ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
「なら話を聞かせてくれ」
レインが言う。
「俺も色々聞きたい」
ドクトリーヌはニヤリと笑った。
「面白い小僧だねぇ」
周囲の医師たちは冷や汗を流していた。
普通ならあり得ない。
初対面でこんな会話になること自体が珍しい。
しかも相手はドクトリーヌだ。
ドラム王国で知らぬ者はいない伝説の医師。
百年以上現役を続ける『魔女』。
そんな人物に対して、十四歳の少年が対等に話している。
だが当人たちは全く気にしていなかった。
むしろ楽しそうだった。
ドクトリーヌは近くの椅子へ腰掛ける。
そして顎でレインを指した。
「座りな」
「分かった」
レインも向かいへ腰を下ろす。
気付けば周囲には大勢の医師が集まっていた。
若手医師。
中堅医師。
ベテラン医師。
皆が興味津々だった。
東の海から来た天才少年医師。
そしてドクトリーヌ。
こんな組み合わせは滅多に見られない。
ルークは壁際へ移動する。
経験上分かる。
こういう時のレインは長い。
そして止まらない。
案の定だった。
「まず聞きたい」
レインが真っ先に口を開く。
「凍傷患者への処置だ」
周囲が静まり返る。
いきなり専門的な話だった。
ドクトリーヌは笑う。
「そこからかい」
「面白そうだったからな」
「観光には興味ないのかい?」
「後で見る」
「変わった小僧だねぇ」
ドクトリーヌは楽しそうに笑った。
そして話し始める。
凍傷。
低体温症。
寒冷障害。
雪国特有の感染症。
東の海ではまず見ない病気ばかりだった。
レインは夢中になった。
知らないことばかりだった。
だから面白い。
「なるほど」
「そういう考え方か」
「それは知らなかった」
レインの目が輝く。
周囲の医師たちも驚いていた。
知らないことを知らないと言える。
それは簡単なようで難しい。
天才と呼ばれる者ほど、自分の間違いを認めたがらない。
だがレインは違った。
知らないなら学ぶ。
それだけだった。
しばらくしてドクトリーヌが質問する。
「小僧」
「何だ?」
「肺炎患者を診る時、何を見る?」
レインは即答した。
「聴診」
「他は?」
「呼吸数」
「他は?」
「顔色」
「他は?」
質問が飛ぶ。
次々と...
まるで試験だった。
レインも答える。
だが途中で止まった。
「……そこは分からない」
ドクトリーヌが笑う。
「素直でいい」
周囲の医師たちは驚いていた。
今までレインは何を聞かれても答えていた。
だがドクトリーヌの経験は別格だった。
百十三年。
百年以上だ。
診てきた患者の数も。
経験した病気の数も。
想像もつかない。
レインもそれを感じていた。
凄い。
純粋にそう思った。
前世を含めても、ここまでの医者には会ったことがない。
気付けば二時間が過ぎていた。
昼を回っている。
だが誰も席を立たない。
若い医師たちなど必死にメモを取っていた。
それほど価値のある時間だった。
その時だった。
病院の入口が騒がしくなる。
誰かが叫んでいた。
「先生!」
「先生はいるか!?」
声には焦りが滲んでいる。
全員が振り返った。
若い男が飛び込んでくる。
雪まみれだった。
息も切れている。
相当急いで来たのだろう。
「どうした?」
近くの医師が聞く。
男は叫んだ。
「村で倒れた人がいる!」
病院の空気が変わる。
勉強会の空気は一瞬で消えた。
全員が医者の顔になる。
ドクトリーヌが立ち上がった。
「症状は?」
「高熱です!」
「他は?」
「咳も止まりません!」
「いつからだい?」
「昨日からです!」
男は必死に答える。
そして続けた。
「最初は一人だったんです!」
「でも今朝には三人に増えて……」
ドクトリーヌの表情が変わった。
鋭くなる。
「他にもいるのかい?」
「分かりません!」
「村中が不安になってます!」
周囲の医師たちも緊張する。
感染症、その可能性が高かった。
レインも真剣な顔になる。
高熱。
咳。
複数人。
流行。
前世の知識が頭の中を巡る。
だが情報が足りない。
診なければ分からない。
「場所は?」
レインが聞く。
男が地図を広げる。
病院から半日ほど離れた雪村だった。
山の麓にある小さな集落らしい。
ドクトリーヌは即座に指示を出した。
「薬を準備しな」
「はい!」
「診察道具もだ」
「了解!」
病院が慌ただしく動き出す。
流石は医療国家だった。
対応が早い。
レインも立ち上がる。
「俺も行く」
周囲が振り返る。
ドクトリーヌはレインを見る。
しばらく無言だった。
そして、
「ついて来な」
レインが笑う。
「言われなくても行く」
ドクトリーヌも笑った。
「生意気な小僧だねぇ」
「よく言われる」
「ハッピーかい?」
突然だった。
レインは少しだけ笑う。
「今はかなりな」
ドクトリーヌも楽しそうに笑った。
どうやら気に入られたらしい。
周囲の医師たちが驚く。
ドクトリーヌが初対面の相手にここまで興味を示すのは珍しかった。
そして三十分後。
準備を終えた一行は病院を出発する。
降り続く雪。
白銀の世界。
先頭を歩くドクトリーヌ。
その隣を歩くレイン。
後ろには数人の医師たち。
そしてルーク。
雪道を進みながらレインは考えていた。
高熱。
咳。
集団発生。
ただの風邪か。
肺炎か。
それとも別の病気か。
まだ分からない。
だが一つだけ確かなことがあった。
医者としての自分が試される。
そんな予感がしていた。
そしてこの診療が、レインにとってドラム王国で最初の大きな試練になることを、まだ誰も知らなかった。