ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百五十話「医療大国」

 

ドラム王国へ上陸して一時間後。

 

レインは既に病院へいた。

 

「だから何でですか……」

 

ルークは雪道を歩きながら呟く。

 

普通なら宿を探す。

 

荷物を置く。

 

町を見て回る。

 

そういうものだ。

 

だがレインには関係なかった。

 

目的地が決まっていたからである。

 

病院だった。

 

しかもこの国最大の総合病院。

 

「楽しみだな」

 

レインは雪景色を見ながら歩く。

 

「そうでしょうね」

 

ルークは諦めたように答えた。

 

船大工の島では工房へ直行。

 

今度は医療国家。

 

なら病院へ直行するのも当然だった。

 

病院へ到着すると、まずその規模に驚かされた。

 

大きい。

 

とにかく大きい。

 

東の海で見たどの病院よりも大きかった。

 

診療棟。

 

研究棟。

 

薬品保管庫。

 

入院施設。

 

全てが整っている。

 

さらに驚くべきことは人の多さだった。

 

患者も多い。

 

だがそれ以上に医者が多い。

 

白衣を着た医師たちが忙しそうに行き来していた。

 

レインの目が輝く。

 

「凄いな」

 

「そんなにですか?」

 

「ああ」

 

心からそう思った。

 

医療というものは知識の積み重ねだ。

 

一人で学べることには限界がある。

 

だからこそ多くの医者が集まる場所には価値がある。

 

東の海では見られない光景だった。

 

病院の中へ入る。

 

受付の女性が丁寧に声を掛けた。

 

「どうされましたか?」

 

「見学したい」

 

「はい?」

 

当然の反応だった。

 

患者ではない。

 

診察でもない。

 

いきなり見学希望である。

 

女性は困惑した。

 

レインは続ける。

 

「俺も医者なんだ」

 

「え?」

 

女性は固まった。

 

どう見ても十四歳前後の少年だった。

 

信じられるはずがない。

 

ルークは苦笑する。

 

いつもの反応だった。

 

結局、病院側へ話が通されることになる。

 

しばらくして一人の男性医師が現れた。

 

四十代ほどだろう。

 

眼鏡を掛けた真面目そうな人物だった。

 

「君が医者?」

 

「ああ」

 

「何歳だい?」

 

「十四」

 

男性医師は額を押さえた。

 

「冗談だよね?」

 

「本当だ」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

まるで同じ会話を何度も繰り返している気分だった。

 

だが話し始めると空気が変わっていく。

 

感染症。

 

外科手術。

 

薬学。

 

解剖学。

 

内科診断。

 

レインは次々と答えていった。

 

十分後。

 

男性医師の表情が変わる。

 

二十分後。

 

椅子から立ち上がる。

 

三十分後。

 

別の医師を呼び始めた。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「何だ?」

 

「本当に十四歳か?」

 

「それ三回目だ」

 

レインが苦笑する。

 

その頃には周囲に医師たちが集まっていた。

 

五人。

 

十人。

 

十五人。

 

いつの間にか小さな勉強会になっている。

 

「東の海から来たのか?」

 

「ああ」

 

「この治療法を知っているのか?」

 

「知ってる」

 

「その薬の配合は?」

 

「こうだな」

 

医師たちがざわつく。

 

知識量が異常だった。

 

前世知識。

 

エイムズ先生から学んだ医術。

 

実際に診療所を運営した経験。

 

十四歳とは思えない。

 

だがここはドラム王国。

 

世界有数の医療国家だった。

 

やがてレインも知らない話が出始める。

 

「凍傷患者への特殊処置?」

 

「知らないのか?」

 

「初めて聞いた」

 

レインが身を乗り出す。

 

今度は教わる側だった。

 

雪国特有の病気。

 

寒冷地の感染症。

 

特殊な薬草。

 

見たこともない医療器具。

 

知らないことばかりだった。

 

レインの目が輝く。

 

「面白いな」

 

完全に研究者の顔だった。

 

ルークは少し離れた場所からその様子を眺めていた。

 

嬉しかった。

 

レインは天才だ。

 

だが万能ではない。

 

まだ知らないこともある。

 

そして今、その知らないことを貪欲に吸収している。

 

その姿はどこか新鮮だった。

 

その時だった。

 

診察室の奥から声が聞こえた。

 

「朝から騒がしいねぇ」

 

全員が振り返る。

 

空気が変わった。

 

医師たちの背筋が伸びる。

 

緊張。

 

尊敬。

 

そして少しの恐怖。

 

そんな感情が入り混じっていた。

 

雪のように白い髪。

 

鋭い目。

 

小柄な身体。

 

だが存在感は圧倒的だった。

 

レインも思わず目を細める。

 

只者ではない。

 

それだけは一瞬で分かった。

 

女性はゆっくりと歩いてくる。

 

そしてレインの前で止まった。

 

「小僧」

 

「何だ?」

 

周囲の医師たちが青ざめる。

 

だがレインは気にしない。

 

女性も気にしなかった。

 

むしろ面白そうに見ている。

 

そして頭の先から足元まで眺めた後、唐突に聞いた。

 

「ハッピーかい?」

 

診察室が静まり返る。

 

レインは一瞬だけ目を瞬かせた。

 

予想外の質問だった。

 

だが少し考えて答える。

 

「多分な」

 

女性がニヤリと笑った。

 

「そうかい」

 

その笑みにはどこか満足そうな色があった。

 

そして再びレインを見る。

 

今度は患者を診察するような鋭い目だった。

 

「医者かい?」

 

「ああ」

 

「何歳だい?」

 

「十四」

 

一瞬の沈黙。

 

そして、

 

「嘘つくんじゃないよ」

 

レインは思わず吹き出した。

 

「皆そう言う」

 

「当たり前だ」

 

女性も鼻で笑う。

 

だが次の瞬間。

 

その表情が変わった。

 

猛獣のような鋭い目。

 

百年以上生きてきた者だけが持つ重み。

 

レインは理解した。

 

この人は本物だ。

 

今まで会ったどの医者よりも。

 

「アンタがこの病院で一番か?」

 

レインが聞く。

 

周囲の医師たちが固まる。

 

誰もそんな聞き方はしない。

 

だが女性は楽しそうに笑った。

 

「そうさ」

 

「なら話を聞かせてくれ」

 

レインも笑う。

 

「俺も色々聞きたい」

 

二人の視線がぶつかる。

 

その瞬間だった。

 

周囲の医師たちは悟った。

 

始まる。

 

きっと面白いことになる。

 

東の海から来た天才少年医師。

 

そして現在、百十三歳の伝説の医師。

 

ドクトリーヌ。

 

後に『魔女』と呼ばれる女医。

 

ドラム王国の医療編は、こうして幕を開けたのだった。

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