ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
長老との話から数日後。
レインはガロアークとして与えられた土地に立っていた。
工房から少し離れた場所にあるその土地は、想像していた以上に広い。工房を建てても余るだろうし、倉庫や資材置き場を作ったとしても、まだ十分な余裕がある。
将来何かを作るには申し分のない土地だった。
「広いな……」
レインが呟くと、隣で腕を組んでいた父親が苦笑した。
「それで、結局どう使うんだ?」
レインは少し考える。
頭の中には様々な案が浮かんでいた。
新しい工房。
研究施設。
資材置き場。
そして鍛冶場。
「鍛冶場かな」
そう答えると、父親は納得したように頷いた。
鉄鉱石が見つかった以上、いずれは必要になる。
むしろ自然な流れだった。
しかし、レインはそこでふと考え込む。
鉄鉱石はある。
鍛冶場も必要だ。
だが――
「でも、俺、鍛冶知らないな」
父親が思わず吹き出した。
「今更か!」
「大事なことだろ」
レインは不満そうに言い返した。
実際その通りだった。
鉄の知識はある。
前世の知識もある。
だが、それはあくまで知識だ。
実際に鉄を打ったことはないし、炉の温度も知らない。鉄を叩いた時の音の違いも分からない。
それで鍛冶場を作るのは違う気がした。
「学ぶか……」
そう呟いた瞬間、父親は嫌な予感を覚えた。
だが止める気はない。
どうせもう決めている。
長年の経験でそれくらいは分かるようになっていた。
その日の午後。
レインと父親は島唯一の鍛冶屋を訪れていた。
カン、カン、と鉄を打つ音が響く。
炉からは熱気が溢れ、赤く焼けた鉄が眩しく光っている。
まさに職人の世界だった。
鍛冶屋の主人は二人を見ると、豪快に笑った。
「おう、ガロアーク様じゃねぇか」
レインは露骨に嫌そうな顔をした。
「その呼び方やめて」
「無理だ」
即答だった。
最近はもう誰もやめてくれない。
半分諦めている。
主人は腕を組んだ。
「それで? 今日は何の用だ?」
レインは真っ直ぐ主人を見る。
そして迷いなく言った。
「鍛冶を教えて欲しい」
主人が目を丸くした。
しばらく沈黙が続く。
やがて主人は口を開いた。
「……何でだ?」
「鍛冶場を作りたい。でも俺は鍛冶を知らない。知識だけじゃ駄目だと思う」
主人は黙って聞いている。
「だから実際に学びたい。鉄を知りたい」
主人はしばらくレインを見つめていた。
やがて小さく笑う。
「なるほどな」
納得したらしい。
主人は炉の火を見つめながら言った。
「知識はあるんだろう」
「ある程度は」
「だがな、鍛冶は本で覚えるもんじゃねぇ」
主人が振り返る。
その顔は職人そのものだった。
「鉄の匂いを知れ」
「熱を知れ」
「音を知れ」
「鉄が嫌がる音も、喜ぶ音もな」
レインは黙って聞いていた。
妙に納得できた。
前世でもそうだった。
現場へ行かなければ分からないことがある。
机の上だけでは見えないものがある。
主人は腕を組んだ。
「半年だ」
「半年?」
「半年間弟子になれ。その後で鍛冶場を考えろ」
レインは少し考える。
長い。
だが必要な時間だと思った。
しかし、一つだけ条件がある。
「一つ条件」
主人が眉を上げる。
「なんだ?」
「週に一回だけ工房へ戻る」
主人の表情が少し厳しくなった。
「遊びか?」
「違う。責任だ」
レインは首を横に振る。
「工房は父さんが作った。でも今実際に回してるのは俺だ」
父親が苦笑した。
営業。
契約。
見積。
経営。
気付けば工房の中心はレインになっている。
主人はしばらく考えた後、ゆっくり頷いた。
「ならいい。週一回だけだぞ」
「分かった」
こうして話はまとまった。
帰り道、夕日が島を赤く染めていた。
父親が聞く。
「本気か?」
「本気」
「半年だぞ」
「うん」
「工房はどうする」
「相談したい」
父親は少し考えた後、頷いた。
「ルーク次第だな」
レインも頷く。
それが当然だった。
工房へ戻ると、ルークは掃除をしていた。
二人の姿を見るなり嫌な予感がしたらしい。
「何ですか?」
「相談がある」
レインが言うと、ルークはため息を吐いた。
「やっぱり」
そして話を聞き、案の定固まった。
「半年間鍛冶屋へ弟子入りする」
数秒の沈黙。
「は?」
予想通りの反応だった。
「半年?」
「鍛冶屋?」
「弟子入り?」
レインが頷く。
ルークは父親を見る。
「親方知ってたんですか!?」
「一緒にいたからな」
「何でそんな冷静なんですか!?」
父親は遠い目をした。
「もう慣れた」
ルークは頭を抱える。
確かに今まで散々振り回されてきた。
だが半年は長い。
「工房どうするんです!?」
「頼みたい」
レインは父親とルークを見る。
「二人に」
工房が静かになる。
「週一回は戻る。経営状況も確認するし、問題があれば対応する」
ルークはしばらく考えていた。
不安はある。
かなりある。
だが、週に一度でもレインが戻るなら相談はできる。
何より、レインが本気だということは伝わってきた。
「分かりました」
ルークが頷く。
「その代わり、本当に来てくださいよ」
「行く」
「忘れませんね?」
「忘れない」
父親が笑った。
「いや、お前忘れそうなんだよな」
「失礼だな」
工房に笑いが広がる。
そして翌朝。
レインは小さな荷物を背負い、工房の前に立っていた。
父親とルークが見送る。
「頑張れよ」
「いってらっしゃい」
レインは振り返り、笑った。
「半年後、もっと面白いもの作る」
そう言い残し、鍛冶屋へ向かって歩き出す。
船大工。
発明家。
ガロアーク。
そんな肩書を持つ少年は、今度は一人の弟子として鉄と向き合うことになった。
その半年が、後のレイン工房を大きく変えることになるのだった。