ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百三十四話「海賊たちの歌」

 

翌朝。

 

双子岬の海は穏やかだった。

 

昨日まで何度も響いていた衝撃音も聞こえない。

 

レインは船首に立ちながら海を眺めていた。

 

少し離れた場所ではラブーンがゆったりと泳いでいる。

 

昨日応急処置をした傷は当然治っていない。

 

だが、どこか元気そうに見えた。

 

「見てますね」

 

後ろからルークが声を掛ける。

 

レインは振り返らなかった。

 

「ああ」

 

「気になるんですか?」

 

「まあな」

 

ルークもラブーンを見る。

 

巨大な身体。

 

圧倒的な存在感。

 

たった一頭で海そのものの主のように見える。

 

だが、レインの視線はその大きさではなく、別のものへ向いていた。

 

孤独。

 

それが一番近い。

 

仲間を待ち続けるクジラ。

 

それがラブーンだった。

 

レインは小さく息を吐く。

 

前世でこの話を読んだ時も好きだった。

 

だが実際に目の前で見ると重みが違う。

 

何十年も待ち続ける。

 

言葉にするのは簡単だ。

 

実際にやるのは途方もなく難しい。

 

普通なら諦める。

 

忘れる。

 

だがラブーンは違った。

 

ずっと信じている。

 

その姿はどこか人間より人間らしかった。

 

その時だった。

 

ラブーンがこちらを向く。

 

巨大な瞳が《雨神》を見つめる。

 

ブォォォォォ……

 

静かな鳴き声。

 

昨日より少し柔らかく聞こえた。

 

ルークが笑う。

 

「懐かれましたかね?」

 

「どうだろうな」

 

そう言いながらもレインは少し考える。

 

そして不意に思い出した。

 

ルンバー海賊団。

 

陽気な音楽家たち。

 

そして一曲の歌。

 

「そうだ」

 

「どうしたんです?」

 

「ちょっと試してみる」

 

レインはそう言うと船倉へ向かった。

 

数分後。

 

手には一本のヴァイオリンがあった。

 

以前、暇潰しに作ったものだ。

 

ルークが驚く。

 

「弾けたんですか?ていうかヴァイオリンって、いつのまに作り方学んだんですか!?もうレインさんは何でもありですね!」

 

「少しな…作り方は実物見たことあったから構造は頭に入ってる」

 

正確には前世で少しだけ触ったことがある。

 

プロには程遠い。

 

だが簡単な曲なら弾ける。

 

レインは船首へ座る。

 

ラブーンは不思議そうにこちらを見ている。

 

海風が吹く。

 

静かな朝だった。

 

そしてレインは弓を動かした。

 

ゆっくりと。

 

優しく。

 

懐かしい旋律が流れる。

 

ルークは聞いたことがなかった。

 

だが不思議と心地良かった。

 

海の歌。

 

旅人の歌。

 

仲間たちの歌。

 

やがてレインは静かに歌い始めた。

 

「ヨホホホ ヨホホホ」

 

ルークが目を丸くする。

 

「歌ですか?」

 

レインは答えない。

 

そのまま歌い続ける。

 

「ヨホホホ ヨホホホ」

 

海へ届けるように。

 

風へ乗せるように。

 

そしてラブーンへ届くように。

 

その時だった。

 

巨大な身体がぴたりと止まる。

 

ラブーンの動きが変わった。

 

ブォ……?

 

まるで何かを思い出したような声。

 

レインは演奏を続ける。

 

ビンクスの酒を届けにゆくよ――

 

歌声が海へ広がる。

 

ルークは次第に黙り込んだ。

 

理由は分からない。

 

だが何かを感じた。

 

ラブーンも動かない。

 

ただ静かに聞いている。

 

巨大な瞳がまっすぐレインを見つめていた。

 

レインは知っている。

 

この歌を歌っていた海賊たちを。

 

そして、この歌がラブーンにとってどんな意味を持つのかも。

 

だがそれは語らない。

 

語るべきではない。

 

だから今はただ歌う。

 

歌だけを届ける。

 

やがて最後の旋律が終わる。

 

海に静寂が訪れた。

 

しばらく誰も動かなかった。

 

そして――

 

ブォォォォォォォォォォォ!!

 

ラブーンが鳴いた。

 

今まで聞いたどの声よりも大きく。

 

どこか嬉しそうに。

 

どこか懐かしそうに。

 

巨大な尾が海を叩く。

 

空高く水柱が上がった。

 

ルークは思わず笑う。

 

「喜んでますね」

 

「ああ」

 

レインも微笑む。

 

ラブーンは何度も鳴いていた。

 

まるで返事をするように。

 

まるで歌に応えるように。

 

レインは空を見上げた。

 

青い空。

 

白い雲。

 

そして広い海。

 

(ちゃんと覚えてるんだな)

 

胸の奥が少し熱くなる。

 

何十年経っても。

 

仲間がいなくなっても。

 

約束は消えない。

 

ラブーンはそれを証明していた。

 

その姿を見ながらレインは思う。

 

自分も仲間を大事にしようと。

 

いつかルークと別れる日が来るかもしれない。

 

他の仲間が増えるかもしれない。

 

だが、この旅で生まれた絆だけは失いたくない。

 

そんなことを考えていると、ルークが首を傾げた。

 

「その歌、何て曲なんです?」

 

レインは少し笑った。

 

「海賊たちの歌だ」

 

「海賊たちの?」

 

「ああ」

 

それ以上は語らない。

 

いつかブルックたちが帰ってくる。

 

その時まで、その約束はラブーンだけのものだ。

 

そして翌日、レインとルークは、ついにグランドライン最初の島へ向かうための準備を始める。

 

本当の冒険が、いよいよ始まろうとしていた。

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