ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
港が騒がしくなったのは朝のことだった。
久しぶりに大型の商船が島へ寄港したのである。
島の子供達は船を見に集まり、大人達も珍しい来客に笑顔を浮かべていた。
レインとルークも工房の仕事を切り上げ、港へ向かっていた。
「大きいですね」
ルークが船を見上げながら言う。
「この島に来る船の中ではかなり大きいな」
船員達が次々と荷物を運び出している。
塩、布、酒樽、工具、香辛料。
島では手に入りにくい品々が並んでいた。
そんな中、一人の男がレイン達へ声を掛ける。
「坊主達、こんな大きな商船珍しいか?」
四十代ほどの男だった。
日に焼けた肌。
鋭い目。
そして商人特有の人を見る目をしている。
「そうですね」
レインが答える。
男は笑った。
「俺はガレス。商人だ」
「レインです」
「ルークです」
挨拶を交わす。
するとガレスは少し驚いたような顔をした。
「レイン?」
「はい」
「港で聞いたぞ。最近評判の工房の名前だろ」
レインは苦笑する。
島の中では少しずつ知られるようになっていたらしい。
「良ければ工房を見せてくれないか?」
「構いませんよ」
⸻
レイン工房へ到着したガレスは、入口をくぐった瞬間に足を止めた。
「……ほう」
棚に並ぶ工具へ近付く。
一本手に取る。
仕上げを見る。
次に歯車を見る。
さらに滑車を見る。
そして無言になる。
ルークが不安そうにレインを見る。
レインも首を傾げた。
数分後。
ガレスがようやく口を開く。
「これを作ったのは誰だ?」
「俺です」
「全部か?」
「はい」
ガレスは再び黙り込んだ。
歯車を手に取る。
回す。
別の歯車と噛み合わせる。
また回す。
「信じられん……」
小さく呟いた。
「何がですか?」
レインは本気で分かっていなかった。
ガレスは苦笑する。
「坊主」
「はい」
「お前、自分がどれだけ凄いことをしてるか分かってないだろ」
レインは肩を竦めた。
前世の知識がある。
だからこそ、自分の技術を過小評価してしまう部分があった。
「ちょっと待ってろ」
ガレスはそう言うと、船へ戻っていった。
⸻
しばらくして戻ってきたガレスの手には一枚の設計図があった。
かなり使い込まれている。
何度も開閉した跡が見える。
「見てみろ」
レインは設計図を広げた。
そこに描かれていたのは特殊な滑車だった。
通常の滑車ではない。
角度を変えられる構造。
負荷を分散する仕組み。
かなり高度な設計だ。
「これは?」
「西の方の職人から買った設計図だ」
ガレスが言う。
「だが作れる職人がいない」
レインは設計図を眺める。
確かに難しい。
普通の鍛冶屋では厳しいだろう。
だが、
「作れます」
ガレスの目が細くなる。
「本当にか?」
「ただ」
レインは設計図を見ながら言った。
「少し改良した方が良いですね」
「改良?」
「ここが弱いです」
設計図を指差す。
「荷重が集中するので壊れやすいと思います」
ガレスが固まった。
レインはさらに続ける。
「ここも摩耗します」
「……」
「あとこっちも」
ガレスは黙ったまま設計図を見る。
そしてレインを見る。
再び設計図を見る。
「坊主」
「はい」
「本当に六歳か?」
「よく言われます」
⸻
三日後、ガレスは再び工房を訪れた。
そこには完成した変形滑車が置かれていた。
鉄製。
頑丈。
そして美しい。
レインは説明を始める。
「ここを回すと向きが変わります」
滑車が動く。
「さらにここを固定すると荷重を分散できます」
ガレスが実際に触る。
動かす。
何度も確認する。
そして最後に大きく息を吐いた。
「素晴らしい」
その一言だった。
商人として...何百という職人を見てきた男として心からの賞賛だった。
「設計図より良くなってる」
「少しだけ改良しました」
「少しじゃない」
ガレスは笑った。
「完全に別物だ」
⸻
その日の夕方...
工房の机を挟んでレインとガレスは向かい合っていた。
「契約をしよう」
ガレスが言う。
ルークが驚く。
レインも静かに話を聞く。
「俺が必要とする品を依頼する」
「はい」
「その代わり代金は払う」
当然だ。
だがガレスは続けた。
「それだけじゃない」
「?」
「外の情報も渡す」
レインの目が少しだけ見開かれた。
「情報ですか」
「ああ」
ガレスは頷く。
「商人は情報が命だ」
「海賊の動き」
「各国の情勢」
「新しい技術」
「流行」
「欲しければ教えてやる」
レインは少し考えた。
そして笑った。
「その契約、受けます」
金も重要だ。
しかし今のレインにとっては世界の情報の方が価値があった。
こうしてレイン工房は初めて島の外との正式な契約を結ぶことになった。
⸻
契約書へ署名を終えた後。
ガレスがふと思い出したように口を開く。
「もう一つ助言だ」
「何ですか?」
「特許制度を作れ」
レインの眉が僅かに動く。
「特許制度?」
「発明した人間を守る仕組みだ」
ガレスは変形滑車を見る。
「今はいい」
「この精度の物を作れるのはおそらくお前だけだ」
「ですが」
「これから先は違う」
ガレスの視線は真剣だった。
「お前が新しい物を作れば作るほど真似する奴は増える」
レインは黙って聞いていた。
実は以前から考えていた。
だが改めて外の商人から言われると重みが違う。
「今のうちに考えておけ」
ガレスは立ち上がる。
「将来必ず必要になる」
⸻
翌朝。
商船は島を離れた。
レインは港からそれを見送る。
手元には契約書が残っている。
人生初。
島の外との契約。
それはたった一枚の紙だった。
だがレインには分かっていた。
これはただの契約ではない。
世界へ繋がる最初の一本の糸だ。
遠ざかる商船を見ながら、レインは静かに笑った。
これから面白くなりそうだと...