ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
ガロアークの称号を授与されてから、一週間が経とうとしていた。
島の人々は相変わらずレインを見るたびに頭を下げる。
最初は一部だけだった。
だが今では違う。
市場へ行けば挨拶される。
港へ行けば声を掛けられる。
鉱山へ行けば歓迎される。
「レイン様!」
「やめて」
「さすが謙虚なお方だ……」
「違う」
いつもの流れだった。
レインは諦め始めていた。
完全に負けである。
その日も工房で図面を書いていた。
新しい鍛冶場。
鉄の加工設備。
将来の工房拡張計画。
ガロアークとして与えられた土地をどう使うか考えていた。
その時だった。
コンコン。
工房の扉が叩かれる。
父親が開ける。
そこに立っていたのは長老だった。
「長老?」
珍しい...自ら工房へ来ることなど滅多にない。
長老は静かに笑った。
「レイン」
「父親殿」
「少し話がある」
その声はいつもより真剣だった。
レインと父親は顔を見合わせる。
そして長老の家へ向かった。
ルークも付いて行こうとしたが。
「今回は駄目じゃ」
そう言われて追い返された。
ルークは物凄く気になった。
だが仕方ない。
長老の家。
島でも最も古い建物の一つ。
長老は二人を奥の部屋へ案内した。
古い机。
古い椅子。
そして壁には古びた地図が掛けられていた。
レインは少し気になった。
この島で地図は珍しい。
長老はゆっくり椅子へ座る。
そして、深く息を吐いた。
「まず謝らねばならん」
父親が首を傾げる。
「謝る?」
長老は頷いた。
「今まで黙っていたことがある」
部屋の空気が変わった。
レインも真面目な表情になる。
長老は二人を見る。
そして静かに告げた。
「わしは知っておる」
「お主達がヴェルク家の末裔だということを」
沈黙。
父親の表情が固まった。
レインも驚いた。
知っていた。
そういうことになる。
父親が口を開く。
「いつからですか」
「最初からじゃ」
長老は迷いなく答えた。
父親は苦笑した。
隠せていると思っていた。
だが、違ったらしい。
長老は立ち上がる。
そして壁に掛けられた地図の前へ向かった。
指を伸ばす。
島を指差す。
「この島」
「今では船大工の島として知られておる」
二人は頷く。
長老は続けた。
「だが最初からそうだったわけではない」
「昔は何もない島だった」
「人も少なかった」
「技術も無かった」
そして、
長老は静かに言った。
「それを変えたのが」
「ヴェルク・D・ルーメン」
レインの目が僅かに見開かれる。
その名前は地下施設で見た。
800年まえのジョイボーイの友であり、我々の祖先。
長老の声が少し誇らしくなる。
「この島を発見した人物」
「そして船大工の文明を作った人物」
「今の島の基礎を築いた人物」
父親も黙って聞いていた。
長老は机の引き出しを開ける。
古びた箱を取り出す。
その中には、
一冊の古い帳簿が入っていた。
何度も修復された跡がある。
長老はそれを開く。
最初のページ。
そこには一つの名前が記されていた。
ヴェルク・D・ルーメン
部屋が静まり返る。
長老は帳簿を撫でながら言った。
「わしの先祖は」
「ルーメン殿からこの島を託された」
「島を守れ」
「人々を導け」
「そう言われたそうじゃ」
父親は静かに聞いていた。
レインも同じだった。
長老は少し寂しそうに笑う。
「だがな」
「本当の長は違う」
レインが顔を上げる。
長老は二人を真っ直ぐ見た。
「本来この島の長は」
「ヴェルク家なんじゃ」
沈黙。
長老は続ける。
「わしらは代理人に過ぎん」
「島を預かっていただけじゃ」
父親は言葉を失った。
長老はゆっくり椅子へ座る。
その姿は以前より小さく見えた。
年老いている。
誰の目にも明らかだった。
「わしも年を取った」
「もう長くないじゃろう」
父親が何か言おうとする。
だが長老は首を横に振った。
「分かっておる」
「自分の身体じゃ」
静かな声だった。
受け入れている声だった。
長老はレインを見る。
そして父親を見る。
「もしわしに何かあった時」
「島を返したい」
「本来の持ち主へ」
部屋の空気が重くなる。
長老は続けた。
「今なら島民も納得する」
「ガロアークとなったレイン」
「島で有名な船大工で、レインの親である父親殿」
「どちらが長になっても誰も反対せん」
それは事実だった。
レインは既に島の英雄だった。
父親も島中で信頼されている。
長老は安心したように笑う。
「ようやく肩の荷が下りる」
その言葉には、何十年という重みがあった。
レインはしばらく黙っていた。
祖先。
ヴェルク・D・ルーメン。
船大工の文明。
島の長。
あまりにも話が大きい。
そして、レインは一つだけ思った。
「いきなり重いな……」
思わず本音が漏れた。
長老が吹き出した。
父親も笑う。
重い話だった。
だが、少しだけ空気が和らぐ。
長老は笑いながら言った。
「今すぐ決めろとは言わん」
「だが覚えておいてくれ」
「この島は」
「元々お主達の祖先が守った島じゃ」
窓の外では夕日が沈み始めていた。
レインは静かに外を見る。
そして思う。
鉄。
鍛冶場。
工房。
そして島。
気付けば、自分が背負うものは少しずつ増えていた。
だが、不思議と嫌ではなかった。