ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百三十五話「グランドラインの常識」

 

ラブーンとの別れから数時間後。

 

《雨神》は双子岬の近くに停泊していた。

 

レインとルークは甲板の上で海を眺めている。

 

ラブーンの姿はまだ遠くに見えた。

 

巨大な身体がゆっくりと海面を泳いでいる。

 

時折聞こえる鳴き声が、どこか寂しそうだった。

 

「別れちゃいましたね」

 

ルークがぽつりと呟く。

 

「ああ」

 

レインも頷いた。

 

短い付き合いだった。

 

それでも印象に残る存在だった。

 

ルークはしばらくラブーンを見つめていたが、やがて気持ちを切り替えるように振り返る。

 

「それで、次はどうします?」

 

「とりあえず最初の島だな」

 

「場所は分かるんですか?」

 

「分からん」

 

即答だった。

 

ルークが固まる。

 

「分からないんですか!?」

 

「うん」

 

「普通そこ考えてから出航しません!?」

 

「グランドラインだから何とかなると思ってた」

 

「なりませんよ!」

 

ルークは頭を抱えた。

 

東の海ではレインの無茶に慣れてきたつもりだった。

 

だがグランドラインへ入っても変わらないらしい。

 

むしろ悪化している気がする。

 

そんなやり取りをしていると、遠くの水平線に帆船が見えた。

 

「船ですね」

 

「商船か?」

 

次第に近付いてくる。

 

海賊旗は見えない。

 

武装も最低限。

 

積み荷を運ぶ商船のようだった。

 

向こうも《雨神》に気付いたらしい。

 

少し進路を変えながら近付いてくる。

 

やがて声が届く距離になった。

 

商船の甲板に立つ中年の男が大声を上げる。

 

「おーい!」

 

「どうした?」

 

レインも手を振り返した。

 

「こんな所で何してる!?」

 

「次の島に行こうとしてる」

 

男は数秒沈黙した。

 

そして大声で聞き返す。

 

「ログポースは持ってるか!?」

 

レインとルークが顔を見合わせる。

 

ルークが首を傾げた。

 

「ログポース?」

 

男が固まった。

 

数秒後。

 

盛大に吹き出した。

 

「お前ら持ってねぇのか!?」

 

「持ってません」

 

「グランドライン初心者か!?」

 

「はい」

 

男は頭を抱えた。

 

周囲の船員たちも苦笑している。

 

その様子を見ながらレインが口を開く。

 

「グランドライン専用の方位磁針だったか?」

 

男が驚いた顔をした。

 

「知ってるのか?」

 

「本で読んだことがある」

 

「なら何で持ってねぇんだよ!」

 

その正論にレインは少し考えた。

 

「忘れてた」

 

ルークが頭を抱えた。

 

予想通りの答えだった。

 

商船の船員たちからも笑い声が上がる。

 

「ガハハハ!」

 

「こいつ面白いな!」

 

男も呆れながら笑った。

 

「知識だけあるタイプか」

 

「そんな感じだ」

 

「一番危ねぇ奴だな」

 

完全に同意だった。

 

ルークは何度も頷いていた。

 

男は船内へ引っ込み、しばらくして小さな箱を持って戻ってきた。

 

「予備がある」

 

そう言って何かを投げる。

 

レインは軽く受け取った。

 

ガラス製の球体。

 

腕に装着できる金属の台座。

 

そして中央には一本の針。

 

レインの目が少しだけ輝いた。

 

「これがログポースか」

 

初めて見る実物だった。

 

前世の知識では知っている。

 

だが本物を見るのは初めてだ。

 

ルークも興味深そうに覗き込む。

 

「これが……」

 

男が説明を始める。

 

「グランドラインの島はそれぞれ固有の磁力を持ってる」

 

「島に着く」

 

「待つ」

 

「針が次の島を指す」

 

「それだけだ」

 

ルークは真剣に聞いていた。

 

「つまりこれがないと……」

 

「遭難する」

 

即答だった。

 

「海図は役に立たねぇ」

 

「コンパスも役に立たねぇ」

 

「この海じゃ常識だ」

 

ルークの顔が引きつる。

 

グランドライン。

 

思っていた以上に狂った海だった。

 

一方のレインは既に別のことを考えていた。

 

ログポースを持ち上げる。

 

角度を変える。

 

裏側を見る。

 

針の動きを観察する。

 

「面白いな……」

 

「何がだ?」

 

「どういう原理で磁気を記録してるんだろうな」

 

男が首を傾げる。

 

「知らん」

 

「だよな」

 

レインは頷いた。

 

すると隣からルークが口を開く。

 

「レインさん」

 

「ん?」

 

「分解禁止です」

 

「まだ何もしてない」

 

「今しようとしてましたよね?」

 

「してない」

 

「絶対してました」

 

商船の船員たちが笑い出した。

 

「ガハハハ!」

 

「仲良いなお前ら!」

 

ルークは疲れた顔をする。

 

仲が良いのではない。

 

止めているだけだ。

 

レインが本気になれば、本当に分解しかねない。

 

男は笑いながら言った。

 

「最初の島まで数日は掛かるぞ」

 

「なるほど」

 

「あと覚えとけ」

 

男の表情が少し真剣になる。

 

「グランドラインで一番怖いのは海賊じゃねぇ」

 

「海王類でもねぇ」

 

「天候だ」

 

レインとルークが顔を見合わせる。

 

「天候?」

 

「そうだ」

 

男は頷いた。

 

「晴れてたと思ったら吹雪になる」

 

「吹雪だと思ったら雷が落ちる」

 

「常識が通用しねぇ」

 

レインは少し笑った。

 

「面白そうだな」

 

男が苦笑する。

 

「その余裕がいつまで続くかな」

 

その後、礼を言って商船と別れた。

 

ログポースはしっかりと腕へ装着されている。

 

針は真っ直ぐ一方向を指していた。

 

未知の島。

 

未知の冒険。

 

グランドラインの奥深くへ。

 

レインは船首へ立つ。

 

「行くか」

 

「はい」

 

ルークも頷いた。

 

《雨神》がゆっくりと動き出す。

 

双子岬が遠ざかる。

 

ラブーンも小さくなっていく。

 

そして出航から一時間後。

 

ルークが空を見上げた。

 

「……え?」

 

さっきまで快晴だった。

 

雲一つなかった。

 

それなのに。

 

空から白いものが降ってきた。

 

雪だった。

 

「雪?」

 

ルークが呟く。

 

次の瞬間。

 

猛烈な吹雪が海を覆った。

 

視界が真っ白になる。

 

《雨神》が大きく揺れる。

 

ルークは絶叫した。

 

「始まったぁぁぁぁ!!」

 

グランドラインの洗礼だった。

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