族が喜んでいる。

 

それだけで十分だった。

 

翌朝、まだ日も昇りきっていない時間。

 

工房の扉が開く。

 

父親が目を丸くした。

 

「早いな」

 

そこにいたのはルークだった。

 

いつもよりさらに早い。

 

レインも驚く。

 

「どうしたの?」

 

ルークは笑った。

 

昨日とは少し違う顔だった。

 

自信がある。

 

胸を張っている。

 

「今日からもっと頑張ります!」

 

父親とレインが顔を見合わせる。

 

「昨日何かあった?」

 

レインが聞く。

 

ルークは少し考える。

 

そして笑った。

 

「秘密です」

 

父親が吹き出した。

 

レインも笑う。

 

ルークは工具を手に取る。

 

工房の朝が始まる。

 

小さな工房。

 

まだ無名の工房。

 

それでも確実に前へ進んでいる。

 

レインはそんなルークの背中を見ながら思った。

 

人はお金のためだけに働くわけじゃない。

 

誰かのために頑張れるから強くなれる。

 

そしてルークには、その理由がちゃんとある。

 

だからきっと大丈夫だ。

 

レイン工房最初の仲間は、今日も誰よりも元気に働いていた。

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