ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
救出劇から一夜明けた。
鉄鋼島は妙な熱気に包まれていた。
市場でも。
港でも。
酒場でも。
話題は一つだった。
「聞いたか?」
「あの少年だろ?」
「鉱山へ飛び込んだって?」
「しかも医者らしいぞ」
「いや、発明家だ」
「社長とも聞いた」
「何なんだそいつ」
島中でそんな会話が交わされていた。
一方、その本人はというと、
「平和だな」
宿で朝食を食べていた。
ルークは呆れる。
「原因の人が何言ってるんですか」
「そうか?」
「そうです」
レインは首を傾げる。
人を助けた。
それだけだった。
別に特別なことをしたつもりはない。
前世でもそうだった。
困っている人がいたら助ける。
それだけである。
すると宿の外が騒がしくなった。
足音。
話し声。
そして、
ドンドンドン!!
勢いよく扉が叩かれた。
ルークが開ける。
そこには店主を先頭に職人たちが並んでいた。
二十人以上いる。
ルークが固まる。
「どうしたんですか?」
店主が笑った。
「迎えに来た」
「迎え?」
「いいから来い」
嫌な予感しかしなかった。
案の定。
工房へ到着すると、島中の職人たちが集まっていた。
百人近い。
流石にレインも驚く。
「何事だ?」
店主は腕を組む。
そして真剣な顔になる。
「礼だ」
レインは即答した。
「いらん」
周囲がずっこけた。
あまりにも早かった。
店主も額を押さえる。
「最後まで聞け!」
「聞いても同じだ」
「お前なぁ……」
職人たちから苦笑が漏れる。
予想通りだった。
この少年は見返りを求めない。
だからこそ皆が集まったのだ。
店主はため息を吐く。
「じゃあ聞く」
「何だ」
「お前は俺たちに何をくれた?」
レインは少し考える。
「青き鋼の精錬法?」
「そうだ」
店主が頷く。
「鍛造ハンマーは?」
「あれもだな」
「鉱山の連中を助けたのは?」
「たまたまだ」
「たまたまで命は救えねぇ」
店主が真っ直ぐレインを見る。
「お前はこの島にたくさんの物を残した」
「だから俺たちも返したい」
工房が静かになる。
誰もが頷いていた。
レインは少し困った。
こういうのは苦手だった。
すると一人の老人が前へ出る。
鉱山長だった。
昨日助けた男の父親でもある。
老人は深々と頭を下げた。
「息子を助けてくれてありがとう」
レインは慌てる。
年上に頭を下げられるのは落ち着かない。
「やめてくれ」
「やめん」
老人は顔を上げる。
その目は真剣だった。
「お前は命を救った」
「だから受け取れ」
そう言って差し出したのは小さな木箱だった。
開く。
中には青き鋼の原石が入っていた。
それも最高品質。
青く輝いている。
職人たちがざわつく。
「まさか……」
「鉱山の最深部産か」
「本気だな」
レインも価値が分かった。
かなり貴重だ。
「いいのか?」
「お前に持っていてほしい」
老人は笑った。
「この島の感謝だ」
レインはしばらく考えた。
そして頭を下げる。
「ありがとう」
老人も笑った。
それだけで十分だった。
すると今度は店主が前へ出る。
大きな木箱を持っている。
嫌な予感しかしない。
「まだある」
「まだあるのか」
「ある」
店主は木箱を開けた。
中には金属製のプレートが入っていた。
青き鋼で作られている。
職人たちが一斉に笑う。
レインは読む。
そこには大きく刻まれていた。
『鉄鋼島名誉職人』
沈黙。
レインは店主を見る。
店主は笑っていた。
周囲も笑っていた。
ルークだけが吹き出した。
「何ですかそれ」
「知らん」
「今決めた」
工房中が大爆笑する。
レインは頭を抱えた。
「いらない」
「受け取れ」
「いらない」
「受け取れ」
完全に押し切られた。
結局、レインは鉄鋼島名誉職人になった。
十四歳にして訳の分からない肩書がまた増えた。
その様子を見ながらルークは思う。
社長。
医者。
船大工。
発明家。
そして名誉職人。
どこへ向かっているのだろうか。
本人も分かっていない気がした。
だが、島の人々の笑顔を見る限り。
悪い方向ではないのだろう。
その時だった。
店主がニヤリと笑った。
「さて」
嫌な予感がした。
レインもルークも同時に思った。
店主は親指で港を指差す。
「礼はまだ終わってねぇ」
「……何する気だ?」
店主たちの笑みが深くなる。
「お前の船を見せろ」
レインの嫌な予感は的中した。
そして翌日、鉄鋼島の職人たち総出による《雨神》大改修計画が始まることになるのだった。