ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
鍛冶修業を卒業してから一ヶ月が経った。
レインの日常は変わらない。
工房へ行き、設計図を書き、製作を行う。
ただ一つだけ変わったことがあった。
レインの頭の中に、新しい課題が生まれていた。
「面倒だな……」
工房の机に向かいながら呟く。
その視線の先には帳簿があった。
木材の仕入れ。
鉄鉱石の採掘量。
販売数。
利益。
支出。
最近は工房の規模が大きくなったせいで、管理する数字が増えている。
当然ながら、この世界に電卓など存在しない。
計算は全て手計算だ。
前世ではスマホを開けば一瞬で終わっていた作業も、今は紙とペンを使って行わなければならない。
「どうしたんですか?」
隣で作業していたルークが尋ねる。
「計算が面倒」
「計算?」
「うん」
レインは帳簿を見せた。
「これ全部足したり引いたりしてるんだけど、時間が掛かるんだよ」
ルークは数字の列を見て顔をしかめた。
「うわぁ……」
「だろ?」
「俺なら途中で諦める」
「それは困る」
レインは苦笑した。
しかし、実際問題として困っている。
工房が大きくなればなるほど計算量も増える。
今後、鉄鉱山や油田の開発が本格化すればさらに増えるだろう。
「何か良い方法ないかな……」
そこでふと前世の記憶がよみがえった。
計算機。
正確には機械式計算機。
電気がなくても計算できる道具だ。
「……あ」
レインの目が輝いた。
「どうしました?」
「作れるかもしれない」
「何をですか?」
「計算機」
ルークは首を傾げた。
「けいさんき?」
「計算を手伝ってくれる機械」
「そんなものあるんですか?」
「前世……じゃなかった」
危うく口を滑らせそうになり、慌てて言い直す。
「昔読んだ本に似たようなものが載ってた気がする」
「へぇ」
ルークは半信半疑だった。
しかしレインは本気だった。
工房の机へ向かう。
紙を取り出す。
そして設計を始めた。
最初に思い浮かんだのは歯車式だった。
しかしすぐに首を振る。
複雑すぎる。
今の技術力では作れなくはないが、時間が掛かる。
もっと単純なもの。
もっと簡単なもの。
そして思い出した。
そろばん。
正確には計算補助器具だが、十分に実用的だ。
構造も簡単。
木材と棒だけで作れる。
「まずはこれだな」
レインは図面を描いていく。
珠。
枠。
横棒。
構造自体は単純だった。
「これで本当に計算できるんですか?」
ルークが覗き込む。
「できる」
「本当ですか??」
「知ってるから」
「またその天才発言ですか…」
「まあそんな感じ」
レインは笑った。
数時間後、試作品が完成する。
木製の枠に珠を通しただけの道具。
見た目は非常に地味だった。
ルークは首を傾げる。
「これが?」
「これが」
レインは珠を動かした。
「例えば三十七に十五を足す」
カチカチと珠を動かす。
そして答えを示した。
「五十二」
ルークが目を丸くする。
「おぉ!」
「さらに百二十八から三十七を引く」
珠を動かす。
「九十一」
「すごい!」
「慣れればもっと早い」
ルークは目を輝かせていた。
レインも満足そうに頷く。
もちろん前世の電卓ほど便利ではない。
だが、この世界では十分革新的だ。
帳簿管理。
商売。
在庫管理。
採掘量の計算。
用途はいくらでもある。
「これ売れるんじゃないですか?」
ルークが言う。
レインは少し考える。
確かに売れる。
間違いなく売れるだろう。
商人なら欲しがる。
役人も欲しがる。
会計係も欲しがる。
だが、
「まだ売らない」
「え?」
「まずは自分達で使う」
レインは即答した。
新しい道具は実際に運用してみなければ問題点が見えない。
まずは工房で使う。
改良する。
その後で販売だ。
それがレインのやり方だった。
「なるほど」
「焦らないのが大事」
レインは完成したそろばんを見つめた。
前世の知識から見れば小さな一歩。
しかし、この世界では大きな進歩かもしれない。
新聞を読んで世界の広さを知った。
そして今、自分の足元をさらに強くするための道具を作っている。
世界へ出る日はまだ遠い。
だがその時のために、レインは一つずつ積み上げていく。
未来を切り開くための技術を。