ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
鉄鋼島を出航してから五日。
《雨神》は順調に航海を続けていた。
青き鋼で強化された船体は驚くほど安定している。
グランドライン特有の荒波にも耐え。
突風にも負けない。
職人たちの技術力の高さを改めて実感していた。
「やっぱり良い船ですね」
ルークが船体を撫でながら言う。
「だな」
レインも頷く。
船大工として純粋に嬉しかった。
自分が設計し。
職人たちと改良した船。
《雨神》は確実に進化している。
その時だった。
ヒュゥゥゥゥ……
冷たい風が吹いた。
ルークが肩を震わせる。
「寒っ」
数日前までは暖かかった。
だが今日は違う。
明らかに気温が下がっている。
海面にも薄く霧が出始めていた。
レインは空を見る。
雪雲だった。
「近いな」
「ええ」
ルークも前方を見る。
水平線の先。
白い影が見えていた。
最初は雲かと思った。
だが違う。
島だ。
巨大な雪山がそびえ立っている。
そして島全体が白い。
「凄いですね……」
ルークが思わず呟く。
東の海ではまず見られない光景だった。
雪国。
それも本格的な。
レインも少し見入っていた。
前世では雪を見る機会はあった。
だが今世ではほとんどない。
島育ちだったため、雪そのものが珍しい。
「綺麗だな」
「ですね」
しばらく二人は景色を眺めていた。
すると。
パサッ。
何かが落ちる。
ルークの頭の上だった。
「ん?」
白い。
冷たい。
「雪です」
レインが言う。
ルークが空を見上げる。
雪だった。
一枚。
二枚。
三枚。
やがて数が増える。
雪が降り始めた。
「本当に冬島なんですね」
「みたいだな」
レインは少し笑う。
そして甲板へ出る。
雪を手に取る。
冷たい、だが嫌な感じはしない。
むしろ少し懐かしかった。
前世の記憶が蘇る。
子供の頃。
雪だるまを作ったこと。
雪合戦をしたこと。
そんな記憶だった。
「レインさん」
「ん?」
「笑ってますよ」
「そうか?」
「珍しいですね」
ルークも笑った。
するとその時だった。
見張り台から叫び声が聞こえる。
もちろんレイン自身だ。
「おお!」
「どうしました?」
「見えた!」
ルークが前を見る。
そして目を見開いた。
島の全景が見えた。
巨大な山。
雪に覆われた森。
白銀の大地。
そして山頂付近に建つ巨大な城。
「あれは……」
「城だな」
レインも驚いていた。
想像以上だった。
まるで絵本に出てくる雪の王国。
そんな景色だった。
《雨神》はゆっくりと港へ近付いていく。
やがて人影が見えてきた。
港だ。
多くの船が停泊している。
漁船。
商船。
運搬船。
そして医療物資を運ぶ船もあった。
レインはそこに反応した。
「医療物資?」
ルークが苦笑する。
嫌な予感しかしない。
「気付きました?」
「ああ」
レインの目が輝く。
完全に何かを察した顔だった。
港へ近付く。
すると看板が見えた。
大きな文字で書かれている。
『ドラム王国』
レインは笑った。
「当たりだな」
「何がです?」
「医療国家だ」
ルークは額を押さえた。
やっぱりそうだった。
出航前から知識として知っていた。
グランドラインには医療大国がある。
それがドラム王国。
世界有数の医療技術を持つ国。
つまり、レインにとっての宝の山である。
「まず病院ですね」
ルークが諦めたように言う。
「当たり前だろ」
即答だった。
「宿は?」
「後」
「食事は?」
「後」
「休憩は?」
「後」
ルークは深いため息を吐いた。
予想通りだった。
船大工の島へ行った時も同じだった。
今回は医療の島。
こうなるのは分かりきっている。
港へ到着する。
ロープを固定する。
入国手続きを済ませる。
本来ならまず宿を探すべきだろう。
だが、レインは既に近くの人へ話しかけていた。
「病院はどこだ?」
「え?」
衛兵が固まる。
普通は宿を聞く。
観光地を聞く。
病院を聞く人間はいない。
「病院だ」
「いや、ありますけど……」
「一番大きい所を教えてくれ」
衛兵は困惑していた。
ルークは頭を抱える。
始まった。
完全に始まった。
だがレインは止まらない。
目は完全に好奇心で輝いている。
船大工が鉄鋼島へ行った時と同じ顔だった。
いや、それ以上かもしれない。
世界有数の医療国家。
そこにはどんな技術があるのか。
どんな病気があるのか。
どんな医者がいるのか。
レインの胸は高鳴っていた。
そしてまだ知らない。
この国で出会う一人の老医師が、自分の常識を何度も覆してくることを。
そしてその老医師が、後に世界でも屈指の名医として語られる存在であることを。