ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
循環式リフトが完成してから一週間が経った。
鉱山の景色は少しずつ変わり始めていた。
以前と同じようにツルハシの音は響いている。
作業員達の掛け声も聞こえる。
荷車も動いている。
一見すると何も変わっていないように見える。
だが、実際に働いている者達は知っていた。
以前とは全く違う。
運搬に追われなくなった。
無駄な往復が減った。
疲労が減った。
そして何より、掘ることに集中できる。
責任者は高台から鉱山を見下ろしていた。
腕を組みながら作業員達の様子を眺める。
以前なら運搬担当だった者達も、今は採掘に回っている。
採掘現場の人数が増えたことで、目に見えて作業速度が上がっていた。
「本当に変わったな……」
思わず呟く。
たった一つの設備。
それだけで鉱山が変わっている。
そして今日は、その成果が数字として現れる日だった。
「責任者!」
若い作業員が走ってくる。
手には紙の束。
責任者はすぐに察した。
集計結果だ。
設備完成から一週間。
どれだけ成果が出たのか。
その答えがそこにある。
責任者は紙を受け取った。
そして目を通す。
運搬担当。
採掘担当。
採掘量。
作業時間。
数字を一つずつ確認する。
最初は真剣な顔だった。
だが、徐々に目が見開かれていく。
もう一度見る。
さらに見る。
そして、固まった。
「責任者?」
作業員が声を掛ける。
責任者は答えない。
数字を見る。
また見る。
そして、
「嘘だろ……」
小さく呟いた。
周囲の作業員達が集まってくる。
「どうしたんです?」
「何か問題ですか?」
責任者は無言で紙を差し出した。
作業員達が覗き込む。
そして、全員が固まった。
運搬担当。
十二人。
現在。
四人。
三分の一。
採掘担当。
八人。
十六人。
倍。
そして、
採掘量。
一・八倍。
沈黙。
数秒後。
歓声が上がった。
「増えてる!」
「一・八倍!?」
「すげぇ!」
責任者は思わず笑った。
いや、笑うしかなかった。
何十年も変わらなかった鉱山。
それが、たった一週間でここまで変わった。
「はははは!」
責任者は大声で笑った。
「やったぞ!」
「一・八倍だ!」
「一週間でだぞ!?」
今にも踊り出しそうな勢いだった。
作業員達も興奮している。
誰もが笑顔だった。
その頃、レインは工房にいた。
いつものように図面を書いている。
ルークが横から覗き込む。
「何書いてるんですか?」
「内緒」
「絶対また何か企んでますよね」
「失礼だな」
そんなやり取りをしていた時だった。
工房の扉が勢いよく開いた。
責任者だった。
「レイン!」
「どうしたの?」
責任者は紙を机へ叩き付けた。
「見ろ!」
レインは紙を受け取る。
静かに読む。
数字を見る。
計算する。
一行ずつ確認する。
そして、
「ふーん」
それだけだった。
工房が静まり返る。
責任者が固まる。
父親が固まる。
ルークも固まる。
「ふーん?」
責任者が聞き返した。
レインは再び数字を見る。
そして。
「思ったより少ない」
沈黙。
数秒後。
「はぁ!?」
責任者が叫んだ。
「一・八倍だぞ!?」
「十分すごいだろ!」
ルークも机を叩く。
「そうですよ!」
「二倍近いんですよ!?」
父親も頷く。
「普通は大成功だぞ」
レインは困った顔になる。
「いや、成功だよ?」
「十分成功」
「でも二倍くらい行くと思った」
全員が頭を抱えた。
やっぱり基準がおかしい。
責任者は大笑いした。
「分かった!」
「お前はそういう奴だ!」
そして懐から大きな袋を取り出した。
ずっしり重い。
かなり重い。
机の上へ置く。
ガチャリ。
大量の硬貨がぶつかる音が響いた。
「約束の報酬だ」
レインが袋を見る。
責任者は胸を張った。
「利益の二パーセント」
「一千万ベリー」
ルークが固まった。
父親も目を見開く。
「い、一千万ベリー!?」
責任者は笑う。
「安いくらいだ」
「こいつのおかげで鉱山が変わった」
「むしろもっと払ってもいい」
レインは袋を持ち上げる。
重さを確認する。
そして、
「妥当だね」
工房が静まり返った。
「妥当なのか!?」
三人の声が綺麗に重なった。
責任者は腹を抱えて笑う。
「やっぱり面白いな、お前」
そして、今度は真面目な顔になった。
懐からもう一枚の紙を取り出す。
「正直な」
責任者が言う。
「ここまでの物が出来るとは思ってなかった」
工房が静かになる。
責任者は紙をレインへ差し出した。
レインは受け取る。
目を通す。
そして、固まった。
父親が目を見開く。
「驚いたな」
ルークも頷く。
「初めて見ました」
一千万ベリーの時は平然としていた。
だが、この紙には反応した。
紙にはこう書かれていた。
鉄鉱石優先譲渡証
三か月間
レイン工房優先供給
必要量相談可
レインは何度も読み返す。
一千万ベリーより、こちらの方が圧倒的に嬉しかった。
責任者は笑う。
「個人的な礼だ」
「持っていけ」
「お前が必要だって言ってただろ」
レインは紙を見つめたまま答える。
「嬉しい」
即答だった。
「そんなにか?」
「うん」
「一千万ベリーより?」
レインは真顔で答えた。
「比べるまでもない」
工房が静まり返る。
「比べるまでもないの!?」
ルークが叫んだ。
父親も思わず笑う。
責任者はさらに笑った。
「やっぱりお前は面白い」
レインは紙を大事そうに見つめる。
鉄。
それは未来だった。
工具になる。
設備になる。
船になる。
可能性そのものだった。
しばらく談笑が続いた後。
責任者が真面目な顔になる。
「レイン」
「ん?」
「他に改善できる場所はあるか?」
工房が静かになる。
全員の視線がレインへ集まった。
レインは少し考える。
鉱山。
鉄。
設備。
職人。
頭の中で様々な情報が繋がっていく。
そして、答えが見えた。
レインは笑う。
「あるよ」
責任者が身を乗り出す。
レインはゆっくり口を開いた。
「鍛冶場」
その一言に、責任者の目が大きく見開かれた。
少年の視線は、既に鉱山のその先を見ていた。