ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
雪が降り続く夜。
レインとドクトリーヌは村人に案内されながら、新たな患者の家へ急いでいた。
足元は深い雪に覆われている。
吐く息は白い。
しかし誰も寒さを気にしている余裕はなかった。
患者は井戸の管理人。
もし二人の推測が正しければ、この男は重要な手掛かりを握っている可能性が高い。
やがて一軒の木造家屋へ到着した。
家の中へ入ると熱気が漂う。
暖炉が焚かれているにもかかわらず、部屋の空気は重苦しかった。
ベッドには五十代ほどの男性が横たわっている。
顔は真っ赤に腫れ上がり、荒い呼吸を繰り返していた。
「ゴホッ! ゴホッ!」
激しい咳。
かなり苦しそうだ。
ドクトリーヌがすぐに診察を始める。
レインも反対側へ回った。
額に触れる。
高熱。
脈拍は速い。
呼吸数も多い。
胸へ耳を当てる。
肺の状態を確認する。
しばらくして顔を上げた。
「先生」
「ああ」
「他の患者と同じです」
「だろうねぇ」
ドクトリーヌも同意した。
症状は完全に一致している。
ただし。
レインは別のことが気になった。
「トーマスさん」
患者へ声をかける。
「……何だ……」
意識はある。
話はできそうだった。
「最近、井戸に変わったことはありませんでしたか?」
男は苦しそうに咳き込みながら考える。
「変わったこと……?」
「何でもいいです」
「水の色が変だったとか、臭いがしたとか」
男はしばらく考え込む。
そしてゆっくり口を開いた。
「そういえば……」
全員が耳を傾けた。
「先週……少しだけ濁っていた日があったな……」
レインとドクトリーヌの目が鋭くなる。
「濁り?」
「ああ……でも次の日には元に戻ってたから気にしなかった……」
「他には?」
「山の方で……変な音がしていた気もする……」
「変な音?」
「岩が崩れるような……」
そこで男は再び激しく咳き込んだ。
これ以上は無理そうだった。
ドクトリーヌが薬を飲ませる。
「無理に話すんじゃないよ」
男は小さく頷いた。
診察を終えた二人は家の外へ出る。
冷たい夜風が吹き付けた。
レインは考え込む。
濁った井戸水。
山で聞こえた崩落音。
偶然だろうか。
「先生」
「何だい」
「今から井戸を見に行きたいです」
ドクトリーヌはニヤリと笑った。
「私も同じことを考えてたよ」
ルークが呆れたような顔をする。
「今からですか?」
「今だからだ」
レインは答える。
患者は増え続けている。
朝まで待つ理由はない。
原因があるなら一刻も早く突き止めるべきだった。
医師団の数名も同行することになった。
村人の案内で北側の井戸へ向かう。
雪道を十分ほど進む。
やがて目的地が見えてきた。
古びた石造りの井戸だった。
普段はほとんど使われていないらしく、周囲には人の気配が少ない。
レインはランタンを掲げながら周辺を調べ始めた。
まずは井戸水。
桶を使って汲み上げる。
透明に見える。
しかし。
レインは鼻を近付けた。
「……」
微かな違和感。
何かの臭いがする。
腐敗臭ではない。
だが自然の水とも違う。
ドクトリーヌも確認する。
「確かに変だねぇ」
レインは周囲へ目を向けた。
そして気付く。
井戸のさらに上。
山の斜面に不自然な跡があった。
「先生」
「ああ」
二人は同時に見上げた。
崩落の跡だった。
雪で隠れているが分かる。
最近崩れたらしい。
レインはすぐに斜面を登り始めた。
ルークも続く。
数分後。
崩落現場へ到着する。
そして。
レインは足を止めた。
「……そういうことか」
そこには動物の死骸があった。
しかも一匹ではない。
数頭分。
雪と土砂に巻き込まれ、腐敗が進んでいる。
恐らく崩落によって地中から流れ出したのだろう。
ドクトリーヌが顔をしかめる。
「なるほどね」
レインは周囲を確認する。
崩落現場から地下水が流れている。
そしてその流れは井戸の方向へ向かっていた。
答えは見えた。
「井戸水が汚染されています」
医師団が息を呑む。
「感染症じゃないんですか?」
一人が聞く。
レインは首を振った。
「感染症ではあります」
「ただし患者同士で感染しているわけではありません」
「全員が同じ汚染水を飲んでいる」
ドクトリーヌも頷く。
「だから発症地域が限定されていたわけだ」
全て繋がった。
井戸の凍結。
予備井戸への切り替え。
山の崩落。
死骸による水質汚染。
患者の増加。
ようやく原因へ辿り着いた。
しかし問題は終わっていない。
むしろここからだった。
レインは真剣な表情で言う。
「今すぐ村人全員に通達してください」
「この井戸の使用を禁止します」
医師団が頷く。
すぐに動き出した。
ドクトリーヌは満足そうに笑った。
「十四歳でここまで見抜くかい」
「前世……じゃなかった」
レインは慌てて口を閉じる。
ドクトリーヌが眉をひそめる。
「何だって?」
「何でもありません」
「怪しいねぇ」
ルークが額を押さえた。
危なかった。
あと少しでとんでもない秘密を漏らすところだった。
そんな二人を見てドクトリーヌは笑う。
「まあいいさ」
そして真剣な顔になった。
「原因は分かった」
「次は治療だよ」
レインも頷く。
原因を突き止めるだけでは医者ではない。
患者を治してこそだ。
雪村の危機はまだ終わっていない。
しかしようやく戦うべき相手の正体が見えたのだった。