ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二百五十四話「井戸の真実」

 

雪が降り続く夜。

 

レインとドクトリーヌは村人に案内されながら、新たな患者の家へ急いでいた。

 

足元は深い雪に覆われている。

 

吐く息は白い。

 

しかし誰も寒さを気にしている余裕はなかった。

 

患者は井戸の管理人。

 

もし二人の推測が正しければ、この男は重要な手掛かりを握っている可能性が高い。

 

やがて一軒の木造家屋へ到着した。

 

家の中へ入ると熱気が漂う。

 

暖炉が焚かれているにもかかわらず、部屋の空気は重苦しかった。

 

ベッドには五十代ほどの男性が横たわっている。

 

顔は真っ赤に腫れ上がり、荒い呼吸を繰り返していた。

 

「ゴホッ! ゴホッ!」

 

激しい咳。

 

かなり苦しそうだ。

 

ドクトリーヌがすぐに診察を始める。

 

レインも反対側へ回った。

 

額に触れる。

 

高熱。

 

脈拍は速い。

 

呼吸数も多い。

 

胸へ耳を当てる。

 

肺の状態を確認する。

 

しばらくして顔を上げた。

 

「先生」

 

「ああ」

 

「他の患者と同じです」

 

「だろうねぇ」

 

ドクトリーヌも同意した。

 

症状は完全に一致している。

 

ただし。

 

レインは別のことが気になった。

 

「トーマスさん」

 

患者へ声をかける。

 

「……何だ……」

 

意識はある。

 

話はできそうだった。

 

「最近、井戸に変わったことはありませんでしたか?」

 

男は苦しそうに咳き込みながら考える。

 

「変わったこと……?」

 

「何でもいいです」

 

「水の色が変だったとか、臭いがしたとか」

 

男はしばらく考え込む。

 

そしてゆっくり口を開いた。

 

「そういえば……」

 

全員が耳を傾けた。

 

「先週……少しだけ濁っていた日があったな……」

 

レインとドクトリーヌの目が鋭くなる。

 

「濁り?」

 

「ああ……でも次の日には元に戻ってたから気にしなかった……」

 

「他には?」

 

「山の方で……変な音がしていた気もする……」

 

「変な音?」

 

「岩が崩れるような……」

 

そこで男は再び激しく咳き込んだ。

 

これ以上は無理そうだった。

 

ドクトリーヌが薬を飲ませる。

 

「無理に話すんじゃないよ」

 

男は小さく頷いた。

 

診察を終えた二人は家の外へ出る。

 

冷たい夜風が吹き付けた。

 

レインは考え込む。

 

濁った井戸水。

 

山で聞こえた崩落音。

 

偶然だろうか。

 

「先生」

 

「何だい」

 

「今から井戸を見に行きたいです」

 

ドクトリーヌはニヤリと笑った。

 

「私も同じことを考えてたよ」

 

ルークが呆れたような顔をする。

 

「今からですか?」

 

「今だからだ」

 

レインは答える。

 

患者は増え続けている。

 

朝まで待つ理由はない。

 

原因があるなら一刻も早く突き止めるべきだった。

 

医師団の数名も同行することになった。

 

村人の案内で北側の井戸へ向かう。

 

雪道を十分ほど進む。

 

やがて目的地が見えてきた。

 

古びた石造りの井戸だった。

 

普段はほとんど使われていないらしく、周囲には人の気配が少ない。

 

レインはランタンを掲げながら周辺を調べ始めた。

 

まずは井戸水。

 

桶を使って汲み上げる。

 

透明に見える。

 

しかし。

 

レインは鼻を近付けた。

 

「……」

 

微かな違和感。

 

何かの臭いがする。

 

腐敗臭ではない。

 

だが自然の水とも違う。

 

ドクトリーヌも確認する。

 

「確かに変だねぇ」

 

レインは周囲へ目を向けた。

 

そして気付く。

 

井戸のさらに上。

 

山の斜面に不自然な跡があった。

 

「先生」

 

「ああ」

 

二人は同時に見上げた。

 

崩落の跡だった。

 

雪で隠れているが分かる。

 

最近崩れたらしい。

 

レインはすぐに斜面を登り始めた。

 

ルークも続く。

 

数分後。

 

崩落現場へ到着する。

 

そして。

 

レインは足を止めた。

 

「……そういうことか」

 

そこには動物の死骸があった。

 

しかも一匹ではない。

 

数頭分。

 

雪と土砂に巻き込まれ、腐敗が進んでいる。

 

恐らく崩落によって地中から流れ出したのだろう。

 

ドクトリーヌが顔をしかめる。

 

「なるほどね」

 

レインは周囲を確認する。

 

崩落現場から地下水が流れている。

 

そしてその流れは井戸の方向へ向かっていた。

 

答えは見えた。

 

「井戸水が汚染されています」

 

医師団が息を呑む。

 

「感染症じゃないんですか?」

 

一人が聞く。

 

レインは首を振った。

 

「感染症ではあります」

 

「ただし患者同士で感染しているわけではありません」

 

「全員が同じ汚染水を飲んでいる」

 

ドクトリーヌも頷く。

 

「だから発症地域が限定されていたわけだ」

 

全て繋がった。

 

井戸の凍結。

 

予備井戸への切り替え。

 

山の崩落。

 

死骸による水質汚染。

 

患者の増加。

 

ようやく原因へ辿り着いた。

 

しかし問題は終わっていない。

 

むしろここからだった。

 

レインは真剣な表情で言う。

 

「今すぐ村人全員に通達してください」

 

「この井戸の使用を禁止します」

 

医師団が頷く。

 

すぐに動き出した。

 

ドクトリーヌは満足そうに笑った。

 

「十四歳でここまで見抜くかい」

 

「前世……じゃなかった」

 

レインは慌てて口を閉じる。

 

ドクトリーヌが眉をひそめる。

 

「何だって?」

 

「何でもありません」

 

「怪しいねぇ」

 

ルークが額を押さえた。

 

危なかった。

 

あと少しでとんでもない秘密を漏らすところだった。

 

そんな二人を見てドクトリーヌは笑う。

 

「まあいいさ」

 

そして真剣な顔になった。

 

「原因は分かった」

 

「次は治療だよ」

 

レインも頷く。

 

原因を突き止めるだけでは医者ではない。

 

患者を治してこそだ。

 

雪村の危機はまだ終わっていない。

 

しかしようやく戦うべき相手の正体が見えたのだった。

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