ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌朝…
レインはまだ日が昇りきる前に目を覚ました。
机の上には昨夜見つけた地図が置かれている。
何度見ても気になる。
森の奥に記された赤い印。
そして裏面に残された文章。
『黒き泉を守れ』
『火を近付けるな』
『我らが繁栄の源である』
先祖達は何を残そうとしたのか。
なぜこんな文章を書いたのか。
答えは分からない。
だが、調べる価値はある。
レインはそう確信していた。
朝食の席、父親はパンを食べながら眠そうな顔をしていた。
母親はスープを運んでいる。
レインは黙って地図を広げた。
「父さん」
「ん?」
「これ見て」
父親が視線を落とす。
そして数秒後…
露骨に嫌そうな顔になった。
「またか」
「まただよ」
「嫌な予感しかしねぇ」
母親が苦笑する。
最近この親子のやり取りにも慣れてきた。
レインは地図を指差した。
「地下施設で見つけた」
「ほう」
「この場所に行きたい」
父親がため息を吐く。
「行くんじゃなくて行きたいなのか?」
「うん」
「つまり行くんだな」
「うん」
父親は頭を抱えた。
やはりこの息子は止まらない。
地図を見る。
森の奥深く。
確かに人が行かない場所だった。
島で生まれ育った父親ですら滅多に近付かない。
「黒き泉?」
「知らない?」
「聞いたこともない」
父親は首を横に振る。
「だが森の奥なんて誰も行かねぇ」
「危険だから?」
「それもある」
「それも?」
「獣もいるし道もない」
「何より何もない」
レインは少し考える。
何もない…本当にそうだろうか?
もし何もないなら、先祖達はなぜ印を残した?
ますます気になった。
昼前…
三人は森へ向かっていた。
もちろん、
父親。
レイン。
ルーク。
工房は臨時休業である。
ルークは朝から頭を抱えていた。
「本当に行くんですか……」
「行く」
「絶対危ないですよ」
「大丈夫」
「その大丈夫が一番怖いんです」
父親が頷く。
「分かる」
「親方もですか!?」
「毎回振り回されてる」
珍しく二人の意見が一致した。
レインは少し不満だった。
「酷くない?」
「事実です」
ルークが即答した。
森へ入る。
木々が空を覆っている。
昼間なのに薄暗い。
鳥の鳴き声。
虫の羽音。
風に揺れる葉の音。
人の気配はない。
ルークは少し緊張していた。
工房にいる時とは別世界だった。
「レインさん」
「ん?」
「本当に何かあると思います?」
レインは少し考える。
「分からない」
「分からないんですか!?」
「だから確かめるんだよ」
ルークが天を仰ぐ。
この人はいつもこうだ。
分からないからやる。
普通は逆だ。
父親も苦笑する。
「俺も昔から理解できん」
歩き続ける。
地図を確認する。
また歩く。
やがて、レインの足が止まった。
「着いた」
父親とルークも立ち止まる。
そこは小さな空間だった。
森に囲まれている。
だが、何かがおかしい。
ルークが首を傾げる。
「なんだろう……」
父親も周囲を見る。
「変だな」
レインは黙っていた。
まず、草が少ない。
周囲の森は草木だらけだ。
だが、この場所だけ違う。
まるで地面が剥き出しになっている。
さらに、妙な臭いがした。
独特だった。
木の臭いではない。
土の臭いでもない。
どこか重い。
鼻に残る。
レインはその臭いに覚えがあった。
前世。
何度も嗅いだことがある。
だが、まだ確信は持てない。
「レイン?」
父親が呼ぶ。
レインは返事をしない。
ゆっくり歩く。
地面を見る。
しゃがみ込む。
指先を伸ばす。
そして、地面へ触れた。
「……ん?」
妙な感触だった。
湿っている。
だが水ではない。
少し粘り気がある。
指先を持ち上げる。
黒い。
ほんの少し。
黒い液体が付着していた。
父親が近付く。
「なんだそれ」
ルークも覗き込む。
「泥?」
レインは答えない。
代わりに。
指先を見つめる。
鼓動が早くなる。
もし予想通りなら。
この島の価値は変わる。
レイン工房の未来も変わる。
いや、世界そのものが変わるかもしれない。
父親が怪訝そうな顔をする。
「分かったのか?」
レインはゆっくり立ち上がった。
口元が僅かに吊り上がる。
その表情を見た瞬間。
父親は嫌な予感を覚えた。
ルークも同じだった。
この顔を知っている。
何かを見つけた時の顔だ。
飛行機の設計図を見つけた時も。
滑車を思い付いた時も。
工房を作ると言い出した時も。
全部この顔だった。
「レイン」
父親が呼ぶ。
「石油だ…」
レインは誰にも聞かれることなくそう呟いた。