ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ドラム王国へ上陸して一時間後。
レインは既に病院へいた。
「だから何でですか……」
ルークは雪道を歩きながら呟く。
普通なら宿を探す。
荷物を置く。
町を見て回る。
そういうものだ。
だがレインには関係なかった。
目的地が決まっていたからである。
病院だった。
しかもこの国最大の総合病院。
「楽しみだな」
レインは雪景色を見ながら歩く。
「そうでしょうね」
ルークは諦めたように答えた。
船大工の島では工房へ直行。
今度は医療国家。
なら病院へ直行するのも当然だった。
病院へ到着すると、まずその規模に驚かされた。
大きい。
とにかく大きい。
東の海で見たどの病院よりも大きかった。
診療棟。
研究棟。
薬品保管庫。
入院施設。
全てが整っている。
さらに驚くべきことは人の多さだった。
患者も多い。
だがそれ以上に医者が多い。
白衣を着た医師たちが忙しそうに行き来していた。
レインの目が輝く。
「凄いな」
「そんなにですか?」
「ああ」
心からそう思った。
医療というものは知識の積み重ねだ。
一人で学べることには限界がある。
だからこそ多くの医者が集まる場所には価値がある。
東の海では見られない光景だった。
病院の中へ入る。
受付の女性が丁寧に声を掛けた。
「どうされましたか?」
「見学したい」
「はい?」
当然の反応だった。
患者ではない。
診察でもない。
いきなり見学希望である。
女性は困惑した。
レインは続ける。
「俺も医者なんだ」
「え?」
女性は固まった。
どう見ても十四歳前後の少年だった。
信じられるはずがない。
ルークは苦笑する。
いつもの反応だった。
結局、病院側へ話が通されることになる。
しばらくして一人の男性医師が現れた。
四十代ほどだろう。
眼鏡を掛けた真面目そうな人物だった。
「君が医者?」
「ああ」
「何歳だい?」
「十四」
男性医師は額を押さえた。
「冗談だよね?」
「本当だ」
「本当に?」
「本当だ」
まるで同じ会話を何度も繰り返している気分だった。
だが話し始めると空気が変わっていく。
感染症。
外科手術。
薬学。
解剖学。
内科診断。
レインは次々と答えていった。
十分後。
男性医師の表情が変わる。
二十分後。
椅子から立ち上がる。
三十分後。
別の医師を呼び始めた。
「ちょっと待ってくれ」
「何だ?」
「本当に十四歳か?」
「それ三回目だ」
レインが苦笑する。
その頃には周囲に医師たちが集まっていた。
五人。
十人。
十五人。
いつの間にか小さな勉強会になっている。
「東の海から来たのか?」
「ああ」
「この治療法を知っているのか?」
「知ってる」
「その薬の配合は?」
「こうだな」
医師たちがざわつく。
知識量が異常だった。
前世知識。
エイムズ先生から学んだ医術。
実際に診療所を運営した経験。
十四歳とは思えない。
だがここはドラム王国。
世界有数の医療国家だった。
やがてレインも知らない話が出始める。
「凍傷患者への特殊処置?」
「知らないのか?」
「初めて聞いた」
レインが身を乗り出す。
今度は教わる側だった。
雪国特有の病気。
寒冷地の感染症。
特殊な薬草。
見たこともない医療器具。
知らないことばかりだった。
レインの目が輝く。
「面白いな」
完全に研究者の顔だった。
ルークは少し離れた場所からその様子を眺めていた。
嬉しかった。
レインは天才だ。
だが万能ではない。
まだ知らないこともある。
そして今、その知らないことを貪欲に吸収している。
その姿はどこか新鮮だった。
その時だった。
診察室の奥から声が聞こえた。
「朝から騒がしいねぇ」
全員が振り返る。
空気が変わった。
医師たちの背筋が伸びる。
緊張。
尊敬。
そして少しの恐怖。
そんな感情が入り混じっていた。
雪のように白い髪。
鋭い目。
小柄な身体。
だが存在感は圧倒的だった。
レインも思わず目を細める。
只者ではない。
それだけは一瞬で分かった。
女性はゆっくりと歩いてくる。
そしてレインの前で止まった。
「小僧」
「何だ?」
周囲の医師たちが青ざめる。
だがレインは気にしない。
女性も気にしなかった。
むしろ面白そうに見ている。
そして頭の先から足元まで眺めた後、唐突に聞いた。
「ハッピーかい?」
診察室が静まり返る。
レインは一瞬だけ目を瞬かせた。
予想外の質問だった。
だが少し考えて答える。
「多分な」
女性がニヤリと笑った。
「そうかい」
その笑みにはどこか満足そうな色があった。
そして再びレインを見る。
今度は患者を診察するような鋭い目だった。
「医者かい?」
「ああ」
「何歳だい?」
「十四」
一瞬の沈黙。
そして、
「嘘つくんじゃないよ」
レインは思わず吹き出した。
「皆そう言う」
「当たり前だ」
女性も鼻で笑う。
だが次の瞬間。
その表情が変わった。
猛獣のような鋭い目。
百年以上生きてきた者だけが持つ重み。
レインは理解した。
この人は本物だ。
今まで会ったどの医者よりも。
「アンタがこの病院で一番か?」
レインが聞く。
周囲の医師たちが固まる。
誰もそんな聞き方はしない。
だが女性は楽しそうに笑った。
「そうさ」
「なら話を聞かせてくれ」
レインも笑う。
「俺も色々聞きたい」
二人の視線がぶつかる。
その瞬間だった。
周囲の医師たちは悟った。
始まる。
きっと面白いことになる。
東の海から来た天才少年医師。
そして現在、百十三歳の伝説の医師。
ドクトリーヌ。
後に『魔女』と呼ばれる女医。
ドラム王国の医療編は、こうして幕を開けたのだった。