ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
地下空間に、低い振動音が響いていた。
まるで巨大な心臓が、長い眠りから目覚めようとしているようだった。
青白い光が、暗闇をゆっくり照らしていく。
レインは息を呑んだまま、その光景を見つめていた。
空気が違う。
島の外とも。
港とも。
今まで生きてきた世界そのものとも。
ここだけが、まるで別の時代だった。
いや。
正確には違う。
“未来”だった。
八百年前。
世界政府によって消された文明。
その欠片が、今もこの地下で生き続けている。
(……やばい)
レインの胸が高鳴る。
ONE PIECEを読み続けてきたからこそ分かる。
これは世界の核心だ。
空白の百年。
ジョイボーイ。
巨大な王国。
全部がここへ繋がっている。
父親は険しい表情のまま、周囲を見渡していた。
「こんなことは……
今まで一度もなかった」
その声には、明らかな動揺が混じっていた。
無理もない。
ヴェルク家は代々この場所を守ってきた。
だが。
“動いた”ことはなかったのだ。
レインはゆっくり周囲を見回す。
壁を走る配線。
崩れた装置。
巨大な金属柱。
そして、天井近くに張り巡らされた奇妙な導線。
その構造を見た瞬間、レインは確信した。
(……発電施設だ)
前世知識があるからこそ分かる。
これは単なる遺跡じゃない。
文明そのものだ。
少なくとも、この時代のONE PIECE世界には存在しない技術体系。
父親が静かに口を開く。
「レイン」
「この場所のことは、
誰にも話すな」
その声音は重かった。
命令というより、“警告”だった。
「絶対だ」
レインは黙って頷く。
「……世界政府?」
父親の目が少しだけ鋭くなる。
「ああ」
短い返事だった。
だが、その一言だけで十分だった。
「奴らは、
この世界から歴史そのものを消した」
地下空間に静寂が落ちる。
機械音だけが、規則正しく響いていた。
レインはゆっくりポーネグリフを見る。
巨大な黒い石。
ただそこにあるだけなのに、空気を支配している。
威圧感すらあった。
父親は静かに石を見つめたまま言う。
「俺達ヴェルク家は、
代々この場所を守ってきた」
「意味も分からず、
ただ守れと託されてきた」
その声には、長い年月の重みがあった。
八百年。
気が遠くなるほど長い時間だ。
世界が変わり。
国が滅び。
海賊が生まれ。
時代が何度も移り変わっても。
ヴェルク家だけは、この場所を守り続けてきた。
レインは静かに息を吐いた。
(……ロマンありすぎるだろ)
前世で考察をしていた頃なら、間違いなく泣いて喜んでいた。
だが今は違う。
これは現実だ。
自分は、その歴史の中に立っている。
その時だった。
レインの視線が、地下空間奥の壁へ止まる。
微かな点滅。
青白い光。
一定間隔で明滅している。
(……なんだ?)
レインはゆっくり近づく。
古びた金属板。
その表面には、未知の文字が刻まれていた。
ONE PIECE世界の文字ではない。
だが。
「……読める?」
思わず呟く。
不思議な感覚だった。
頭の中へ直接意味が流れ込んでくる。
知識ではない。
記憶でもない。
もっと根本的な“理解”。
父親が怪訝そうに振り向く。
「どうした?」
レインは文字を見つめたまま答える。
「……これ、
起動制御盤だ」
沈黙。
父親の表情が固まる。
「……何?」
レイン自身も驚いていた。
なぜ分かる。
なぜ読める。
だが、身体が自然と理解していた。
ヴェルク家の血。
あるいは。
八百年前の誰かが、“継承者”へ残したもの。
レインはゆっくり制御盤へ手を伸ばす。
触れた瞬間。
――ブゥゥゥン……
地下空間全体が揺れた。
低い振動が足元から伝わる。
次の瞬間。
天井の一部が、青白く光り始めた。
父親が息を呑む。
「灯り……?」
レインも言葉を失う。
八百年間止まっていた文明。
その欠片が。
今、再び動き始めている。
光は徐々に地下全体へ広がっていく。
暗闇に沈んでいた空間が、少しずつ姿を現した。
そして。
レインは、その壁を見て目を見開いた。
大量の設計図。
びっしりと刻まれた数式。
見たこともない動力機関。
巨大な船。
奇妙な浮遊装置。
ONE PIECE世界の技術ではあり得ない構造。
まるでSF映画のようだった。
(……これ全部、
八百年前の技術か)
背筋が震える。
もしこれが本当なら。
巨大な王国は、今の世界より遥かに進んでいたことになる。
その瞬間。
前世で神と交わした会話が、脳裏を過った。
『飛行機でも作ろうかと』
レインは思わず笑ってしまった。
「……なら」
「本当に作ってみるか」
父親が眉をひそめる。
「何をだ?」
レインは近くに落ちていた紙を拾う。
そして。
迷いなく線を書き始めた。
翼。
機体。
推進構造。
空気抵抗。
前世では当たり前だった“空を飛ぶための理論”。
だがこの世界には存在しない。
父親は困惑した顔で見つめている。
「……鳥か?」
レインは小さく笑う。
「違う」
「空を飛ぶ船だ」
地下空間に、静かな機械音が響く。
その日。
八百年前に止められた未来が、再び動き始めた。