ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

203 / 205
第二百四話「開戦」

 

地下遺跡の第二区画。

 

誰も言葉を発さなかった。

 

『世界最大の戦争が始まった』

 

その一文の重みが、地下の空気を支配している。

 

空白の百年。

 

歴史から消された戦争。

 

世界政府誕生のきっかけとなった出来事。

 

その始まりが今、目の前にある。

 

レインは静かに息を吐いた。

 

そして次のページを開く。

 

紙が擦れる音だけが響く。

 

『私はその夜、一睡も出来なかった』

 

『ジョイボーイの言葉が頭から離れなかった』

 

『二十の王』

 

『世界最大の連合軍』

 

『巨大な王国の滅亡』

 

『あまりにも現実味がなかった』

 

『だが』

 

『ジョイボーイは本気だった』

 

『だから私も覚悟を決めた』

 

レインはゆっくりと読み進める。

 

全員が耳を傾けていた。

 

『翌朝』

 

『王都では緊急会議が開かれた』

 

『王』

 

『将軍』

 

『学者』

 

『技術者』

 

『そして各島の代表』

 

『巨大な王国の中枢が一堂に集まった』

 

地下の全員が、その光景を思い浮かべる。

 

かつて存在した巨大な王国。

 

今は名前すら消された国。

 

その中心で行われた会議。

 

歴史の分岐点だった。

 

『私は技術者代表として参加した』

 

『正直に言えば場違いだった』

 

『戦争の話など専門外だ』

 

『船なら造れる』

 

『武器も造れる』

 

『だが戦略など分からない』

 

『それでも呼ばれた』

 

『理由は単純だ』

 

『この戦争では技術力が必要だったからだ』

 

ギャバンが腕を組む。

 

レイリーも真剣な顔だ。

 

技術...

 

それは巨大な王国最大の強みだったのだろう。

 

『会議は荒れた』

 

『戦うべきだという者』

 

『話し合うべきだという者』

 

『今すぐ避難するべきだという者』

 

『様々な意見が飛び交った』

 

『だが』

 

『ジョイボーイは最後まで静かだった』

 

レインはページをめくる。

 

『全員の意見を聞き終えた後』

 

『ジョイボーイは立ち上がった』

 

『そして言った』

 

『俺は戦いたくない』

 

地下が静まり返る。

 

ロジャーも黙って聞いていた。

 

『私は少し安心した』

 

『やはりそうだと思った』

 

『あいつは戦争が嫌いだった』

 

『喧嘩はする』

 

『無茶もする』

 

『だが人を支配したいと思ったことは一度もない』

 

『だから戦争を望むはずがなかった』

 

『だが』

 

『次の言葉で全員が凍り付いた』

 

レインは無意識に唾を飲む。

 

そして続きを読んだ。

 

『だが』

 

『俺たちが降伏しても』

 

『あいつらは止まらない』

 

地下に重い沈黙が落ちる。

 

『自由を認めない奴らは』

 

『自由そのものを消そうとする』

 

『この王国だけじゃない』

 

『俺たちと繋がった島も』

 

『俺たちを信じた人々も』

 

『全部消される』

 

『だから戦う』

 

ルークが小さく息を呑んだ。

 

父も長老も険しい表情になっている。

 

『その時のジョイボーイは』

 

『私が知る誰よりも王だった』

 

『自由人でも』

 

『冒険家でもない』

 

『国を背負う王だった』

 

『そして』

 

『親友として辛かった』

 

『あいつは本当は戦いたくなかったからだ』

 

レインは黙って読み進める。

 

ルーメンの文章から、ジョイボーイへの深い理解が伝わってくる。

 

『会議終了後』

 

『私はあいつを呼び止めた』

 

『本当に戦うのか…と聞いた』

 

『すると、あいつは笑った』

 

『いつもの笑顔だった』

 

『そして言った』

 

『大丈夫だ』

 

『俺には仲間がいる』

 

地下の空気が少しだけ和らぐ。

 

ロジャーの口元が僅かに上がった。

 

『私は呆れた』

 

『世界最大の戦争が始まるというのに』

 

『あいつは相変わらずだった』

 

『だが』

 

『少し安心もした』

 

『笑っていたからだ』

 

『あいつが笑っている限り』

 

『きっと何とかなる』

 

『私は本気でそう思っていた』

 

ルーメンの文章はそこで一度途切れていた。

 

短い空白。

 

そして次の段落。

 

レインは続きを読み上げる。

 

『今思えば』

 

『私は何も分かっていなかった』

 

『戦争を甘く見ていた』

 

『二十の王を甘く見ていた』

 

『そして』

 

『世界の闇を理解していなかった』

 

地下の空気が再び重くなる。

 

『開戦から三ヶ月後』

 

『最初の島が滅んだ』

 

誰も動かなかった。

 

『開戦から半年後』

 

『二つ目の島が消えた』

 

レインは拳を握る。

 

『一年後』

 

『誰も笑わなくなった』

 

『二年後』

 

『私たちは敗北を理解し始めた』

 

ロジャーが静かに目を閉じる。

 

レイリーも表情を変えない。

 

だが二人とも、その言葉の重さを理解していた。

 

『そして』

 

『三年後』

 

『ジョイボーイは私に一つの頼み事をした』

 

地下にいた全員の視線が日誌へ集まる。

 

レインも息を呑んだ。

 

ここから先、物語はさらに核心へ近付いていく。

 

『ルーメン』

 

『もし俺が死んだら』

 

『未来へ残してくれ』

 

『俺たちが生きた証を』

 

『俺たちが夢見た世界を』

 

『そして』

 

『俺たちの希望を』

 

地下に沈黙が落ちる。

 

レインはそこで読むのを止めた。

 

誰も口を開かない。

 

ジョイボーイ。

 

巨大な王国。

 

そして希望。

 

全てが少しずつ繋がり始めていた。

 

レインは静かに次のページへ手を伸ばす。

 

その先には、ジョイボーイが託した本当の願い。

 

そしてポーネグリフが生まれる理由が記されているはずだった。

 

八百年前の真実は、さらに深い場所へと続いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。