ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第四話 「未来の設計図」

 

地下空間には、静かな機械音が響いていた。

 

低く、規則正しい振動。

 

まるで巨大な生き物が、深い眠りの中で呼吸しているようだった。

 

青白い灯りが壁を照らしている。

 

先ほどまで完全な暗闇だったとは思えない。

 

八百年間、誰にも知られず眠り続けていた文明。

 

その欠片が、今まさに目を覚まし始めていた。

 

レインはゆっくり息を吐く。

 

胸の鼓動が、少し速い。

 

興奮していた。

 

恐らく今、自分は世界で一番“空白の百年”へ近い場所に立っている。

 

ONE PIECEを読み続けてきた人間として、これ以上ないほど胸が熱くなる状況だった。

 

(……やばいな)

 

(マジであるんだ)

 

巨大な王国。

 

失われた文明。

 

ジョイボーイ。

 

全部。

 

漫画の中だけの話じゃなかった。

 

レインは壁へ視線を向ける。

 

そこには大量の設計図が刻まれていた。

 

巨大船。

 

未知の動力機関。

 

見たこともない構造式。

 

そして浮遊装置のような何か。

 

今のONE PIECE世界では絶対に再現不可能な技術。

 

だが。

 

前世知識があるレインには、その価値が理解できた。

 

(ベガパンクでも、ここまでは行ってないだろ)

 

いや。

 

もしかすると、ベガパンクだけは気づいているのかもしれない。

 

この世界が、本来もっと進んでいたことを。

 

父親は険しい顔のまま周囲を見渡していた。

 

「……信じられん」

 

その声には、明らかな動揺が混じっていた。

 

無理もない。

 

ヴェルク家は代々この場所を守ってきた。

 

だが。

 

“起動した”ことは一度もなかったのだ。

 

レインはゆっくり歩き出す。

 

靴音が地下空間へ響く。

 

古代機械の前で立ち止まった。

 

近くで見ると、さらに異質だった。

 

継ぎ目が見えない。

 

加工精度が異常に高い。

 

金属そのものも、この時代ではあり得ない品質だった。

 

レインはそっと表面へ触れる。

 

冷たい。

 

だがどこか、生きているような感覚があった。

 

(これ、本当に八百年前の技術か……?)

 

背筋が震える。

 

もしこの文明が滅びていなければ。

 

ONE PIECE世界は、今とは全く違う未来を歩んでいたかもしれない。

 

飛行機。

 

通信。

 

電力。

 

宇宙。

 

そこまで到達していても、おかしくなかった。

 

その時だった。

 

レインの視線が、壁の一角へ止まる。

 

そこだけ妙に空白が多かった。

 

他の場所には大量の設計図や文字が刻まれているのに、その一角だけ何もない。

 

いや。

 

違う。

 

何かが描かれていた跡がある。

 

消されたのだ。

 

レインは目を細めた。

 

(……隠した?)

 

壁に残された薄い線を指でなぞる。

 

かすかに残る輪郭。

 

それは船にも兵器にも見えなかった。

 

むしろ――空を飛ぶ何か。

 

レインの脳裏に、前世の知識が自然と浮かび上がる。

 

揚力。

 

推進。

 

翼構造。

 

空気抵抗。

 

この世界では存在しないはずの概念。

 

だが、この文明なら到達していても不思議ではなかった。

 

レインは拾った紙に絵を描きながら小さく息を漏らす。

 

「……面白い」

 

父親が怪訝そうに振り返った。

 

「何がだ?」

 

レインは壁を見つめたまま答える。

 

「この文明は、俺が思ってた以上に未来へ進もうとしてたってことだよ」

 

翼。

 

機体。

 

重心。

 

推進構造。

 

前世では当たり前だった“飛ぶための理論”。

 

だがこの世界には存在しない。

 

父親は腕を組み、その様子を黙って見ていた。

 

「…………」

 

理解できなかった。

 

いや。

 

理解の範囲を超えていた。

 

まだ幼い子供。

 

背丈だって、自分の腰ほどしかない。

 

だというのに。

 

レインが紙へ描いている図は、明らかに“船”ではなかった。

 

左右へ伸びる巨大な翼。

 

細長い機体。

 

帆もない。

 

マストもない。

 

見たこともない構造。

 

だが不思議と、“飛ぶ”ためのものだと直感できる。

 

父親は低い声で言った。

 

「……本気で言ってるのか」

 

レインは手を止めない。

 

紙へ線を引きながら、小さく首を傾げる。

 

「ん?」

 

「空を飛ぶ船だ」

 

「作れたら便利じゃないですか」

 

父親は頭を抱えた。

 

「便利とかそういう問題じゃないだろ……」

 

レインは笑う。

 

だが、その目は真剣だった。

 

前世では、空を飛ぶことなど当たり前だった。

 

飛行機。

 

人工衛星。

 

インターネット。

 

文明は世界を繋げた。

 

遠く離れた国とも、一瞬で連絡が取れた。

 

空を越え。

 

海を越え。

 

人は世界そのものを小さくしていった。

 

だが、この世界にはない。

 

海しかない。

 

島と島は分断されている。

 

情報も。

 

技術も。

 

自由も。

 

海によって閉ざされている。

 

だからレインは思う。

 

(この世界、まだ不自由すぎる)

 

ONE PIECE世界は好きだ。

 

ロマンがある。

 

夢がある。

 

冒険がある。

 

だが同時に。

 

この世界は、あまりにも“止まりすぎている”。

 

八百年前に存在した未来。

 

その先へ進めなかった世界。

 

もし。

 

あの文明が滅びていなければ。

 

この世界は、もっと違う未来へ辿り着いていたのかもしれない。

 

レインは静かに線を引く。

 

翼の角度。

 

機体の重心。

 

脳内では既に完成図が浮かび始めていた。

 

もちろん、今すぐ作れるわけじゃない。

 

材料もない。

 

技術者もいない。

 

動力も存在しない。

 

だが。

 

理論はある。

 

知識はある。

 

そして何より。

 

この地下には、“未来の欠片”が眠っている。

 

なら。

 

いつか必ず届く。

 

空へ。

 

その時だった。

 

――カチッ

 

小さな音が地下空間へ響いた。

 

レインと父親が同時に顔を上げる。

 

地下空間奥。

 

暗闇の中。

 

古代装置の一部が、ゆっくり開いていた。

 

まるで。

 

誰かを待っていたかのように。

 

父親が警戒した声を出す。

 

「……下がれ、レイン」

 

だがレインは目を離せなかった。

 

装置の中から、何かがせり出してくる。

 

金属製の箱だった。

 

完全密封。

 

錆一つない。

 

そして表面には、ヴェルク家と同じ紋章が刻まれていた。

 

レインの鼓動が大きくなる。

 

レインは慎重に近づく。

 

箱表面には、古代文字が刻まれていた。

 

だが不思議と読めた。

 

『継承者へ』

 

空気が変わる。

 

父親の表情が強張る。

 

レインは静かに箱へ触れた。

 

その瞬間。

 

――ガコン

 

ロックが解除される。

 

ゆっくりと蓋が開いていく。

 

中に入っていたのは、一冊の古びた手帳だった。

 

父親が息を呑む。

 

「本……?」

 

レインはそっと手帳を持ち上げる。

 

古い。

 

だが保存状態は異常なほど良かった。

 

ページを開く。

 

そこには、大量の設計図と数式が書き込まれていた。

 

発電理論。

 

動力構造。

 

未知のエネルギー式。

 

そして最後のページ。

 

そこに書かれていた一文を見た瞬間、レインの呼吸が止まった。

 

『我が友、ジョイボーイへ』

 

地下空間が静まり返る。

 

機械音だけが響いている。

 

レインはゆっくりその文字を見つめた。

 

八百年前。

 

この世界には確かに、“未来”を夢見た者達がいた。

 

そしてその意思は。

 

今、自分の手へ渡されたのだ。

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