ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
地下遺跡の第二区画。
誰も口を開かなかった。
ジョイボーイの死。
プルトンの誕生。
ポセイドンという名の由来。
そしてリリィ王女。
八百年前の真実が次々と明らかになっていく。
レインは静かに次のページを見つめた。
そこには今までとは違う筆跡が刻まれている。
手紙が丁寧にそこに貼られていた。
レインはゆっくりと読み始める。
『ルーメンへ』
『そして』
『もしこの手紙を未来の誰かが読んでいるなら』
『どうか最後まで聞いてください』
地下に静寂が落ちる。
レインは続きを読んだ。
『ジョイボーイ』
『そしてルーメン』
『申し訳ありませんでした』
『わたくしは止められませんでした』
『わたくしは守れませんでした』
『わたくしは負けました』
おでんが静かに目を閉じる。
ロジャーも黙って聞いていた。
『二十の王は変わってしまいました』
『最初は違ったのです』
『皆が世界を良くしたいと思っていました』
『争いを無くしたいと思っていました』
『ですが』
『力は人を変えます』
『恐怖は人を変えます』
『そして』
『支配は人を狂わせます』
地下の空気が重くなる。
『巨大な王国はあまりにも眩しかった』
『あまりにも自由だった』
『だから彼らは恐れました』
『自由を』
『希望を』
『未来を』
『そして』
『ジョイボーイを』
レインは拳を握る。
ルーメンの日誌と同じだ。
結局、二十の王はジョイボーイを恐れたのだ。
『わたくしは反対しました』
『最後まで』
『最後の最後まで』
『ですが』
『止められませんでした』
『わたくし一人では足りなかった』
『本当に申し訳ありません』
地下に沈黙が落ちる。
誰も言葉を発しない。
『ですが』
『わたくしも最後まで諦めません』
『だから』
『最後の足掻きをしました』
ロジャーの目が細くなる。
レイリーも真剣な表情になった。
『ジョイボーイ達が残したポーネグリフ』
『本来なら一箇所に集められるはずでした』
『ですが』
『それでは未来が途絶えると思ったのです』
『だから』
『わたくしは世界中へ散らしました』
地下に衝撃が走る。
ルークが思わず声を上げそうになる。
レインも息を呑んだ。
『空へ』
『海の底へ』
『閉ざされた国へ』
『誰も辿り着けない場所へ』
『いつか』
『誰かが繋げてくれると信じて』
ロジャーが小さく笑った。
「ガハハ……」
その笑みには感心が混じっていた。
『恐らく』
『この手紙を読んでいる頃には』
『わたくしはもういません』
『ですが後悔はありません』
『ジョイボーイが信じた未来を』
『わたくしも信じているからです』
レインは静かに読み続ける。
『そして最後に』
『どうしても残したいことがあります』
地下の空気が張り詰めた。
レイリーも。
おでんも。
父も。
長老も。
全員が日誌へ視線を向ける。
『どうか』
『Dを忘れないでください』
その瞬間。
地下の空気が凍り付いた。
『Dは王ではありません』
『神でもありません』
『英雄でもありません』
『Dとは意志です』
『どれだけ敗北しても』
『どれだけ絶望しても』
『笑って未来へ進もうとする者達の意志』
『それがDです』
レインの鼓動が速くなる。
ヴェルク・D・ルーメン。
ネフェルタリ・D・リリィ。
そして、未来へ続くD。
『いつの日か』
『再び世界に希望が現れるでしょう』
『再び世界に自由が現れるでしょう』
『そして』
『再びDが立ち上がるでしょう』
地下の全員が息を呑む。
『その時』
『わたくし達の敗北は無駄ではなくなります』
『ジョイボーイも』
『ルーメンも』
『光月家も』
『皆が報われます』
『だから信じてください』
『未来を』
『希望を』
『そして』
『Dの意志を』
地下に沈黙が落ちた。
最後の一文が残されていた。
『ネフェルタリ・D・リリィ』
『未来に託します』
レインはそこで読むのを止めた。
誰も動かなかった。
誰も言葉を発さなかった。
八百年前。
世界を変えられなかった者達。
それでも未来を諦めなかった者達。
その想いが今、確かに届いたのだ。
やがて、ロジャーが静かに笑った。
「ガハハ……」
その笑顔はどこかジョイボーイを思わせた。
「なるほどな」
「だからDか」
レイリーも静かに頷く。
おでんは拳を握っていた。
父は目を閉じている。
長老は静かに涙を流していた。
そしてレインは、もう一度、リリィの最後の言葉を見つめた。
未来に託します。
八百年前から届いたその言葉は、確かに今、この時代へ届いていた。