ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
長老との面会から翌日。
レイン達は朝早くから島の北側へ向かっていた。
目的地は鉄鉱石鉱山。
長老から正式な許可を貰った以上、堂々と調査ができる。
レインの足取りは軽かった。
石油を発見してからというもの、頭の中では様々な構想が浮かんでは消えている。
工房の拡張。
新しい工具。
新しい設備。
そしていつか実現したい飛行機。
その全てに鉄は必要だった。
木だけでは限界がある。
石油だけでも足りない。
だからこそ、今回の調査は重要だった。
「楽しそうですね」
隣を歩くルークが呆れたように言う。
「楽しいよ」
「鉱山ですよ?」
「鉱山だよ」
「何が楽しいのですか?」
レインは少し考える。
「宝探しみたいなものかな」
ルークは納得できなかった。
父親は笑う。
「お前の場合、本当に宝を見つけるからな」
石油のことを思い出しているのだろう。
ルークも苦笑した。
否定できない。
森を抜ける。
坂道を登る。
徐々に景色が変わっていく。
木々が減る。
代わりに岩肌が増える。
土の色も少し赤みを帯びていた。
そして、しばらく歩いた先で視界が開けた。
「おぉ……」
レインは思わず声を漏らした。
山だった。
大きな山ではない。
だが、山肌の一部が大きく削られている。
人の手が入った跡。
そこかしこに人影が見える。
ツルハシを振るう者。
荷車を押す者。
鉱石を運ぶ者。
初めて見る光景だった。
「これが鉱山か」
レインは目を細める。
前世で写真や映像を見たことはある。
だが、実際に見るのは初めてだった。
父親が笑う。
「思ったより小さいだろ」
図星だった。
「少しだけ」
「島で使う分しか掘ってないからな」
レインは納得する。
確かにそうだ。
この島は船大工の島。
鉄を売る島ではない。
必要な分だけ確保できれば十分なのだろう。
だが、レインの考えは違った。
もし採掘量を増やせたら。
もし加工技術を向上できたら。
この島はもっと発展できる。
そんな考えが自然と浮かんでくる。
「その顔やめろ」
父親が言った。
「どの顔?」
「何か企んでる顔」
ルークも頷く。
「僕もそう思います」
否定できなかった。
三人は採掘現場へ近付く。
すると、一人の男が近寄ってきた。
日に焼けた肌。
太い腕。
いかにも現場の責任者という雰囲気だった。
「誰だ?」
低い声が響く。
父親が前へ出る。
「長老の許可を貰って来た」
紙を見せる。
男は目を通した。
そして頷く。
「なるほど」
「なら問題ない」
どうやら鉱山の責任者らしい。
男はレインを見る。
「お前がレインか」
「知ってるんですか?」
「噂は聞いてる」
少し笑う。
「滑車のガキだろ」
ルークが吹き出した。
父親も笑う。
レインだけが少し不満だった。
「名前あるんだけど」
責任者は豪快に笑った。
「悪い悪い」
その様子を見てレインも苦笑する。
どうやら本当に島中へ噂が広がっているらしい。
責任者は案内を始める。
採掘現場。
鉄鉱石の集積場。
運搬用の荷車。
次々に見せてくれる。
レインはその全てを観察していた。
そして気付く…効率が悪い…あまりにも悪い。
採掘は人力。
運搬も人力。
積み込みも人力。
ほぼ全てが人力だった。
責任者が苦笑する。
「大変だろ?」
「大変ですね」
レインは素直に頷いた。
前世の知識があるからこそ分かる。
改善できる場所が多すぎた。
「人手が足りなくてな」
責任者が言う。
「船大工も必要だ」
「漁師も必要だ」
「だから鉱山ばかりに人は回せん」
レインは黙って聞いていた。
確かにその通りだった。
人間は無限ではない。
だからこそ、効率化が必要になる。
レインの頭の中で歯車が回り始める。
ルークがそれに気付いた。
「嫌な予感がします」
父親も頷く。
「俺もだ」
責任者だけが意味が分からなかった。
しばらく歩く。
やがて、岩肌が露出している場所へ到着した。
責任者が指差す。
「これだ」
レインは近付く。
岩の中に黒っぽい鉱石が混じっている。
しゃがみ込む。
そっと触れる。
冷たい。
硬い。
鉄鉱石だった。
その瞬間、レインは小さく息を呑んだ。
前世では当たり前だった。
鉄の工具。
鉄の建物。
鉄の橋。
鉄の船。
だが、その全ての始まりは目の前の石なのだ。
石油が文明の血液なら。
鉄は文明の骨格。
その両方がこの島にある。
偶然とは思えなかった。
「すごい……」
思わず呟く。
責任者が首を傾げる。
「そんなに珍しいか?」
「珍しい」
レインは即答した。
そして、その時だった。
視線が止まる。
山の奥。
採掘場から少し離れた場所。
古い坑道があった。
入口は半分崩れている。
木の支柱も朽ちている。
誰も近付いていない。
だが、なぜか気になった。
石油を見つける前と同じ感覚。
理由は分からない。
だが、何かがある。
そんな気がした。
「父さん」
「なんだ」
レインは古い坑道を指差した。
「あれは?」
責任者が振り返る。
そして少し顔をしかめた。
「あぁ」
「昔の坑道だ」
「今は使ってない」
「危険だから立入禁止だ」
レインは黙って見つめる。
暗い坑道。
静かな入口。
誰も気にしていない場所。
だが、なぜだろう…妙に目が離せなかった。
レインは小さく笑った。
「面白そうだな」
父親が頭を抱える。
ルークも頭を抱える。
「始まりましたね」
「あぁ」
二人のため息が重なった。
そして、少年の新たな好奇心は、静かにその古い坑道へ向けられていた。