ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百一話「第二区画」

 

地下遺跡の空気は張り詰めていた。

 

レインの手は古びた石壁に触れている。

 

冷たい。

 

何百年もの時を経た石の感触だった。

 

全員の視線が集まる。

 

ロジャー。

 

レイリー。

 

ギャバン。

 

おでん。

 

父。

 

長老。

 

ルーク。

 

誰も言葉を発しない。

 

先程まで空白の百年の記録を読んでいた。

 

ジョイボーイ。

 

巨大な王国。

 

二十の王国。

 

そして最後の希望。

 

その余韻がまだ残っている。

 

そんな中で見つかった新たな謎。

 

ヴェルク家の家紋。

 

そして隠し扉だった。

 

「どう思う?」

 

父が尋ねる。

 

レインは壁をじっと見つめた。

 

見聞色ではない。

 

覇気でもない。

 

船大工として培ってきた経験が違和感を訴えている。

 

「この壁だけ違います」

 

レインが言った。

 

「違う?」

 

ルークが首を傾げる。

 

レインは壁を指でなぞった。

 

「加工精度が微妙に違うんです」

 

「他の壁と繋ぎ目の処理が違う」

 

「普通なら気付かないくらい小さい差ですけど」

 

全員が壁を見る。

 

しかし分からない。

 

少なくともルークには全く分からなかった。

 

「いや、分かりません」

 

「だろうな」

 

レインは苦笑した。

 

するとレイリーが壁へ近付く。

 

しばらく観察した後、感心したように頷いた。

 

「なるほど」

 

「言われてみれば確かに不自然だ」

 

父も目を細める。

 

長老も壁へ近付く。

 

だが、やはり普通の人間には分かりにくい。

 

レイリーがレインを見る。

 

「よく気付いたな」

 

「職業病ですよ」

 

レインは肩を竦めた。

 

「船を作る時も構造を見ますから」

 

「少しでも違和感があると気になるんです」

 

ギャバンが感心したように頷く。

 

「なるほどな」

 

「俺だったら気付かなかった」

 

ロジャーも豪快に笑う。

 

「ガハハハ!」

 

「やっぱりお前は変なところを見るな!」

 

「褒めてます?」

 

「多分な!」

 

地下に笑い声が響いた。

 

その時だった。

 

レインの視線が壁の一角で止まる。

 

「……これだ」

 

全員がそちらを見る。

 

そこには小さな窪みがあった。

 

普通なら装飾の一部にしか見えない。

 

だが、レインは確信していた。

 

ポーネグリフの右下に刻まれていた家紋。

 

それと全く同じ形だった。

 

父が目を見開く。

 

「家紋か……」

 

長老も息を呑んだ。

 

レインはゆっくりと手を伸ばす。

 

そして窪みに触れた。

 

カチッ。

 

小さな音。

 

次の瞬間だった。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

地下全体が揺れた。

 

「動いた!」

 

ルークが叫ぶ。

 

巨大な石壁がゆっくりと横へ動き始める。

 

何百年。

 

いや八百年以上。

 

誰にも開かれることのなかった扉。

 

それが今、初めて動いていた。

 

ロジャーの顔が子供のように輝く。

 

「ガハハハハハ!!」

 

「最高じゃねぇか!」

 

「こんな冒険久しぶりだ!」

 

レイリーは呆れたように笑う。

 

「お前は本当に変わらんな」

 

おでんも興奮していた。

 

「おおお!」

 

「何があるんだ!?」

 

「早く見よう!」

 

ルークは頭を抱える。

 

「普通の人なら帰りますよね?」

 

「帰らん」

 

ロジャーが即答した。

 

「帰らんな」

 

レイリーも続く。

 

「ここまで来て帰る理由がない」

 

ギャバンも笑った。

 

「全くだ」

 

「知ってました」

 

ルークは諦めたように肩を落とした。

 

やがて、石壁が完全に開く。

 

そして、その先を見た全員が息を呑んだ。

 

そこは宝物庫ではなかった。

 

黄金もない。

 

宝石もない。

 

財宝もない。

 

代わりにあったのは――

 

一つの部屋だった。

 

まるで誰かが暮らしていたかのような空間。

 

木製の机。

 

椅子。

 

本棚。

 

壁に掛けられた地図。

 

棚に並ぶ巻物や資料。

 

不思議な光景だった。

 

八百年以上前の部屋とは思えない。

 

まるで昨日まで誰かが使っていたような雰囲気がある。

 

「これは……」

 

父が言葉を失う。

 

長老も固まっていた。

 

ロジャーでさえ笑顔を消している。

 

レイリーは静かに部屋を見渡した。

 

「研究室ではないな」

 

「書斎か」

 

ギャバンも頷く。

 

「誰かの私室に近い」

 

おでんは興味深そうに周囲を見回していた。

 

「こんなものまで残っているとはな……」

 

レインはゆっくり部屋へ足を踏み入れた。

 

不思議だった。

 

初めて来た場所なのに。

 

どこか懐かしい。

 

そんな感覚がある。

 

そして部屋の中央。

 

大きな机の上に一冊の本が置かれていた。

 

他の資料よりも明らかに目立つ。

 

まるで誰かが読んでほしいとでも言うように。

 

レインはそっと手を伸ばした。

 

本を持ち上げる。

 

表紙を見た瞬間。

 

全身に鳥肌が立った。

 

そこには文字が刻まれていた。

 

『ヴェルク・D・ルーメン』

 

地下に静寂が落ちる。

 

レインは息を呑んだ。

 

その名は知っている。

 

ヴェルク家の始祖。

 

ジョイボーイの友。

 

空白の百年を生き抜き、一族へ使命を託した男。

 

幼い頃から何度も聞かされてきた名前だった。

 

だが、その名が刻まれた日誌を実際に目にするのは初めてだった。

 

父も言葉を失っている。

 

長老も静かに表紙を見つめていた。

 

伝承として知っていた人物。

 

一族の歴史の中で語り継がれてきた英雄。

 

その本人が遺した記録が、今まさに目の前にある。

 

それは名前を知っているのとは全く違う重みを持っていた。

 

「ルーメン……」

 

父が静かに呟く。

 

その声には畏敬にも似た響きがあった。

 

ロジャーがゆっくり近付く。

 

レイリーも。

 

おでんも。

 

ギャバンも。

 

全員がその本を見つめていた。

 

レイリーが腕を組む。

 

「これが始まりの男か」

 

ギャバンも真剣な表情になる。

 

「八百年前の人間が遺した日誌か……」

 

おでんは興奮を隠し切れない様子だった。

 

「読めば空白の百年を生きた男の言葉が分かるということか」

 

ロジャーも珍しく笑わなかった。

 

その視線は静かに表紙へ向けられている。

 

まるで八百年前の人物と対面しているかのようだった。

 

レインはさらに視線を下へ向ける。

 

そして、もう一行の文字を見つけた。

 

『親友ジョイボーイへ』

 

おでんが息を呑む。

 

ギャバンも目を見開いた。

 

ロジャーの表情から笑みが消える。

 

それほど重い言葉だった。

 

レインはゆっくりと本を開こうとした。

 

その時。

 

一枚の紙が床へ落ちた。

 

ひらり。

 

静かに。

 

全員の視線が集まる。

 

レインは紙を拾い上げた。

 

そこには短い文章が書かれていた。

 

『もしこの部屋を見つけたのがヴェルクの子孫なら――』

 

そこで文章は終わっていた。

 

続きはない。

 

いや、正確には続きが別にあるのだろう。

 

レインの心臓が早鐘を打つ。

 

八百年の時を超えて届いた祖先からの言葉。

 

父も固まっていた。

 

長老も言葉を失っている。

 

ロジャーが小さく笑う。

 

「面白い」

 

その声はどこか楽しそうだった。

 

「八百年前の人間から手紙が届いた気分じゃ」

 

レイリーも頷く。

 

「続きを読まない理由はないな」

 

おでんは既に日誌を読む気満々だった。

 

ルークだけが頭を抱える。

 

「何で僕の人生こうなるんですかね……」

 

誰も答えなかった。

 

全員の視線は既に日誌へ向いている。

 

空白の百年を生きた男。

 

ジョイボーイの親友。

 

ヴェルク・D・ルーメン。

 

その人生が。

 

今、八百年の時を超えて語られようとしていた。

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