ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
鍛冶屋での修行を終えてから一か月ほどが過ぎた。
レインの日常は相変わらず忙しい。
朝から工房へ向かい、注文の確認を行う。
ルークと共に製作を進め、空いた時間には新しい設計図を書く。
気が付けば夕方になっていることも珍しくなかった。
おかげでレイン工房の評判はますます広がっていた。
鍛冶技術を身につけたことで製作できる物の種類も増えた。
包丁や鉈、斧といった刃物類。
滑車用の金具。
歯車。
農具。
以前よりも注文は明らかに増えている。
「レイン、この前の包丁すごく良かったぞ!」
「ありがとうございます!」
「今度は家族の分も頼みたいんだが」
「大丈夫ですよ!」
島の人々との会話も増えていた。
工房は順調だった。
少なくとも今のところは。
そんなある日の昼過ぎだった。
工房の扉が開く。
「おーい、レイン」
父だった。
片手には紙束を抱えている。
「父さん?」
「港に商船が来てたから買ってきたぞ」
そう言って机の上へ置かれたのは新聞だった。
レインは思わず顔を上げる。
「新聞か」
「珍しいだろ?」
「うん」
この島では新聞はそう簡単に手に入らない。
ニュース・クーが飛んでくる地域ではないからだ。
そのため外の情報は、港へ立ち寄った商船や旅人から聞くしかなかった。
新聞も商船が持ち込んだ物を買うしかない。
だから島の人々にとって外の世界は遠い存在だった。
レインも最近は工房の仕事ばかりで、世界情勢を調べる余裕などなかった。
「少し休憩しろ」
「そうするよ」
レインは椅子へ腰掛ける。
そして新聞を開いた。
最初に目に入ったのは海賊の記事だった。
『北の海にて商船襲撃』
『海軍、討伐部隊を派遣』
『被害者多数』
レインは静かに読み進める。
別のページには王国同士の争い。
さらに別の記事には飢饉や疫病。
決して明るい話題ばかりではなかった。
前世の日本では考えられない内容が並んでいる。
だが、この世界ではそれが日常なのだろう。
島で暮らしていると忘れそうになる。
しかしここは平和な日本ではない。
海賊がいて、
戦争があって、
理不尽に命が失われる世界だ。
「外は物騒だな」
父が呟く。
「そうだね……」
レインも同意した。
そして次のページをめくった時だった。
ある小さな記事が目に留まる。
『元天竜人一家、各地を転々』
レインの手が止まった。
一瞬、呼吸を忘れる。
記事へ目を落とす。
天竜人の地位を捨てた一家。
一般人として暮らそうとしたものの、各地で迫害を受けている。
石を投げられた。
住む場所を追われた。
民衆から憎しみを向けられている。
そんな内容だった。
(まさか……)
いや、間違いない。
レインはこの話を知っている。
ドンキホーテ・ホーミング。
そして、その息子達。
ドフラミンゴとロシナンテ。
前世では漫画の中の出来事だった。
しかし今は違う。
現実だ。
同じ世界のどこかで今まさに起きている。
(もうそんな時期か……)
レインは記事を見つめたまま考える。
ドフラミンゴの末路も知っている。
ロシナンテの人生も知っている。
そして、この先に待つ悲劇も。
「気になる記事でもあったか?」
父が尋ねる。
「ちょっとね」
レインは曖昧に答えた。
未来を知っているなど言えるはずもない。
だが心の中は穏やかではなかった。
(助けられないかな……)
そんな考えが浮かぶ。
ロシナンテは好きなキャラクターだった。
できることなら救いたい。
だが現実は厳しい。
場所が分からない。
今どこにいるのかも知らない。
そもそも自分はまだ七歳にもなっていない。
島の外へすら出たことがないのだ。
何もできない。
悔しいほどに...何も...
レインは新聞を閉じた。
窓の外へ視線を向ける。
工房。
港。
楽しそうに走り回る子供達。
平和な景色だった。
しかし世界は違う。
この海のどこかでは海賊が暴れ。
誰かが苦しみ。
誰かが泣いている。
自分の知らない場所で、原作の物語も少しずつ動き始めている。
今の自分にできることは少ない。
それでも、レインは静かに拳を握った。
もっと力が必要だ。
工房を発展させる力。
技術を生み出す力。
そして、誰かを守れるだけの力。
島の発展だけを見ていた視線は、少しずつ海の向こうへ向き始めていた。
まだ見ぬ広い世界へ。
そして、その先に待つ未来へ。