ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百二話「親友へ」

 

地下遺跡の第二区画は静寂に包まれていた。

 

ポーネグリフのさらに奥。

 

誰にも知られることなく八百年以上もの時を眠り続けていた書斎。

 

その中央で、レインは一冊の日誌を手にしていた。

 

表紙に刻まれている名前は――ヴェルク・D・ルーメン。

 

ヴェルク家の始祖。

 

ジョイボーイの親友。

 

そして空白の百年を生きた男。

 

その名自体は知っている。

 

幼い頃、父から地下の秘密を教えられた時に聞かされた名だ。

 

だが、実際に本人が遺した日誌を前にすると話は別だった。

 

父も長老も真剣な表情で日誌を見つめている。

 

ロジャーも。

 

レイリーも。

 

ギャバンも。

 

おでんも。

 

誰も軽口を叩かなかった。

 

この日誌が持つ価値を理解しているからだ。

 

レインはゆっくりと表紙を開いた。

 

古い紙の匂いが漂う。

 

そして最初のページ。

 

そこに記されていた文字を見た瞬間、その場にいた全員が息を呑んだ。

 

『親愛なる我が子孫たちへ』

 

『そして、もしジョイボーイがまだ生きているなら親友へ』

 

地下に沈黙が落ちた。

 

最初に口を開いたのはルークだった。

 

「いやいやいや……」

 

「流石に生きている訳ないですよね?」

 

「八百年前ですよ?」

 

当然の疑問だった。

 

しかし誰も即答しない。

 

ロジャーは顎に手を当てた。

 

レイリーは腕を組む。

 

おでんも難しい顔になっている。

 

「妙な書き方だな」

 

ロジャーが呟いた。

 

「死んだとは書いておらん」

 

「確かに」

 

レイリーも頷く。

 

「普通なら故人として扱うはずだ」

 

「まるで生きている可能性を残しているような文章だな」

 

答えは出ない。

 

だからこそ不気味だった。

 

レインは気持ちを切り替え、続きを読み進める。

 

『まず最初に言っておこう』

 

『この日誌を読んでいるということは、私たちは敗北したのだろう』

 

『私は未来を見る力など持っていない』

 

『だが、それくらいは分かる』

 

『勝者が歴史を書く』

 

『ならば、この日誌が残っている時点で私たちは負けたのだ』

 

『それでも私は書く』

 

『未来のために』

 

『親友との約束のために』

 

全員が静かに聞いていた。

 

レインには不思議な感覚があった。

 

八百年前の人物が語っているはずなのに、まるで目の前に本人がいるような感覚。

 

文字だけなのに、そこに確かな意志が宿っている。

 

レインはページをめくった。

 

すると文章の雰囲気が変わる。

 

『私の名はヴェルク・D・ルーメン』

 

『巨大な王国の船大工であり技術者だ』

 

『そして』

 

『世界一面倒臭い男の親友でもある』

 

沈黙。

 

そして、

 

「ぶはっ!」

 

ロジャーが吹き出した。

 

「ガハハハハハハ!!」

 

「何だこいつ!」

 

「面白ぇじゃねぇか!」

 

レイリーが額を押さえる。

 

「空白の百年の真実を知る男の自己紹介がそれか」

 

おでんも大笑いしていた。

 

「良いな!」

 

「好きだぞこういうの!」

 

ギャバンも笑みを浮かべる。

 

父と長老も思わず苦笑した。

 

レインも笑ってしまう。

 

どうやらルーメンという人物は堅苦しい偉人ではないらしい。

 

『初めて会った時から変な男だった』

 

『約束の時間に来ない』

 

『会議を抜け出す』

 

『勝手に冒険へ行く』

 

『王族なのに威厳がない』

 

『国民から怒られる』

 

『大臣から怒られる』

 

『私からも怒られる』

 

『それでも笑っている』

 

『今思えば最初から変わらなかった』

 

ロジャーの笑い声が響く。

 

「ガハハハハ!!」

 

「面白ぇ!」

 

「絶対面白ぇ奴だ!」

 

レイリーが横目で見る。

 

「どこかで聞いたような話だな」

 

「そうか?」

 

「そうだ」

 

即答だった。

 

ギャバンも頷く。

 

「誰かさんにそっくりだな」

 

全員の視線がロジャーへ向く。

 

「何じゃお前ら!」

 

「俺はちゃんとしておる!」

 

「どの口が言う」

 

レイリーの言葉に地下が笑いに包まれた。

 

レインも思わず笑う。

 

だが同時に思った。

 

似ている...

 

ジョイボーイはロジャーに似ている。

 

そしてきっとルフィにも。

 

時代が違っても、同じような人間が現れるのだろうか。

 

レインはさらに読み進める。

 

『ある日』

 

『私は工房で新型船の設計をしていた』

 

『風を読む帆』

 

『海流を読む舵』

 

『そしていつか空すら越えるための船』

 

『そんな夢を図面に描いていた時だ』

 

レインの目が止まる。

 

空を越える船。

 

それはまるで自分の夢と同じだった。

 

父も同じ部分に反応したらしい。

 

静かに日誌を見つめている。

 

『すると窓からあいつが入ってきた』

 

『普通に扉から入ればいいのに窓からだ』

 

『しかも二階から』

 

『意味が分からない』

 

『本当に意味が分からない』

 

地下に再び笑いが起こる。

 

おでんは腹を抱えていた。

 

「何故だ!」

 

「王だろう!?」

 

「本人に聞いてみたいですね」

 

ルークが呆れたように言う。

 

『ルーメン!』

 

『忙しい』

 

『冒険に行こう!』

 

『行かない』

 

『何故だ!』

 

『仕事だ』

 

『後でやればいい!』

 

『お前は王だろう』

 

『だから誘っている!』

 

『意味が分からない』

 

「ガハハハハハ!!」

 

ロジャーが大笑いする。

 

「最高じゃねぇか!」

 

レイリーは呆れていた。

 

「本当にお前みたいな男だな」

 

レインも苦笑する。

 

これではまるでロジャーと自分だ。

 

ルークも同じことを思ったらしい。

 

「社長」

 

「何だ」

 

「歴史は繰り返すんですね」

 

「否定できないな」

 

再び笑いが起きた。

 

しかし、ページを進めるにつれて文章の雰囲気が変わり始める。

 

軽さが消えていく。

 

楽しげだった文面に影が差していく。

 

レインは無意識に表情を引き締めた。

 

そして次のページを開く。

 

そこにはこう書かれていた。

 

『だが』

 

『そんなあいつが初めて笑わなくなった日がある』

 

地下の空気が変わった。

 

誰も笑わない。

 

ロジャーも真剣な表情になっている。

 

レイリーも腕を組んだまま黙っていた。

 

『私が生涯忘れることの出来ない日だ』

 

『あの日』

 

『世界は変わり始めた』

 

『そして』

 

『全ての悲劇が始まった』

 

レインの喉が鳴る。

 

ここから先が、空白の百年の始まり。

 

ジョイボーイと巨大な王国の運命を変えた瞬間。

 

歴史から消された真実。

 

八百年前の世界は、ここから闇の時代へ足を踏み入れる。

 

レインは静かに次のページへ手を伸ばした。

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