ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第三十八話 「弟子入り」

 

長老との話から数日後。

 

レインはガロアークとして与えられた土地に立っていた。

 

工房から少し離れた場所にあるその土地は、想像していた以上に広い。工房を建てても余るだろうし、倉庫や資材置き場を作ったとしても、まだ十分な余裕がある。

 

将来何かを作るには申し分のない土地だった。

 

「広いな……」

 

レインが呟くと、隣で腕を組んでいた父親が苦笑した。

 

「それで、結局どう使うんだ?」

 

レインは少し考える。

 

頭の中には様々な案が浮かんでいた。

 

新しい工房。

 

研究施設。

 

資材置き場。

 

そして鍛冶場。

 

「鍛冶場かな」

 

そう答えると、父親は納得したように頷いた。

 

鉄鉱石が見つかった以上、いずれは必要になる。

 

むしろ自然な流れだった。

 

しかし、レインはそこでふと考え込む。

 

鉄鉱石はある。

 

鍛冶場も必要だ。

 

だが――

 

「でも、俺、鍛冶知らないな」

 

父親が思わず吹き出した。

 

「今更か!」

 

「大事なことだろ」

 

レインは不満そうに言い返した。

 

実際その通りだった。

 

鉄の知識はある。

 

前世の知識もある。

 

だが、それはあくまで知識だ。

 

実際に鉄を打ったことはないし、炉の温度も知らない。鉄を叩いた時の音の違いも分からない。

 

それで鍛冶場を作るのは違う気がした。

 

「学ぶか……」

 

そう呟いた瞬間、父親は嫌な予感を覚えた。

 

だが止める気はない。

 

どうせもう決めている。

 

長年の経験でそれくらいは分かるようになっていた。

 

その日の午後。

 

レインと父親は島唯一の鍛冶屋を訪れていた。

 

カン、カン、と鉄を打つ音が響く。

 

炉からは熱気が溢れ、赤く焼けた鉄が眩しく光っている。

 

まさに職人の世界だった。

 

鍛冶屋の主人は二人を見ると、豪快に笑った。

 

「おう、ガロアーク様じゃねぇか」

 

レインは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「その呼び方やめて」

 

「無理だ」

 

即答だった。

 

最近はもう誰もやめてくれない。

 

半分諦めている。

 

主人は腕を組んだ。

 

「それで? 今日は何の用だ?」

 

レインは真っ直ぐ主人を見る。

 

そして迷いなく言った。

 

「鍛冶を教えて欲しい」

 

主人が目を丸くした。

 

しばらく沈黙が続く。

 

やがて主人は口を開いた。

 

「……何でだ?」

 

「鍛冶場を作りたい。でも俺は鍛冶を知らない。知識だけじゃ駄目だと思う」

 

主人は黙って聞いている。

 

「だから実際に学びたい。鉄を知りたい」

 

主人はしばらくレインを見つめていた。

 

やがて小さく笑う。

 

「なるほどな」

 

納得したらしい。

 

主人は炉の火を見つめながら言った。

 

「知識はあるんだろう」

 

「ある程度は」

 

「だがな、鍛冶は本で覚えるもんじゃねぇ」

 

主人が振り返る。

 

その顔は職人そのものだった。

 

「鉄の匂いを知れ」

 

「熱を知れ」

 

「音を知れ」

 

「鉄が嫌がる音も、喜ぶ音もな」

 

レインは黙って聞いていた。

 

妙に納得できた。

 

前世でもそうだった。

 

現場へ行かなければ分からないことがある。

 

机の上だけでは見えないものがある。

 

主人は腕を組んだ。

 

「半年だ」

 

「半年?」

 

「半年間弟子になれ。その後で鍛冶場を考えろ」

 

レインは少し考える。

 

長い。

 

だが必要な時間だと思った。

 

しかし、一つだけ条件がある。

 

「一つ条件」

 

主人が眉を上げる。

 

「なんだ?」

 

「週に一回だけ工房へ戻る」

 

主人の表情が少し厳しくなった。

 

「遊びか?」

 

「違う。責任だ」

 

レインは首を横に振る。

 

「工房は父さんが作った。でも今実際に回してるのは俺だ」

 

父親が苦笑した。

 

営業。

 

契約。

 

見積。

 

経営。

 

気付けば工房の中心はレインになっている。

 

主人はしばらく考えた後、ゆっくり頷いた。

 

「ならいい。週一回だけだぞ」

 

「分かった」

 

こうして話はまとまった。

 

帰り道、夕日が島を赤く染めていた。

 

父親が聞く。

 

「本気か?」

 

「本気」

 

「半年だぞ」

 

「うん」

 

「工房はどうする」

 

「相談したい」

 

父親は少し考えた後、頷いた。

 

「ルーク次第だな」

 

レインも頷く。

 

それが当然だった。

 

工房へ戻ると、ルークは掃除をしていた。

 

二人の姿を見るなり嫌な予感がしたらしい。

 

「何ですか?」

 

「相談がある」

 

レインが言うと、ルークはため息を吐いた。

 

「やっぱり」

 

そして話を聞き、案の定固まった。

 

「半年間鍛冶屋へ弟子入りする」

 

数秒の沈黙。

 

「は?」

 

予想通りの反応だった。

 

「半年?」

 

「鍛冶屋?」

 

「弟子入り?」

 

レインが頷く。

 

ルークは父親を見る。

 

「親方知ってたんですか!?」

 

「一緒にいたからな」

 

「何でそんな冷静なんですか!?」

 

父親は遠い目をした。

 

「もう慣れた」

 

ルークは頭を抱える。

 

確かに今まで散々振り回されてきた。

 

だが半年は長い。

 

「工房どうするんです!?」

 

「頼みたい」

 

レインは父親とルークを見る。

 

「二人に」

 

工房が静かになる。

 

「週一回は戻る。経営状況も確認するし、問題があれば対応する」

 

ルークはしばらく考えていた。

 

不安はある。

 

かなりある。

 

だが、週に一度でもレインが戻るなら相談はできる。

 

何より、レインが本気だということは伝わってきた。

 

「分かりました」

 

ルークが頷く。

 

「その代わり、本当に来てくださいよ」

 

「行く」

 

「忘れませんね?」

 

「忘れない」

 

父親が笑った。

 

「いや、お前忘れそうなんだよな」

 

「失礼だな」

 

工房に笑いが広がる。

 

そして翌朝。

 

レインは小さな荷物を背負い、工房の前に立っていた。

 

父親とルークが見送る。

 

「頑張れよ」

 

「いってらっしゃい」

 

レインは振り返り、笑った。

 

「半年後、もっと面白いもの作る」

 

そう言い残し、鍛冶屋へ向かって歩き出す。

 

船大工。

 

発明家。

 

ガロアーク。

 

そんな肩書を持つ少年は、今度は一人の弟子として鉄と向き合うことになった。

 

その半年が、後のレイン工房を大きく変えることになるのだった。

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