ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
循環式リフトの試験が成功してから三日後。
鉱山は今までにない活気に包まれていた。
作業員達の表情が明るい。
声も大きい。
足取りも軽い。
理由は単純だった。
希望が見えたからだ。
今まで何年も変わらなかった作業。
毎日同じことを繰り返してきた。
重い鉱石を運び。
汗を流し。
腰を痛め。
腕を痛める。
それが当たり前だった。
だが、今は違う。
あの試作品は本当に動いた。
そして、誰もが実感した。
完成すれば楽になる。
確実に、だから作業員達も積極的だった。
「そっち持ち上げろ!」
「ロープ確認!」
「支柱固定完了!」
掛け声が飛び交う。
責任者はその光景を見ながら苦笑した。
「信じられねぇな」
誰に言うでもない独り言だった。
たった数日前、ここにいた誰もが半信半疑だった。
それが今ではどうだ。
全員が完成を信じて動いている。
その中心にいるのは、六歳の子供だった。
責任者の視線の先、レインは相変わらず忙しそうに動き回っている。
図面を確認する。
寸法を測る。
支柱を見る。
ロープを見る。
次の指示を出す。
休む暇がない。
「本当に六歳か?」
責任者が呟く。
すると近くにいたルークが即答した。
「俺もそう思います」
二人は顔を見合わせた。
そして同時にため息を吐く。
父親だけが笑っていた。
「慣れろ」
「無理です」
「俺も無理だった」
「親方が言わないでください」
現場に小さな笑いが起きた。
工事は順調だった。
試作品で問題になった部分も修正している。
せり止めの強度。
ロープの張力。
滑車の大きさ。
全て少しずつ改善された。
レインは試作品の結果を紙へまとめていた。
前世で言うなら実験結果。
失敗した箇所。
成功した箇所。
改善点。
それらを整理する。
「レインさん」
ルークが声を掛ける。
「ん?」
「普通失敗したら落ち込みません?」
レインは首を傾げた。
意味が分からなかった。
「何で?」
「何でって……」
ルークが困る。
レインは笑った。
「失敗した場所が分かったんだから成功じゃない?」
ルークが黙る。
責任者も聞いていた。
少し驚く。
なるほど、そういう考え方か。
だからこの少年は止まらないのかもしれない。
失敗を失敗と思っていない。
改善材料だと思っている。
前へ進むしかない考え方だった。
その日の夕方、最後の支柱が立った。
巨大だった。
鉱山の斜面に沿って並ぶ支柱。
張り巡らされたロープ。
せり止め機構。
そして循環式リフト。
数日前には存在しなかった設備。
作業員達が思わず見上げる。
「すげぇな……」
誰かが呟いた。
責任者も同じ気持ちだった。
まだ動いていない。
だが、既に迫力がある。
レインは完成した設備を見上げた。
感慨深い。
前世でもそうだった。
設計図が現実になる瞬間。
それが好きだった。
頭の中だけだったものが、実際に形になる。
何度経験しても楽しい。
「レイン」
責任者が呼ぶ。
「何?」
「明日だな」
レインは頷いた。
「明日だね」
いよいよ本格運用試験。
全員が少し緊張していた。
もし失敗したら、今までの苦労が無駄になる。
怪我人が出る可能性もある。
責任者は不安だった。
だが、レインを見る。
全く不安そうではない。
むしろ楽しそうだった。
「お前緊張しないのか?」
責任者が聞く。
レインは少し考える。
そして答えた。
「するよ」
「そうか?」
「でも成功するから」
責任者は笑った。
何だその自信は。
だが不思議だった。
その言葉を聞くと、本当に成功する気がしてくる。
夕日が鉱山を赤く染めていた。
作業員達も帰り支度を始める。
皆疲れている。
だが、どこか満足そうだった。
何かを作る喜び。
完成が近い高揚感。
それが現場全体を包んでいた。
帰り道、ルークがぽつりと呟く。
「完成したらどうなるんでしょうね」
父親が笑う。
「知らん」
「知らないんですか」
「だって毎回予想以上になる」
ルークは納得してしまった。
確かにそうだった。
滑車もそう。
荷揚げ設備もそう。
いつも予想より大きな成果になる。
だから今回も。
きっとそうなのだろう。
レインは少し前を歩いていた。
その表情は明るい。
既に次のことを考えている顔だった。
石油。
鉄鉱石。
鉱山。
工房。
そして未来。
少年の頭の中には、まだ誰も見たことのない世界が広がっていた。
そして翌日、鉱山の歴史が変わる日が訪れようとしていた。