ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第四十二話 「卒業」

あれからさらに一か月が経った。

 

レインが鍛冶屋へ弟子入りしてから五ヶ月。

 

当初は半年の予定だった。

 

だが、その予定は大きく狂うことになる。

 

ある日の朝、親方は一本の包丁を眺めていた。

 

レインが作った物だ。

 

切れ味。

 

重量。

 

重心。

 

耐久性。

 

どこを見ても問題がない。

 

むしろ自分が若い頃に作った物より良い。

 

親方は深いため息を吐いた。

 

そして隣にいたレインを見る。

 

レインは普通に炭を運んでいる。

 

いつも通りだ。

 

だが、その姿が妙に腹立たしかった。

 

「レイン」

 

「ん?」

 

「ちょっと来い」

 

レインが近付いてくる。

 

親方は包丁を差し出した。

 

「どうだ」

 

レインは確認する。

 

刃の状態。

 

柄の固定。

 

重心。

 

そして答えた。

 

「問題ないな」

 

「そうだな」

 

親方は頷く。

 

そして再びため息を吐いた。

 

「どうした?」

 

「参った」

 

「何が?」

 

親方は頭を掻く。

 

そして、はっきりと言った。

 

「もう教えることがねぇ」

 

レインが固まる。

 

数秒後。

 

「は?」

 

今度はレインが驚く番だった。

 

親方は真顔だった。

 

「技術は全部教えた」

 

「鍛造も」

 

「刃物も」

 

「金物も」

 

「工具も」

 

「全部だ」

 

レインは腕を組む。

 

少し考える。

 

そして、

 

「じゃあ卒業か?」

 

親方は頷いた。

 

「卒業だ」

 

静かな言葉だった。

 

だが、親方自身が一番驚いていた。

 

半年。

 

最低でも半年。

 

そう思っていた。

 

それが...五か月。

 

まさか一か月も残して終わるとは思わなかった。

 

親方はレインを見る。

 

そして呟く。

 

「本当に化け物だな」

 

「まだ言うのか」

 

「言う」

 

即答だった。

 

「普通はこんなに早く覚えん」

 

「知らん」

 

「俺も知らん」

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして笑った。

 

しばらく笑った後、親方は鍛冶場の奥へ向かう。

 

レインも後ろを付いて行く。

 

そして、あの棚の前で止まった。

 

黎明。

 

最上大業物十二工の一振り。

 

五か月前、レインが初めて見た刀だ。

 

親方は静かに刀を手に取った。

 

そして、レインへ差し出す。

 

「約束だ」

 

レインが固まる。

 

「本気か?」

 

「ああ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「最上大業物だぞ?」

 

「知ってる」

 

親方は笑った。

 

「お前にやる」

 

レインは刀を見る。

 

黎明を見る。

 

親方を見る。

 

そしてもう一度刀を見る。

 

信じられなかった。

 

まさか本当に貰えるとは思っていなかった。

 

親方は言う。

 

「持ってみろ」

 

レインはゆっくり受け取る。

 

予想より重い。

 

だが、不思議と手に馴染む気がした。

 

親方も少し驚いた。

 

「どうだ?」

 

「持ちやすい」

 

「そうか」

 

親方は少しだけ笑った。

 

そして心の中で思う。

 

やはり、こいつだったのかもしれないと。

 

しばらく刀を眺めていたレインだったが、ふと現実的なことを考える。

 

「親方」

 

「なんだ?」

 

「あと一か月どうする?」

 

親方が固まった。

 

そうだった。

 

本来は半年契約だ。

 

まだ一か月残っている。

 

「どうするんだろうな」

 

「考えてないのか?」

 

「知らん」

 

しばらく考える。

 

そして、レインが口を開いた。

 

「じゃあさ」

 

「ん?」

 

「一か月だけ商売しないか?」

 

親方が首を傾げる。

 

「商売?」

 

レインは頷いた。

 

「今まで教えてもらった技術を使う」

 

「包丁」

 

「ナイフ」

 

「金槌」

 

「釘抜き」

 

「工具」

 

「歯車」

 

「作れるだけ作る」

 

親方は少しずつ嫌な予感がしてきた。

 

レインはさらに続ける。

 

「そして売る」

 

「島中に」

 

親方は頭を抱えた。

 

「お前また何か企んでるな」

 

「失礼な」

 

レインは笑う。

 

そして翌日から始まった。

 

製造。

 

製造。

 

ひたすら製造。

 

鍛冶場はまるで戦場になった。

 

レインは作る。

 

親方も作る。

 

気付けば二人とも朝から晩まで鉄を打っていた。

 

一週間後。

 

大量の金物が完成する。

 

そして、今度は営業だった。

 

ここからがレインの本領発揮だった。

 

島中を回る。

 

船大工。

 

漁師。

 

農家。

 

商人。

 

全員に声を掛ける。

 

必要な物を聞く。

 

提案する。

 

見積を出す。

 

契約する。

 

親方は横で見ていた。

 

そして思った。

 

鍛冶より怖い。

 

営業しているレインの方が怖い。

 

一か月後。

 

全てが終わった。

 

そして、売上を見た親方は固まった。

 

「……は?」

 

数字を見直す。

 

もう一度見る。

 

さらに見る。

 

だが変わらない。

 

一年分。

 

いや...

 

普段の鍛冶屋の一年分を遥かに超えている。

 

親方は頭を抱えた。

 

「何だこれ」

 

「売上」

 

「見れば分かる!」

 

レインは笑う。

 

親方は泣きそうだった。

 

そしてその日の夜。

 

工房へ向かった。

 

父親を見つける。

 

そして、肩を掴んだ。

 

「助けてくれ」

 

父親が困惑する。

 

「どうした」

 

親方は真顔だった。

 

「お前の息子怖い」

 

父親は数秒黙った。

 

そして、

 

「ああ...」

 

納得した。

 

親方は泣きそうだった。

 

「一年分稼ぎやがった」

 

「一か月で」

 

父親は遠い目をする。

 

「そうか」

 

「慣れてるのか!?」

 

「慣れた」

 

親方は頭を抱えた。

 

一方その頃...レインは売上金を数えていた。

 

そしてその全てを親方へ差し出す。

 

親方が固まる。

 

「何だこれ」

 

「親方のだ」

 

「は?」

 

レインは笑った。

 

「刀貰った礼」

 

「黎明はそれ以上の価値がある」

 

親方は何も言えなかった。

 

しばらく沈黙した後。

 

小さく笑う。

 

「馬鹿だなお前」

 

「よく言われる」

 

二人は笑った。

 

こうして、鍛錬五ヶ月+商売一ヶ月に及ぶ鍛冶修行は幕を閉じた。

 

レインは鍛冶の技術と、

 

最上大業物『黎明』を手に入れた。

 

そして何より、一人の師匠を得たのだった。

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