ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

239 / 241
第二百四十一話「職人たちの挑戦」

 

翌日。

 

鉄鋼島の朝は早い。

 

まだ太陽が昇りきる前から、島中で金属を叩く音が響いていた。

 

カン。

 

カン。

 

カン。

 

まるで島全体が巨大な工房だった。

 

レインは早朝から鉱山で採取した青き鋼の鉱石を見つめていた。

 

宿の机の上には紙が何枚も広がっている。

 

断面図。

 

構造図。

 

温度変化の予測。

 

精錬工程。

 

気付けば夜中まで考え込んでいた。

 

「寝ました?」

 

後ろからルークが聞く。

 

「二時間くらい」

 

「寝てないじゃないですか」

 

「寝たぞ」

 

「それは寝てないって言うんです」

 

ルークはため息を吐いた。

 

こうなると止まらない。

 

昔からそうだった。

 

発明でも。

 

船でも。

 

医療でも。

 

興味を持つと寝ることすら忘れる。

 

レインは紙をまとめる。

 

「行くか」

 

「工房ですね」

 

「ああ」

 

二人は朝食を済ませると工房へ向かった。

 

店主の工房へ入ると、既に多くの職人たちが集まっていた。

 

昨日の話が島中へ広がったらしい。

 

十四歳の社長。

 

十四歳の医者。

 

そして新鉱石の加工法を見抜いた少年。

 

興味を持たない方がおかしかった。

 

店主が手を上げる。

 

「来たか」

 

「ああ」

 

「で、どうする?」

 

レインは紙を広げた。

 

職人たちが覗き込む。

 

そして目を見開いた。

 

細かい。

 

異常なほど細かい。

 

炉の温度。

 

空気量。

 

冷却速度。

 

全てが数値化されている。

 

「何だこれ」

 

「精錬工程だ」

 

レインは当然のように答える。

 

職人たちは顔を見合わせた。

 

彼らは経験で鍛冶をしてきた。

 

もちろん技術は高い。

 

だがここまで理論化した者はいない。

 

「全部考えたのか?」

 

「ああ」

 

「一晩で?」

 

「ああ」

 

店主が頭を抱えた。

 

「化け物かお前は」

 

レインは否定しない。

 

前世を含めれば何十年も技術に触れている。

 

普通の十四歳ではない。

 

その自覚くらいはあった。

 

「まずは小型炉を使う」

 

レインが指示を出す。

 

「温度を上げすぎるな」

 

「鉄と同じ感覚で扱うな」

 

職人たちも真剣だった。

 

昨日の成功を見ている。

 

今さら子供扱いする者はいない。

 

そして実験が始まった。

 

炉へ鉱石を入れる。

 

温度を管理する。

 

慎重に加熱する。

 

いつもなら真っ赤になるまで熱する。

 

だが今回は違う。

 

少し低い温度で止める。

 

職人たちは不安そうだった。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「多分な」

 

「その多分が怖いんだよ」

 

工房に笑いが起きる。

 

レインも笑った。

 

そして数時間後。

 

最初の精錬が終わる。

 

完成した金属塊を取り出す。

 

全員が息を呑んだ。

 

美しかった。

 

銀色ではない。

 

わずかに青みを帯びている。

 

まるで月明かりを閉じ込めたような色だった。

 

「綺麗だな……」

 

誰かが呟く。

 

レインも頷いた。

 

予想以上だった。

 

店主がハンマーで叩く。

 

カン!

 

澄んだ音が響く。

 

普通の鉄とは違う。

 

硬い...だが粘りもある。

 

「成功か?」

 

職人が聞く。

 

「いや」

 

レインは首を振った。

 

「まだだ」

 

そして金属塊を再び炉へ入れる。

 

職人たちは驚く。

 

「まだやるのか?」

 

「ああ」

 

「もっと良くなる」

 

その一言で全員の目が変わった。

 

誰も帰らない。

 

誰も休まない。

 

職人という生き物はそういうものだった。

 

より良い物が作れる可能性があるなら挑戦する。

 

それが職人だ。

 

結局、その日は夕方まで実験が続いた。

 

失敗もした。

 

割れた。

 

歪んだ。

 

砕けた。

 

だが少しずつ分かっていく。

 

青き鋼の性質が...扱い方が...

 

そして夕暮れ、ついに理想的な金属塊が完成した。

 

店主がそれを持ち上げる。

 

「軽いな」

 

「鉄より軽い」

 

職人が刃物で叩く。

 

傷が付かない。

 

「硬い」

 

別の職人が言う。

 

「錆びにも強そうだ」

 

全員の顔に笑みが浮かぶ。

 

何年も扱えなかった鉱石だった。

 

それがついに実用化されたのである。

 

店主はレインを見る。

 

「お前のおかげだ」

 

「皆で作った」

 

レインはそう答えた。

 

本心だった。

 

一人では無理だった。

 

職人たちの技術があったからこそ成功した。

 

すると店主が笑う。

 

「それで?」

 

「ん?」

 

「何を作るんだ?」

 

職人たちも興味津々だった。

 

レインは青き鋼を見る。

 

美しい金属だった。

 

船にも使える。

 

工具にも使える。

 

武器にも使える。

 

だからこそ最初に作る物は決まっていた。

 

「短剣だ」

 

「やっぱりか」

 

ルークが苦笑する。

 

レインも笑った。

 

「二本作る」

 

「お揃いですね」

 

「ああ」

 

店主がニヤリと笑う。

 

「なら俺たちも手伝ってやる」

 

職人たちも頷く。

 

「島の記念だ」

 

「最高の物を作ろうぜ」

 

その言葉に工房が盛り上がる。

 

こうして鉄鋼島の職人たちとレインによる共同制作が始まった。

 

二本の短剣。

 

後に《蒼星》と《蒼月》と名付けられることになるその武器は、まだこの時、炉の中で静かに生まれようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。