ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レインが鍛冶屋へ弟子入りしてから二か月が経った。
最初の頃は炭を運ぶだけで息を切らしていたが、今では違う。
炉の管理も出来るようになった。
鉄の状態も少しずつ分かるようになった。
もちろん親方から見れば、まだまだ半人前だろう。
それでも成長はしていた。
少なくとも、二か月前の自分よりは確実に前へ進んでいる。
そんなある日、レインは鍛冶場の掃除をしていた。
箒を動かしながら、ふと奥の棚へ視線を向ける。
そして今日も目が止まった。
一本の刀。
鍛冶場の中でも一番目立つ場所に飾られている。
豪華という訳ではない。
むしろ見た目は驚くほど質素だ。
だが不思議と目を引く。
まるでそこだけ空気が違うような感覚があった。
弟子入りしてから二か月。
毎日見ている。
それなのに一度も親方が触れているところを見たことがない。
だからこそ気になった。
掃除を終えたレインは親方へ近付く。
「なあ親方」
「なんだ」
「あの刀、何なんだ?」
親方の動きが一瞬だけ止まった。
そして棚の方を見る。
「ああ、あれか」
親方は少し懐かしそうな顔をした。
「気になってたか」
「ずっと」
レインが即答すると、親方は苦笑した。
そして棚へ歩いて行く。
丁寧に刀を手に取る。
その仕草だけで分かった。
大切にしている。
それも相当大切に。
親方は刀を見つめながら口を開いた。
「昔な、ワノ国出身の刀鍛冶と知り合ったことがある」
レインが目を見開く。
ワノ国。
刀の本場。
世界最高峰の刀鍛冶達が集まる国。
そんな場所の職人と知り合いだったとは思わなかった。
「鍛冶友達みたいなもんだ」
親方が笑う。
「酒飲んで」
「鍛冶の話して」
「喧嘩して」
「また酒飲んで」
「そんな関係だった」
レインも少し笑った。
何となく想像できる。
「俺も少しだけ刀鍛冶を教わった」
「親方が?」
「ああ、一応刀も作れる」
親方は肩を竦める。
「名刀並みには程遠いがな」
そう言いながら刀を見つめた。
そして、
「だが、こいつは違う」
親方はゆっくりと刀を抜いた。
シャラン――
澄んだ音が鍛冶場へ響く。
その瞬間。
レインは息を呑んだ。
美しい。
ただそれだけだった。
余計な装飾はない。
だが刀身には圧倒的な存在感があった。
まるで長い年月を生きてきたような重みを感じる。
「こいつの名は黎明」
親方が静かに言う。
「黎明……」
レインはその名を繰り返した。
「悪を切り裂き、夜明けを意味する刀だ」
そして、親方は続ける。
「最上大業物十二工の一振りだ」
レインが固まった。
数秒。
頭が追い付かなかった。
「は?」
ようやく出た言葉がそれだった。
親方は笑う。
「だから最上大業物だ」
「いや、待て!」
「何でそんな物がここにあるんだ!?」
レインは思わず叫んだ。
最上大業物。
世界最高峰の刀。
数えるほどしか存在しない伝説級の武器。
それがこんな島にある。
意味が分からない。
親方は笑いながら答えた。
「そいつが死ぬ前に俺へ託した」
「託した?」
「ああ」
親方の表情が少しだけ寂しそうになる。
「病だった」
「二十年前だ」
「最後まで刀を打ってた馬鹿だったよ」
親方は黎明を見つめる。
その目には懐かしさがあった。
そして少しの寂しさも。
「俺も扱えなかった...まぁ俺は建氏じゃないから当然じゃが...」
親方が言う。
「友達も言ってた」
「誰にも馴染まなかったらしい...一流の侍でもな...」
レインは刀を見る。
確かに不思議な存在感がある。
ただの武器には見えなかった。
しばらく沈黙が続いた後、親方が突然言った。
「レイン」
「ん?」
「お前、いつか島の外へ行くんだろ」
レインは頷く。
そのつもりだ。
世界を見たい。
技術を学びたい。
まだ見ぬ場所へ行きたい。
その気持ちは変わらない。
すると親方が言った。
「なら持って行くか?」
レインは固まった。
「は?」
今度は本当に理解できなかった。
親方は黎明を見る。
「何となくだが」
「お前なら馴染む気がする」
レインは刀と親方を何度も見比べた。
そして叫ぶ。
「いやいやいや!」
「最上大業物だぞ!?」
「だからだ...俺が出会ったどんな人よりお前は特別に思う」
「俺の勘だが...お前は恐らくこの刀に選ばれる」
親方は笑う。
レインは再び刀を見る。
欲しい。
正直かなり欲しい。
だが、
「本当にいいのか?」
「形見みたいなものだろ」
親方は少し考えた。
そして、ニヤリと笑った。
「そうだな...ただでやるのは癪だ」
レインは嫌な予感がした。
親方は指を一本立てる。
「条件だ」
「何だ?」
「俺の鍛冶を本気で、あと四ヶ月で完全にマスターしろ」
レインは黙る。
親方は続けた。
「そして俺が、もう教えることはねぇ」
「そう言ったら」
親方は黎明を鞘へ戻した。
「その時はくれてやる」
レインの口元が自然と上がる。
面白い。
実に面白い条件だった。
「約束だからな」
「おう」
親方も笑う。
こうしてレインには新しい目標が出来た。
その日の夜。
空き部屋へ戻ったレインは天井を見上げていた。
鍛冶の技術を学ぶ。
それは変わらない。
だが、黎明を持つなら、それだけでは足りない。
最上大業物は持つだけの刀ではない。
振るえる者が持つべき刀だ。
レインは静かに呟く。
「体も鍛えるか」
誰にも聞こえない小さな声だった。
こうして鍛冶の修行に加え、レインの新たな挑戦が始まるのだった。