ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レインが鍛冶屋へ弟子入りしてから三日が経った。
正直に言うなら、レインは少し甘く考えていた。
鍛冶と聞けば、炉で鉄を熱し、それを叩いて形を作る仕事だと思っていたからだ。
もちろん、それも間違いではない。
だが実際は違った。
鍛冶とは鉄を叩く仕事ではない。
鉄を扱う仕事だった。
朝は日の出前に起きる。
炉の準備をする。
炭を運ぶ。
火を起こす。
水を汲む。
工具を整える。
掃除をする。
そしてようやく鉄を打つ。
鉄を叩いている時間よりも、その準備や後片付けをしている時間の方が長いのではないかと思うほどだった。
「熱っ!」
三日目の朝。
炉へ炭を追加していたレインが思わず声を上げる。
すると奥から親方の声が飛んできた。
「当たり前だ」
「分かってるけど熱いものは熱いだろ」
「だから熱いって言ってる暇があったら手を動かせ」
「はいはい」
レインは苦笑しながら作業を続けた。
体は既に悲鳴を上げている。
腕も重い。
肩も痛い。
足も疲れている。
前世で会社を経営していた頃よりも疲れている気がした。
いや、確実に疲れている。
何しろ一日中動きっぱなしなのだ。
「弱ぇな」
親方が笑う。
「六歳相手に言うことか?」
「六歳で鉱山改革した奴に言ってる」
レインは黙った。
反論できなかった。
最近少し分かってきたことがある。
この親方、思ったより容赦がない。
そして思ったより面白い人でもあった。
昼頃になると、ようやく鉄を打つ時間になった。
レインは少し嬉しくなる。
三日間で一番楽しみにしている時間だった。
鉄を炉から取り出す。
赤く熱せられた鉄は綺麗だった。
まるで炎そのもののように見える。
レインは金床へ置き、ハンマーを振り下ろした。
カン。
もう一度。
カン。
さらにもう一度。
カン。
すると親方が首を横に振る。
「違う」
レインが眉をひそめる。
「何が?」
「全部」
「全部?」
「全部だ」
親方はそう言うと、レインからハンマーを受け取った。
そして鉄を一度見つめる。
次の瞬間。
カン。
たった一撃。
それだけだった。
だが音が違う。
明らかに違う。
レインは思わず目を見開いた。
「今の……」
親方が笑う。
「分かったか」
「音だ」
「そうだ」
親方は満足そうに頷いた。
「鉄は喋る」
レインは少し考える。
三日前なら意味が分からなかった。
だが今なら少しだけ分かる。
同じ鉄を叩いているはずなのに音が違う。
つまり鉄の状態が違うのだ。
「温度か?」
「それもある」
「他は?」
「硬さ」
「状態」
「叩く場所」
「全部だ」
親方はそう言うと再び鉄を叩いた。
カン。
カン。
カン。
リズムが一定だった。
無駄がない。
見ているだけなのに美しい。
レインは思わず見入っていた。
「どうした」
「いや」
レインは正直に答える。
「すごいなと思って」
親方が笑った。
「四十年以上やってるからな」
レインは頷く。
だからこそ価値がある。
前世でもそうだった。
本を読めば知識は手に入る。
だが技術は違う。
実際にやった者しか分からない世界がある。
鍛冶もその一つなのだろう。
その後も作業は続いた。
何度も鉄を叩く。
何度も失敗する。
親方に指摘される。
また叩く。
また失敗する。
それでも少しずつ良くなっているのは自分でも分かった。
夕方になる頃には腕が上がらなくなっていた。
ハンマーが異常に重く感じる。
「終わりだ」
親方の声が聞こえた瞬間、レインはその場へ座り込んだ。
疲れた。
本当に疲れた。
全身が重い。
「情けねぇ顔してるな」
親方が笑う。
「疲れたんだよ」
「まだ三日目だぞ」
「それが怖い」
レインがそう言うと、親方は豪快に笑った。
鍛冶屋の中に笑い声が響く。
レインも少し笑った。
確かにまだ三日だ。
半年後にはどうなっているのだろう。
想像もつかない。
その日の夜、鍛冶屋の空き部屋へ戻ったレインは、ベッドへ倒れ込んだ。
全身が痛い。
だが不思議だった。
嫌ではない。
むしろ楽しい。
知らないことばかりだからだ。
鉄。
炉。
温度。
音。
全てが新鮮だった。
レインは天井を見上げる。
前世では会社を経営していた。
今世では工房を経営している。
だが今は違う。
一人の弟子だ。
誰かに教わり、失敗し、怒られ、成長する。
そんな時間は久しぶりだった。
「悪くないな」
小さく呟く。
そして目を閉じた。
翌朝もまた早い。
炉の火は待ってくれない。
鉄も待ってくれない。
半年という時間は長いようで短い。
だからこそ、レインは少しでも多くのことを吸収しようと決めるのだった。