ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
翌朝。
レイン達は再び鉱山へ向かっていた。
朝日が山の向こうから顔を出し始めている。
空気は少し冷たい。
だが、その冷たさも長くは続かないだろう。
鉱山で働く者達は皆知っている。
太陽が高くなる頃には汗だくになる。
鉄鉱石を掘る仕事はそれほど過酷だった。
レインは歩きながら周囲を見ていた。
昨日見た鉱山。
作業員達。
運搬経路。
高低差。
全てを頭の中で再確認している。
構想は完成している。
設計図も完成している。
後は実行するだけだ。
その様子を見ながらルークはため息を吐いた。
「本当に作るんですね」
「作るよ」
「ですよね」
もはや確認する意味はなかった。
レインがここまで来た時点で止まらない。
父親も苦笑していた。
「止めても無駄だぞ」
「親方は諦めるの早すぎます」
「1年前から諦めてる」
「それ親としてどうなんですか」
「俺もそう思う」
全く反省していない顔だった。
三人は鉱山へ到着する。
既に作業は始まっていた。
ツルハシの音。
作業員達の掛け声。
荷車の軋む音。
昨日と変わらない光景。
だが、レインには違って見えた。
この光景はもうすぐ変わる。
そう確信していた。
責任者が近付いてくる。
「おう」
「また来たのか」
相変わらず豪快な男だった。
レインは頷く。
そして設計図を取り出した。
責任者は受け取る。
昨日見た図面。
だが、今日はさらに細かくなっていた。
支柱の寸法。
必要な木材。
必要なロープ。
作業人数。
工期。
全てが記載されている。
責任者は思わず眉を上げた。
六歳の子供が作ったとは思えない。
むしろ、下手な職人より詳しい。
「本当にやるんだな」
「やる」
即答だった。
迷いがない。
責任者は苦笑した。
「まず何が必要だ」
「人」
レインが答える。
「作業員が欲しい」
責任者は頷く。
当然だった。
どれだけ良い設計でも人手は必要だ。
「それなら貸してやる」
「うちの作業員を使え」
「鉱山のためだからな」
周囲で話を聞いていた作業員達も頷いた。
彼らも効率化には興味があった。
毎日重い鉱石を運ぶのは楽ではない。
少しでも楽になるなら歓迎だった。
だが、レインは首を横に振る。
「駄目」
責任者が首を傾げた。
「何でだ?」
「仕事だから」
その一言だった。
レインは鞄へ手を入れる。
父親が嫌な予感を覚えた。
ルークも同じだった。
そして、紙を取り出す。
見積書。
契約書。
父親は思わず顔を覆った。
「出た……」
ルークも空を見上げる。
「また始まりましたね」
責任者は書類を受け取る。
しばらく読む。
さらに読む。
また読む。
そして固まった。
そこには工事内容。
必要人員。
工期。
費用。
支払い条件。
保証内容。
全てが細かく記載されていた。
責任者は書類とレインを交互に見る。
もう一度見る。
そして、
「お前何歳だ?」
当然の疑問だった。
「六歳」
「嘘つけ」
即答だった。
周囲の作業員達が吹き出す。
父親も笑う。
ルークも笑う。
レインだけが不満そうだった。
「本当なんだけど」
「信じられるか!」
責任者が叫ぶ。
再び笑いが起きた。
鉱山に笑い声が響く。
責任者は書類へ視線を戻す。
そして真面目な顔になった。
「金はいらん」
「うちの設備だ」
「うちの作業員だ」
「うちが払う」
普通ならそうなる。
鉱山の利益になる。
なら鉱山側が負担する。
当然の考えだった。
だが、レインは首を横に振る。
「違う」
「何がだ」
「作業員を借りる」
「だから払う」
責任者が黙る。
レインは続けた。
「完成した後でいい」
「報酬はその時もらう」
「成功したら」
「その利益から払って」
責任者の表情が変わった。
理解したのだ。
これは単なる工事ではない。
投資だった。
レインが先に費用を出す。
成功したら回収する。
失敗したら損をする。
大人の商売そのものだった。
周囲の作業員達もざわつき始める。
六歳児の会話ではない。
どう見ても商人同士の交渉だった。
責任者は思わず笑う。
「本当に六歳か?」
「六歳」
「やっぱり嘘だな」
「本当」
また笑いが起きる。
少し離れた場所で。
父親はその様子を眺めていた。
ルークが近付く。
「止めないんですか?」
「何を?」
「全部です」
ルークは交渉中のレインを指差した。
「親方の息子ですよ?」
父親は少し考えた。
そして遠い目をする。
「昔は止めようと思った」
「今は?」
「諦めた」
「諦めないでください!」
ルークが叫ぶ。
父親は笑った。
「無理だ」
「計算は俺より速い」
「金の管理も上手い」
「帳簿も正確だ」
「俺がやるより効率が良い」
ルークは頭を抱えた。
「親としてそれで良いんですか……」
「良くないと思う」
「じゃあ止めてください!」
「無理だ」
即答だった。
ルークは天を仰ぐ。
この親子は駄目だ。
完全に駄目だ。
だが、どこか羨ましくもあった。
責任者は契約書を見つめる。
しばらく考える。
そして、ペンを取った。
「面白い」
署名を書く。
「契約成立だ」
レインも笑う。
前世では何度も経験した瞬間。
だが、この世界では初めてだった。
船大工として。
発明家として。
そして、経営者として。
レインは確かな一歩を踏み出した。
鉱山改革計画。
その第一歩が、正式に始まったのである。