ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百五十三話「共通点」

 

雪村での診察が一段落した頃には、外はすっかり暗くなっていた。

 

窓の外では雪が静かに降り続いている。

 

村の集会所には暖炉の火が灯され、その周囲にドクトリーヌ、レイン、医師団の面々が集まっていた。

 

長机の上には今日一日で集めた診察記録が並べられている。

 

患者八名。

 

全員が高熱と激しい咳を訴えていた。

 

肺にも異常が見られる。

 

しかし、ここまで診察しても決定的な原因はまだ分からなかった。

 

ドクトリーヌは椅子に深く腰掛けながら杖を机へ立て掛ける。

 

「さて、報告しな」

 

その一言で医師団が順番に説明を始めた。

 

「一人目、猟師のゴードン。四十二歳。発症は三日前。高熱と咳、肺音に異常あり」

 

「二人目、雑貨屋の主人。五十一歳。発症は二日前」

 

「三人目、雑貨屋の娘。十四歳。発症は二日前」

 

報告が続いていく。

 

レインは黙って聞いていた。

 

ただ聞いているだけではない。

 

頭の中では情報を整理し続けている。

 

前世で営業として会社経営に携わっていた経験がある。

 

問題解決の基本は情報収集と分析だ。

 

原因不明の病気も本質的には同じだった。

 

全ての情報を書き出し、共通点を探す。

 

そこから仮説を立てる。

 

そして検証する。

 

やがて全員の報告が終わった。

 

室内に静寂が訪れる。

 

ドクトリーヌがレインを見る。

 

「何か見えたかい?」

 

その問いに、レインはすぐには答えなかった。

 

机の上に広げられた記録へ視線を落とす。

 

何度も読み返した内容だ。

 

それでも違和感がある。

 

「先生」

 

「何だい」

 

「まず確認したいことがあります」

 

レインは一枚の紙を取り上げた。

 

「家族全員が発症している患者はいますか?」

 

医師団の一人が答える。

 

「いません」

 

「誰一人?」

 

「ええ」

 

レインは頷いた。

 

やはりそうだった。

 

もし強い感染症なら家族内で広がっていてもおかしくない。

 

もちろん例外はある。

 

だが八人も患者がいて、一人も家族全員に広がっていないのは気になった。

 

ドクトリーヌも同じことを考えていたらしい。

 

「感染症なら少し妙だねぇ」

 

「はい」

 

レインは続ける。

 

「次に発症時期です」

 

三日前に一人。

 

二日前に二人。

 

昨日に二人。

 

今日に三人。

 

徐々に増えている。

 

爆発的な流行ではない。

 

だが確実に患者は増加している。

 

レインは地図を広げた。

 

昼間のうちに村人へ聞き取りを行い、患者の住居を書き込んでいた。

 

「こちらを見てください」

 

医師団が集まる。

 

地図を見た瞬間、一人が声を上げた。

 

「あれ?」

 

別の医師も気付いた。

 

「偏っているな」

 

患者の家が村の北側に集中している。

 

南側には患者がいない。

 

偶然とは思えなかった。

 

ドクトリーヌの目が細くなる。

 

「面白いね」

 

「俺もそう思います」

 

レインはさらに紙を取り出した。

 

「年齢は八歳から六十六歳まで」

 

「職業も違う」

 

「生活環境も違う」

 

「家族構成も違う」

 

一つずつ条件を潰していく。

 

共通点が見つからない。

 

いや、一つだけあった。

 

レインは村人への聞き取り結果を見せた。

 

「患者全員が同じ井戸を利用しています」

 

その瞬間、空気が変わった。

 

医師団が顔を見合わせる。

 

ドクトリーヌも腕を組んだ。

 

「井戸か」

 

「可能性は高いと思います」

 

もし水が原因なら説明がつく。

 

地域が偏る理由。

 

発症時期がずれる理由。

 

家族全員が感染していない理由。

 

全て繋がる。

 

だがまだ確定ではない。

 

その時だった。

 

集会所の隅にいた老人が突然声を上げる。

 

「あっ!」

 

全員が振り返った。

 

「どうした?」

 

ドクトリーヌが聞く。

 

老人は慌てて立ち上がった。

 

「そういえば、北側の共同井戸が凍ったんです」

 

「いつだい?」

 

「二週間ほど前です」

 

レインが身を乗り出した。

 

「それで?」

 

「それで皆、昔使っていた古い井戸を利用するようになったんです」

 

室内が静まり返る。

 

レインとドクトリーヌは顔を見合わせた。

 

「古い井戸?」

 

「はい」

 

老人は頷く。

 

「山の麓にあります」

 

「今まで使われていなかったのかい?」

 

「水量が少なくて普段は予備扱いでした」

 

レインは地図を確認する。

 

老人に場所を聞き、井戸の位置を書き込む。

 

そして患者の家と見比べる。

 

一致していた。

 

患者全員がその井戸を利用している。

 

偶然ではない。

 

少なくともレインにはそう思えた。

 

ドクトリーヌが笑う。

 

「臭ってきたねぇ」

 

「かなり」

 

百年以上の経験を持つ名医も同じ結論に近づいているらしい。

 

レインは考える。

 

もし井戸水が原因なら何だろう。

 

細菌。

 

寄生虫。

 

動物の死骸による汚染。

 

あるいは鉱物による中毒。

 

可能性はいくらでもある。

 

実際に調べなければ分からない。

 

その時だった。

 

バンッ!

 

集会所の扉が勢いよく開いた。

 

冷たい風と雪が吹き込んでくる。

 

若い村人が息を切らしながら飛び込んできた。

 

「先生!」

 

「何だい!」

 

「新しい患者です!」

 

全員が立ち上がる。

 

「症状は?」

 

レインが聞いた。

 

「高熱と咳です!」

 

また増えた。

 

状況は想像以上に深刻だった。

 

ドクトリーヌの表情が険しくなる。

 

「患者は誰だい?」

 

村人は答えた。

 

「井戸の管理をしていたトーマスさんです!」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

レインの背筋に電流が走った。

 

井戸の管理人。

 

つまり誰よりも井戸を利用していた人物。

 

ドクトリーヌも同じことを考えたらしい。

 

「ほう」

 

百十三歳の名医の目が鋭く光る。

 

レインも立ち上がった。

 

「先生」

 

「ああ」

 

「まず患者を診ましょう」

 

「その後で井戸だね」

 

二人は頷き合う。

 

原因はまだ断定できない。

 

だが確実に核心へ近づいている。

 

雪村で起きた集団発熱。

 

その裏には、誰も気付かなかった何かが隠されている。

 

レインは診察鞄を手に取った。

 

そしてドクトリーヌと共に集会所を飛び出す。

 

外では雪が降り続いていた。

 

しかし二人の視線は既に次の患者と、その先にある真実へ向けられていた。

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