ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レインが鍛冶屋を卒業してから数日後、工房の仕事を終えたレインは父親に早めに帰るよう言われていた。
理由は聞いていない。
父親はただ、「今日は寄り道せずに帰れ」とだけ言った。
その言い方が少しだけ不自然だったので、レインは何かあったのかと考えながら家へ向かった。
工房で問題が起きたのか、それともガロアークとして長老から何か呼び出しでも来たのか。
そんなことを考えながら家へ戻ると、庭から賑やかな声が聞こえてきた。
「……何だ?」
レインが首を傾げながら庭へ回ると、そこには大きな机が並べられていた。
机の上には料理が並んでいる。
焼いた肉、魚、野菜、パン、果物、普段の食卓では見ないほどの量だった。
そしてそこには、父親と母親、ルークとルークの両親、さらに鍛冶屋の親方までいた。
レインは少し固まった。
「……何してるんだ?」
親方が豪快に笑う。
「主役が来たぞ」
「主役?」
レインが聞き返すと、父親が笑いながら答えた。
「お前の鍛冶屋卒業祝いだ」
レインは目を瞬かせる。
確かに鍛冶屋は卒業した。
親方から「もう教えることはねぇ」と言われ、最上大業物である黎明まで託された。
だが、それを祝いの席まで開くようなことだとは思っていなかった。
「いや、別にそこまでしなくてもいいだろ」
レインがそう言うと、親方が軽く頭を小突いた。
「今日くらい大人しく祝われろ」
「痛いな」
「弟子の卒業祝いなんだから当然だろうが」
親方は少し照れ臭そうに言った。
その言葉を聞いて、レインは何も言えなくなった。
弟子。
そう呼ばれるのは、悪くなかった。
母親が笑いながらレインを席へ促す。
「ほら、早く座りなさい。今日はレインのために作ったんだから」
「母さんまで……」
レインは少し困った顔をしながら席に着いた。
隣にはルークが座る。
「おめでとうございます、レインさん」
「ありがとう」
「でも五か月で卒業って、やっぱりおかしいですよね」
「祝いの席で言うことか?」
「事実ですから」
ルークが真顔で言うと、周囲から笑いが起きた。
親方は酒の入った杯を掲げる。
「それじゃあ、レインの鍛冶屋卒業を祝って」
父親も杯を持ち上げる。
「乾杯!」
全員が声を合わせ、食事会が始まった。
料理を食べながら、話題は自然とレインの鍛冶修行へ向かう。
ルークの父が感心したように言った。
「しかし本当に五か月で卒業したのか。普通はそんなに早いものなのか?」
親方は即座に首を横に振った。
「普通じゃねぇ」
「やっぱりですか」
「普通なら数年かかる。最低でも半年は見るつもりだったが、こいつは五か月で全部吸収しやがった」
親方はレインを見る。
その目は呆れているようで、どこか誇らしげでもあった。
「教えたら覚える、覚えたら試す、試したら改善する。こっちが次を教える前に勝手に先へ進むんだぞ」
「それは……怖いですね」
ルークの母が苦笑する。
親方は深く頷いた。
「怖いんだよ」
「親方まで怖がるなよ」
レインが抗議すると、親方は真顔で返す。
「怖いものは怖い」
父親が笑う。
「分かる」
「父さんまで言うのか」
「俺はもう慣れた」
「慣れないでください」
ルークがそう言うと、周囲からまた笑いが起きた。
しばらく食事が進み、場が少し落ち着いた頃、親方が静かに杯を置いた。
いつもの豪快な雰囲気とは違い、少しだけ真面目な顔をしていた。
「レイン」
「ん?」
「お前に会えて良かった」
突然の言葉に、レインは少し驚いた。
親方は照れ隠しのように頭を掻きながら続ける。
「最初は面倒なガキだと思った。ガロアークだの、鉱山改革だの、何かと騒がしい奴だと思ってた」
「酷いな」
「だが、お前は本気だった。鍛冶を学ぶのも、鉄を知るのも、黎明を受け取る覚悟も、全部本気だった」
親方の声は静かだった。
それだけに重みがあった。
「だから俺は黎明を渡した。あれは形見みたいなもんだが、お前なら持っていけると思った」
レインは黙って聞いていた。
食事会の場が少し静かになる。
親方はレインを見る。
「いつか島の外へ行くんだろ」
「ああ」
「なら胸を張って行け。お前は俺の弟子だ」
その言葉に、レインは少しだけ笑った。
「そうか」
「そうだ」
親方も笑う。
父親はそのやり取りを見ながら、静かに杯を傾けていた。
母親は少し嬉しそうにレインを見ている。
ルークとその両親も、温かい目で二人を見守っていた。
レインはふと、自分の周りにいる人達を見た。
父親。
母親。
ルーク。
ルークの家族。
鍛冶屋の親方。
この島へ生まれ、ここで育ち、工房を作り、鉱山を変え、鍛冶を学んだ。
気付けば自分の周りには、こんなにも多くの人がいた。
前世では得られなかったものが、今ここにはある。
それが少し不思議で、少し嬉しかった。
「レイン」
母親が声を掛ける。
「なに?」
「卒業おめでとう」
その言葉に、レインは少しだけ照れた。
「ありがとう」
短い返事だったが、それで十分だった。
夜はゆっくり更けていく。
料理は減り、笑い声は続き、親方は途中から父親と酒を飲みながら鍛冶の話を始めた。
ルークはレインの隣で、今後工房がどうなるのかを心配している。
母親達はそんな様子を見て笑っていた。
久しぶりに穏やかな夜だった。
騒ぎもない。
発明もない。
契約書もない。
ただレインの卒業を祝うためだけの時間だった。
レインはその空気を静かに噛み締める。
鍛冶修行は終わった。
だが、終わったのは修行だけだ。
ここからまた新しい何かが始まる。
黎明。
鍛冶の技術。
ガロアークとして得た土地。
鉄。
石油。
全てが少しずつ繋がっていく。
レインは空を見上げた。
星が綺麗だった。
そして静かに思う。
この島で、もっと面白いものを作ろう。
その決意は誰にも言わなかったが、レインの中では確かに形になっていた。
こうして、レインの鍛冶修行卒業祝いは、温かい笑い声の中で幕を閉じた。