ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
「やってみろ」
店主の言葉に、工房の空気が変わった。
職人たちの視線が一斉にレインへ集まる。
炉の熱気。
鉄を打つ音。
飛び散る火花。
その中で、十四歳の少年が静かに新鉱石を見つめていた。
ルークは少し離れた場所で頭を抱える。
「始まった……」
止めても無駄だ。
こうなったレインは止まらない。
新しい技術。
未知の素材。
見たことのない仕組み。
それらを前にしたレインは、もはや船大工というより研究者だった。
レインは新鉱石のインゴットを持ち上げる。
重さを確認する。
表面を指でなぞる。
そして近くにあったハンマーで軽く叩いた。
カン。
澄んだ音が響く。
もう一度叩く。
カン。
レインは目を細めた。
「なるほど」
「何が分かった?」
店主が聞く。
「思ったより不純物が少ない」
「ほう」
「だから強度が高いんだな」
周囲の職人たちがざわつく。
実際、その通りだった。
この鉱石は異常なほど純度が高い。
だからこそ加工が難しい。
普通の鉄と同じ感覚で扱うと失敗する。
レインは炉へ近付く。
そして職人たちが使っていた温度計代わりの金属棒を見る。
「少し温度が高いな」
「高い?」
店主が眉をひそめた。
「これまでの鉄と同じ温度でやってるだろ?」
「そうだ」
「それが原因だ」
周囲が静かになる。
レインは続けた。
「この鉱石は熱の入り方が違う」
「高温にしすぎると内部と外側で温度差ができる」
「だから冷えた時に歪む」
職人たちは顔を見合わせた。
理屈は理解できる。
だが確信は持てない。
なにせ相手は十四歳の少年だ。
すると一人の職人が口を開いた。
「本当に分かってんのか?」
「多分な」
「多分かよ」
笑いが起きる。
だがレインは気にしない。
むしろ自信満々だった。
「じゃあ試すか」
そう言うと袖をまくる。
ルークが呟く。
「頑張ってください」
「おう」
そして作業が始まった。
炉の火力を下げる。
送風量を調整する。
職人たちが不思議そうな顔をする。
普段とは全く違う手順だった。
「そんな低温で大丈夫なのか?」
「多分」
「また多分か」
「失敗したら笑ってくれ」
レインはそう言って笑った。
職人たちもつられて笑う。
不思議と嫌味がなかった。
そして鉱石が赤く染まる。
レインはじっと色を見る。
温度計はない。
だが前世からの知識と経験があった。
鍛冶屋の親方の下で学んだ日々もある。
「今だな」
鉄床へ置く。
そしてハンマーを振り下ろした。
カン!
乾いた音が響く。
職人たちが見守る。
カン!
カン!
カン!
一定のリズム。
無駄のない動き。
店主の表情が少し変わった。
素人ではない。
それだけは分かった。
レインは途中で作業を止める。
「冷やす」
「もうか?」
「十分だ」
そして通常より長い時間をかけて冷却した。
やがて。
完成した鉄板を持ち上げる。
職人たちが固唾を飲んで見守る。
歪みは――
なかった。
沈黙。
誰も喋らない。
店主が鉄板を受け取る。
確認する。
裏返す。
横から見る。
何度も見る。
そして。
「……成功してる」
その一言で工房が騒然となった。
「おい!」
「本当か!?」
「歪んでねぇ!」
「嘘だろ!?」
職人たちが集まる。
誰もが驚いていた。
何ヶ月も解決できなかった問題だった。
それを十四歳の少年が解決したのである。
店主がレインを見る。
今までとは違う目だった。
職人が職人を見る目。
「お前、本当に何者だ?」
周囲も頷く。
誰もが知りたかった。
船大工と言われても信じられない。
医者と言われても信じられない。
技術者と言われても信じられない。
レインは少し考えた。
そして答える。
「船大工だな」
「それは聞いた」
「医者でもある」
「十四歳で?」
「ああ」
「他には?」
レインは少し考える。
隠すほどのことでもない。
「レイン商会の社長だ」
その瞬間だった。
近くで話を聞いていた商人が固まる。
「……は?」
全員がその商人を見る。
商人はレインを指差した。
「今、何て言った?」
「レイン商会だ」
「東の海のレイン商会か!?」
「そうだな」
商人が頭を抱えた。
「嘘だろ……」
店主が聞き返す。
「有名なのか?」
「有名も何もねぇ!」
商人が叫ぶ。
「変形滑車の特許を取った会社だぞ!」
工房が静まり返る。
職人たちもその名前は知っていた。
物流業界では有名だったからだ。
店主がレインを見る。
レインを見る。
もう一度見る。
そして聞いた。
「何歳だ?」
「十四」
「嘘つけ」
即答だった。
工房中が笑いに包まれる。
レインも笑った。
だがルークだけは真顔だった。
「本当です」
その一言で全員が静かになった。
店主が天を仰ぐ。
「何なんだお前……」
レインは少し考える。
そして肩をすくめた。
「俺もよく分からない」
その答えに再び笑いが起きた。
こうしてレインは、グランドライン最初の島で職人たちに認められることになった。
そしてこの出会いが、《雨神》をさらに進化させる大きなきっかけとなるのだった。