ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

46 / 49
第四十五話「計算機」

鍛冶修業を卒業してから一ヶ月が経った。

 

レインの日常は変わらない。

 

工房へ行き、設計図を書き、製作を行う。

 

ただ一つだけ変わったことがあった。

 

レインの頭の中に、新しい課題が生まれていた。

 

「面倒だな……」

 

工房の机に向かいながら呟く。

 

その視線の先には帳簿があった。

 

木材の仕入れ。

 

鉄鉱石の採掘量。

 

販売数。

 

利益。

 

支出。

 

最近は工房の規模が大きくなったせいで、管理する数字が増えている。

 

当然ながら、この世界に電卓など存在しない。

 

計算は全て手計算だ。

 

前世ではスマホを開けば一瞬で終わっていた作業も、今は紙とペンを使って行わなければならない。

 

「どうしたんですか?」

 

隣で作業していたルークが尋ねる。

 

「計算が面倒」

 

「計算?」

 

「うん」

 

レインは帳簿を見せた。

 

「これ全部足したり引いたりしてるんだけど、時間が掛かるんだよ」

 

ルークは数字の列を見て顔をしかめた。

 

「うわぁ……」

 

「だろ?」

 

「俺なら途中で諦める」

 

「それは困る」

 

レインは苦笑した。

 

しかし、実際問題として困っている。

 

工房が大きくなればなるほど計算量も増える。

 

今後、鉄鉱山や油田の開発が本格化すればさらに増えるだろう。

 

「何か良い方法ないかな……」

 

そこでふと前世の記憶がよみがえった。

 

計算機。

 

正確には機械式計算機。

 

電気がなくても計算できる道具だ。

 

「……あ」

 

レインの目が輝いた。

 

「どうしました?」

 

「作れるかもしれない」

 

「何をですか?」

 

「計算機」

 

ルークは首を傾げた。

 

「けいさんき?」

 

「計算を手伝ってくれる機械」

 

「そんなものあるんですか?」

 

「前世……じゃなかった」

 

危うく口を滑らせそうになり、慌てて言い直す。

 

「昔読んだ本に似たようなものが載ってた気がする」

 

「へぇ」

 

ルークは半信半疑だった。

 

しかしレインは本気だった。

 

工房の机へ向かう。

 

紙を取り出す。

 

そして設計を始めた。

 

最初に思い浮かんだのは歯車式だった。

 

しかしすぐに首を振る。

 

複雑すぎる。

 

今の技術力では作れなくはないが、時間が掛かる。

 

もっと単純なもの。

 

もっと簡単なもの。

 

そして思い出した。

 

そろばん。

 

正確には計算補助器具だが、十分に実用的だ。

 

構造も簡単。

 

木材と棒だけで作れる。

 

「まずはこれだな」

 

レインは図面を描いていく。

 

珠。

 

枠。

 

横棒。

 

構造自体は単純だった。

 

「これで本当に計算できるんですか?」

 

ルークが覗き込む。

 

「できる」

 

「本当ですか??」

 

「知ってるから」

 

「またその天才発言ですか…」

 

「まあそんな感じ」

 

レインは笑った。

 

数時間後、試作品が完成する。

 

木製の枠に珠を通しただけの道具。

 

見た目は非常に地味だった。

 

ルークは首を傾げる。

 

「これが?」

 

「これが」

 

レインは珠を動かした。

 

「例えば三十七に十五を足す」

 

カチカチと珠を動かす。

 

そして答えを示した。

 

「五十二」

 

ルークが目を丸くする。

 

「おぉ!」

 

「さらに百二十八から三十七を引く」

 

珠を動かす。

 

「九十一」

 

「すごい!」

 

「慣れればもっと早い」

 

ルークは目を輝かせていた。

 

レインも満足そうに頷く。

 

もちろん前世の電卓ほど便利ではない。

 

だが、この世界では十分革新的だ。

 

帳簿管理。

 

商売。

 

在庫管理。

 

採掘量の計算。

 

用途はいくらでもある。

 

「これ売れるんじゃないですか?」

 

ルークが言う。

 

レインは少し考える。

 

確かに売れる。

 

間違いなく売れるだろう。

 

商人なら欲しがる。

 

役人も欲しがる。

 

会計係も欲しがる。

 

だが、

 

「まだ売らない」

 

「え?」

 

「まずは自分達で使う」

 

レインは即答した。

 

新しい道具は実際に運用してみなければ問題点が見えない。

 

まずは工房で使う。

 

改良する。

 

その後で販売だ。

 

それがレインのやり方だった。

 

「なるほど」

 

「焦らないのが大事」

 

レインは完成したそろばんを見つめた。

 

前世の知識から見れば小さな一歩。

 

しかし、この世界では大きな進歩かもしれない。

 

新聞を読んで世界の広さを知った。

 

そして今、自分の足元をさらに強くするための道具を作っている。

 

世界へ出る日はまだ遠い。

 

だがその時のために、レインは一つずつ積み上げていく。

 

未来を切り開くための技術を。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。