ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第二十九話 「設計図」

 

鉱山から帰ったその日の夜。

 

レインは夕食を終えると、誰に言われるでもなく工房へ向かっていた。

 

夜風が吹いている。

 

港の喧騒も徐々に静まり、聞こえるのは波の音と時折鳴く鳥の声だけだった。

 

だが、レインの頭の中は静かではない。

 

むしろ逆だった。

 

鉱山で見た光景が何度も何度も繰り返し再生されている。

 

作業員達。

 

重い鉱石。

 

険しい坂道。

 

何度も往復する人影。

 

そして大量の時間。

 

「もったいない」

 

自然と口から言葉が漏れた。

 

鉱石を掘る作業は必要だ。

 

砕く作業も必要だ。

 

だが、運ぶ作業に人を使い過ぎている。

 

それがレインには気になって仕方なかった。

 

前世の知識があるからこそ分かる。

 

人は貴重だ。

 

だからこそ、人にしかできない仕事へ集中させるべきだった。

 

運搬は人間でなくてもできる。

 

ならば、仕組みを作ればいい。

 

工房へ入る。

 

机へ座る。

 

紙を広げる。

 

鉛筆を握る。

 

そして目を閉じた。

 

昼間見た鉱山を思い出す。

 

山の斜面。

 

採掘場。

 

保管場所。

 

高低差。

 

運搬経路。

 

頭の中で少しずつ形が出来上がっていく。

 

「ロープウェイじゃ駄目だな」

 

レインは呟いた。

 

前世なら可能だ。

 

だが今は違う。

 

材料も技術も足りない。

 

もっと単純で、もっと壊れにくく、もっとこの世界らしい仕組みが必要だった。

 

鉛筆を走らせる。

 

一本の線。

 

また一本。

 

山の斜面。

 

その横へ複数の滑車。

 

さらに滑車。

 

さらに滑車。

 

レインの目が輝く。

 

「これだ」

 

前世で学んだ物理。

 

単純機械。

 

滑車。

 

力の分散。

 

小さな力で大きな物を動かす技術。

 

それを応用する。

 

大型滑車一つではない。

 

小型滑車を大量に組み合わせる。

 

そうすれば少人数でも鉱石を引き上げられる。

 

「上はこれでいい」

 

問題は下だった。

 

普通なら下ろすのも人力だ。

 

だが、重力がある。

 

なら使わない理由はない。

 

レインは新しい図を描き始めた。

 

斜面。

 

その上を進む籠。

 

そして一定間隔に並ぶ装置。

 

「せり止め」

 

前世の鉄道や物流設備の知識が頭を過る。

 

完全な再現は無理だ。

 

だが考え方だけなら使える。

 

籠は重力で下へ進む。

 

しかしそのままでは危険だ。

 

暴走する。

 

だから途中で止める。

 

一定距離ごとに止める。

 

次の籠が到着した時だけ解除される。

 

そしてまた進む。

 

また止まる。

 

また進む。

 

レインは思わず笑った。

 

「面白い」

 

これなら人の力はほぼ必要ない。

 

上げる時だけ少人数。

 

下ろす時は重力。

 

運搬に使う人員を大幅に削減できる。

 

その時、工房の扉が開いた。

 

父親だった。

 

「やっぱりここか」

 

予想通りという顔をしている。

 

レインは振り返らない。

 

「うん」

 

父親は机へ近付く。

 

図面を見る。

 

そして、黙る。

 

しばらく黙る。

 

「何だこれは」

 

率直な感想だった。

 

「鉱山改革計画」

 

「そんな計画あったか?」

 

「今作った」

 

父親は頭を抱えた。

 

レインは構わず説明を始める。

 

大型滑車。

 

循環式リフト。

 

せり止め。

 

重力利用。

 

運搬効率。

 

父親は途中から理解を諦めた。

 

理解は出来る。

 

だが、発想がおかしい。

 

「もう寝ろ」

 

「無理」

 

即答だった。

 

父親は苦笑する。

 

「だろうな」

 

その時、再び扉が開く。

 

ルークだった。

 

「親方?」

 

「お前も来たのか」

 

「灯りが見えたので」

 

ルークは机へ近付く。

 

そして固まる。

 

「何ですかこれ」

 

「循環式リフト」

 

「意味が分かりません」

 

レインは説明する。

 

鉱石を掘る。

 

砕く。

 

籠へ入れる。

 

後は設備が運ぶ。

 

それだけだった。

 

説明を聞き終えたルークは図面を見つめる。

 

しばらく見つめる。

 

さらに見つめる。

 

そして、

 

「できるんですか?」

 

レインは即答した。

 

「できる」

 

迷いは一切ない。

 

父親が苦笑する。

 

「できるんだろうな……」

 

ルークも頷く。

 

「できるんでしょうね……」

 

レインが首を傾げる。

 

「何その反応」

 

ルークは肩を竦めた。

 

「もう驚かないだけです」

 

父親も頷く。

 

「滑車もそうだった」

 

「荷揚げ設備もそうだった」

 

「気付いたら完成してた」

 

確かにそうだった。

 

レインは少し考える。

 

そして、

 

「確かに」

 

「本人が言うな」

 

ルークが即座に突っ込んだ。

 

工房に笑い声が響く。

 

気付けば深夜になっていた。

 

最後の線を引く。

 

レインは大きく息を吐いた。

 

完成した設計図を見つめる。

 

大型滑車。

 

循環式リフト。

 

せり止め機構。

 

今まで存在しなかった運搬設備。

 

これが完成すれば、鉱山は変わる。

 

大きく変わる。

 

翌朝、レイン達は設計図を持って鉱山へ向かった。

 

責任者は作業員達へ指示を出していた。

 

「おう」

 

「また来たのか」

 

責任者が笑う。

 

レインも笑った。

 

そして設計図を差し出す。

 

「作ろう」

 

責任者は受け取る。

 

一枚目。

 

二枚目。

 

三枚目。

 

読み進めるにつれ表情が変わる。

 

真剣になる。

 

さらに真剣になる。

 

やがて最後のページへ到達した。

 

長い沈黙。

 

責任者は再び最初のページへ戻る。

 

もう一度読む。

 

そしてゆっくり顔を上げた。

 

「お前……」

 

レインを見る。

 

「頭どうなってるんだ?」

 

レインは笑った。

 

「よく言われる」

 

責任者は深く息を吐く。

 

「正直全部は分からん」

 

「だが」

 

図面を見る。

 

そして続けた。

 

「面白い」

 

レインの口元が少し上がった。

 

責任者も笑う。

 

「やってみるか」

 

こうして、鉱山改革計画は正式に動き始めた。

 

後に島の人々が、

 

「レインの最初の産業革命」

 

と呼ぶことになる出来事の始まりだった。

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