ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百五十一話「魔女」

 

「なら話を聞かせてくれ」

 

レインが言う。

 

「俺も色々聞きたい」

 

ドクトリーヌはニヤリと笑った。

 

「面白い小僧だねぇ」

 

周囲の医師たちは冷や汗を流していた。

 

普通ならあり得ない。

 

初対面でこんな会話になること自体が珍しい。

 

しかも相手はドクトリーヌだ。

 

ドラム王国で知らぬ者はいない伝説の医師。

 

百年以上現役を続ける『魔女』。

 

そんな人物に対して、十四歳の少年が対等に話している。

 

だが当人たちは全く気にしていなかった。

 

むしろ楽しそうだった。

 

ドクトリーヌは近くの椅子へ腰掛ける。

 

そして顎でレインを指した。

 

「座りな」

 

「分かった」

 

レインも向かいへ腰を下ろす。

 

気付けば周囲には大勢の医師が集まっていた。

 

若手医師。

 

中堅医師。

 

ベテラン医師。

 

皆が興味津々だった。

 

東の海から来た天才少年医師。

 

そしてドクトリーヌ。

 

こんな組み合わせは滅多に見られない。

 

ルークは壁際へ移動する。

 

経験上分かる。

 

こういう時のレインは長い。

 

そして止まらない。

 

案の定だった。

 

「まず聞きたい」

 

レインが真っ先に口を開く。

 

「凍傷患者への処置だ」

 

周囲が静まり返る。

 

いきなり専門的な話だった。

 

ドクトリーヌは笑う。

 

「そこからかい」

 

「面白そうだったからな」

 

「観光には興味ないのかい?」

 

「後で見る」

 

「変わった小僧だねぇ」

 

ドクトリーヌは楽しそうに笑った。

 

そして話し始める。

 

凍傷。

 

低体温症。

 

寒冷障害。

 

雪国特有の感染症。

 

東の海ではまず見ない病気ばかりだった。

 

レインは夢中になった。

 

知らないことばかりだった。

 

だから面白い。

 

「なるほど」

 

「そういう考え方か」

 

「それは知らなかった」

 

レインの目が輝く。

 

周囲の医師たちも驚いていた。

 

知らないことを知らないと言える。

 

それは簡単なようで難しい。

 

天才と呼ばれる者ほど、自分の間違いを認めたがらない。

 

だがレインは違った。

 

知らないなら学ぶ。

 

それだけだった。

 

しばらくしてドクトリーヌが質問する。

 

「小僧」

 

「何だ?」

 

「肺炎患者を診る時、何を見る?」

 

レインは即答した。

 

「聴診」

 

「他は?」

 

「呼吸数」

 

「他は?」

 

「顔色」

 

「他は?」

 

質問が飛ぶ。

 

次々と...

 

まるで試験だった。

 

レインも答える。

 

だが途中で止まった。

 

「……そこは分からない」

 

ドクトリーヌが笑う。

 

「素直でいい」

 

周囲の医師たちは驚いていた。

 

今までレインは何を聞かれても答えていた。

 

だがドクトリーヌの経験は別格だった。

 

百十三年。

 

百年以上だ。

 

診てきた患者の数も。

 

経験した病気の数も。

 

想像もつかない。

 

レインもそれを感じていた。

 

凄い。

 

純粋にそう思った。

 

前世を含めても、ここまでの医者には会ったことがない。

 

気付けば二時間が過ぎていた。

 

昼を回っている。

 

だが誰も席を立たない。

 

若い医師たちなど必死にメモを取っていた。

 

それほど価値のある時間だった。

 

その時だった。

 

病院の入口が騒がしくなる。

 

誰かが叫んでいた。

 

「先生!」

 

「先生はいるか!?」

 

声には焦りが滲んでいる。

 

全員が振り返った。

 

若い男が飛び込んでくる。

 

雪まみれだった。

 

息も切れている。

 

相当急いで来たのだろう。

 

「どうした?」

 

近くの医師が聞く。

 

男は叫んだ。

 

「村で倒れた人がいる!」

 

病院の空気が変わる。

 

勉強会の空気は一瞬で消えた。

 

全員が医者の顔になる。

 

ドクトリーヌが立ち上がった。

 

「症状は?」

 

「高熱です!」

 

「他は?」

 

「咳も止まりません!」

 

「いつからだい?」

 

「昨日からです!」

 

男は必死に答える。

 

そして続けた。

 

「最初は一人だったんです!」

 

「でも今朝には三人に増えて……」

 

ドクトリーヌの表情が変わった。

 

鋭くなる。

 

「他にもいるのかい?」

 

「分かりません!」

 

「村中が不安になってます!」

 

周囲の医師たちも緊張する。

 

感染症、その可能性が高かった。

 

レインも真剣な顔になる。

 

高熱。

 

咳。

 

複数人。

 

流行。

 

前世の知識が頭の中を巡る。

 

だが情報が足りない。

 

診なければ分からない。

 

「場所は?」

 

レインが聞く。

 

男が地図を広げる。

 

病院から半日ほど離れた雪村だった。

 

山の麓にある小さな集落らしい。

 

ドクトリーヌは即座に指示を出した。

 

「薬を準備しな」

 

「はい!」

 

「診察道具もだ」

 

「了解!」

 

病院が慌ただしく動き出す。

 

流石は医療国家だった。

 

対応が早い。

 

レインも立ち上がる。

 

「俺も行く」

 

周囲が振り返る。

 

ドクトリーヌはレインを見る。

 

しばらく無言だった。

 

そして、

 

「ついて来な」

 

レインが笑う。

 

「言われなくても行く」

 

ドクトリーヌも笑った。

 

「生意気な小僧だねぇ」

 

「よく言われる」

 

「ハッピーかい?」

 

突然だった。

 

レインは少しだけ笑う。

 

「今はかなりな」

 

ドクトリーヌも楽しそうに笑った。

 

どうやら気に入られたらしい。

 

周囲の医師たちが驚く。

 

ドクトリーヌが初対面の相手にここまで興味を示すのは珍しかった。

 

そして三十分後。

 

準備を終えた一行は病院を出発する。

 

降り続く雪。

 

白銀の世界。

 

先頭を歩くドクトリーヌ。

 

その隣を歩くレイン。

 

後ろには数人の医師たち。

 

そしてルーク。

 

雪道を進みながらレインは考えていた。

 

高熱。

 

咳。

 

集団発生。

 

ただの風邪か。

 

肺炎か。

 

それとも別の病気か。

 

まだ分からない。

 

だが一つだけ確かなことがあった。

 

医者としての自分が試される。

 

そんな予感がしていた。

 

そしてこの診療が、レインにとってドラム王国で最初の大きな試練になることを、まだ誰も知らなかった。

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