ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百六話「東の果て」

 

地下遺跡の第二区画。

 

誰も口を開かなかった。

 

八百年前の真実。

 

ジョイボーイの願い。

 

そして、世界の全てを最後の島へ残したという事実。

 

その重みが地下の空気を支配していた。

 

レインは静かに次のページを開く。

 

紙が擦れる音だけが響いた。

 

『もし、その場所へ辿り着いた者がいるなら、どうか笑ってほしい。

 

悲しむ必要はない。怒る必要もない。

 

私たちは負けた。

 

だが、最後まで足掻いた。最後まで夢を見た。最後まで希望を捨てなかった。

 

だから笑ってほしい』

 

地下にいた全員が目を見開いた。

 

レインも思わず読み返しそうになる。

 

ロジャーの口元が僅かに上がった。

 

レイリーも静かに目を閉じる。

 

どこかで聞いたような言葉だった。

 

まるでジョイボーイ本人が語っているかのようだった。

 

『そして、どうか続きを見てほしい。

 

私たちが辿り着けなかった未来を、私たちの代わりに』

 

レインは静かに息を吐く。

 

八百年前。

 

ジョイボーイ達は未来へ託したのだ。

 

自分達では届かない未来を。

 

『ここから先は、私自身の話になる』

 

地下の空気が変わった。

 

今までの日誌はジョイボーイの話だった。

 

だが、ここからは違う。

 

ヴェルク・D・ルーメン自身の物語だ。

 

『最後の戦いの日。

 

私はあいつと共に最後の島へ向かった。

 

仲間達もいた。光月家も、王国の戦士達も、学者達も。

 

そして、最後まで諦めなかった者達がいた』

 

おでんが静かに日誌を見つめる。

 

光月家。

 

八百年前の祖先達。

 

彼らもそこにいたのだ。

 

『ジョイボーイは最後の力を振り絞った。

 

既に身体は限界だった。

 

傷だらけだった。

 

それでも立っていた。

 

それでも笑っていた』

 

地下に沈黙が落ちる。

 

ロジャーも黙ったままだ。

 

『そして、あいつは宝を残した。

 

夢を残した。

 

希望を残した。

 

未来への道標を残した。

 

全てを、最後の島へ』

 

レインの鼓動が速くなる。

 

ラフテル。

 

未来にそう呼ばれる島。

 

ジョイボーイの宝。

 

ワンピース。

 

その原点が今、語られている。

 

『全てを残し終えた後、ジョイボーイは笑った。

 

昔と同じ笑顔だった。

 

私は安心した。

 

終わったのだと思った。

 

だが、終わっていなかった』

 

レインは息を呑む。

 

『ジョイボーイは倒れた』

 

地下にいる全員が固まった。

 

『私は叫んだ。

 

皆が駆け寄った。

 

光月家も、戦士達も、仲間達も。

 

誰もが叫んだ。

 

だが、あいつは起きなかった』

 

静寂。

 

地下に沈黙だけが広がる。

 

『ジョイボーイは死んだ』

 

その一文は短かった。

 

だが、重かった。

 

誰も言葉を発さない。

 

ロジャーも。

 

レイリーも。

 

おでんも。

 

ルークも。

 

ただ静かに聞いていた。

 

『私は泣いた。

 

何日も。

 

何ヶ月も。

 

何年も。

 

泣いた。

 

親友を失った。

 

夢を失った。

 

未来を失った。

 

何もかも失った』

 

レインの胸が締め付けられる。

 

文章から伝わってくる。

 

ルーメンの絶望が。

 

『私は逃げた。

 

戦場から。

 

歴史から。

 

全てから。

 

親友のいない世界から』

 

父も長老も黙っていた。

 

誰もルーメンを責めることは出来ない。

 

それほどの喪失だった。

 

『私は一人だった。

 

私が造った船に乗った。

 

誰も乗せなかった。

 

乗せられなかった。

 

私は壊れていた』

 

地下の空気が重い。

 

八百年前の絶望が伝わってくる。

 

『どれだけ航海したか覚えていない。

 

何日だったか。

 

何ヶ月だったか。

 

何年だったか。

 

私はただ海を漂った。

 

生きている理由も分からなかった。

 

死ぬ理由も分からなかった』

 

レインは拳を握る。

 

今のヴェルク家があるのは、この男が生き残ったからだ。

 

『そして、私は東へ向かった。

 

ただひたすら東へ。

 

世界の果てへ。

 

誰も知らない場所へ。

 

歴史が届かない場所へ。

 

戦争が届かない場所へ。

 

世界政府が見つけられない場所へ』

 

ロジャーの目が細くなる。

 

レイリーも気付いた。

 

これは、今自分達がいる島の話だ。

 

『東の果て。

 

そのさらに果て。

 

そこに私は辿り着いた。

 

小さな島だった。

 

誰もいなかった。

 

ただ森があり、山があり、海があった。

 

私はその島を見た瞬間、ここだと思った』

 

レインは静かに息を呑む。

 

『ここなら守れる。

 

ここなら残せる。

 

ここなら未来まで届く。

 

そう思った』

 

地下遺跡の全員が周囲を見回した。

 

この島。

 

自分達が立っているこの場所。

 

ヴェルク家が八百年間守り続けた島。

 

その始まりが語られていた。

 

『だから私は決めた。

 

この島で生きることを。

 

この島で守ることを。

 

ジョイボーイとの約束を。

 

未来への希望を。

 

そして、いつか現れる誰かを待つことを』

 

レインはそこで読むのを止めた。

 

地下に長い沈黙が落ちる。

 

誰も動かなかった。

 

誰も言葉を発しなかった。

 

八百年前。

 

全てを失った男が辿り着いた島。

 

それが今、自分達の故郷になっている。

 

やがて、ロジャーが小さく笑った。

 

「そういうことか」

 

その声は静かだった。

 

「お前達の一族は、八百年間ずっと待っていたんじゃな」

 

レインは答えなかった。

 

答えられなかった。

 

日誌の続きを見れば分かる。

 

ルーメンが誰を待っていたのか。

 

ジョイボーイが託した本当の希望とは何だったのか。

 

その答えが、もうすぐそこまで迫っていた。

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