ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第五十一話 「規格外」

 

七歳の誕生日祭りから数週間後、港に一隻の商船が姿を現した。

 

見覚えのある船だった。

 

「あれは……」

 

工房の外を眺めていたルークが声を上げる。

 

「ガレスさんの船ですね」

 

「みたいだな」

 

レインも頷いた。

 

しばらくして工房の扉が開く。

 

「レイン!」

 

聞き慣れた声だった。

 

「お久しぶりです」

 

「元気そうだな!」

 

ガレスは豪快に笑う。

 

その後ろには船員達が大きな木箱を運んでいた。

 

「それは?」

 

レインが尋ねる。

 

ガレスは木箱を指差した。

 

「お前に作ってもらった変形滑車だ」

 

「壊れました?」

 

「いや」

 

ガレスは首を振った。

 

「絶好調だ」

 

そう言いながら笑う。

 

「今回は点検を頼みに来た」

 

レインは少し驚いた。

 

「わざわざですか?」

 

「当然だろ」

 

ガレスは真面目な顔になる。

 

「お前が作った物だ」

 

「他の職人に適当に触らせたくない」

 

その言葉にレインは少し嬉しくなった。

 

職人として、これ以上ない信頼だった。

 

木箱を開ける。

 

中には使い込まれた変形滑車が入っていた。

 

海風に晒されていたため多少の錆はある。

 

だが状態は良好だった。

 

「かなり使いましたね」

 

「毎日な」

 

「問題ありません」

 

レインは分解しながら答える。

 

「部品交換も不要です」

 

「本当か?」

 

「あと数年は普通に使えます」

 

ガレスは思わず笑った。

 

「まったく...とんでもない物を作るよな」

 

メンテナンスが終わるまでの間。

 

ガレスは工房を見て回っていた。

 

前回来た時よりも明らかに発展している。

 

工具は増え、

 

作業台も増え、

 

整理整頓も進んでいる。

 

そして壁際に見慣れない帳簿を見つけた。

 

「ん?」

 

手に取る。

 

表紙には大きく文字が書かれていた。

 

『特許登録帳』

 

ガレスの眉が動く。

 

「何だこれは」

 

レインが顔を上げた。

 

「ああ、それですか」

 

そして説明を始める。

 

発明者を守る制度。

 

一定期間は発明者のみが製造できること。

 

購入や使用は自由であること。

 

期間終了後は誰でも製造可能になること。

 

長老や島民達の承認を得て正式な制度になったこと。

 

全てを説明した。

 

話が終わった時、ガレスは無言だった。

 

工房の中が静まり返る。

 

数秒後、ようやく口を開いた。

 

「待て」

 

「はい」

 

「制度を作ったのか?」

 

「作りました」

 

「島の?」

 

「島のです」

 

「お前が?」

 

「はい。提案したのは俺です」

 

ガレスは額を押さえた。

 

頭が痛くなってきた。

 

前回会った時も異常だと思った。

 

高度な変形滑車を作る。

 

商人と契約を結ぶ。

 

商談も成立させる。

 

だが今回は別次元だった。

 

制度...つまり島のルールそのものだ。

 

普通の職人は作れない。

 

普通の商人も作れない。

 

それを目の前の少年がやっている。

 

「長老は認めたのか?」

 

「認めてくれました」

 

「住民は?」

 

「賛成してくれました」

 

ガレスは深いため息を吐いた。

 

「やっぱり只者じゃないな……」

 

昼食の時間、ガレスは父と話していた。

 

「本当に驚いたぞ」

 

「何がです?」

 

父は笑う。

 

「全部だ」

 

ガレスは即答した。

 

「普通の職人なら技術だけだ」

 

「優秀な商人なら商売だけだ」

 

「だがレインは違う」

 

工房の奥で図面を描いているレインを見る。

 

「技術もある」

 

「商売も分かる」

 

「人も動かせる」

 

「制度まで作る」

 

父は苦笑した。

 

「まあ、島唯一のガロアークですから」

 

ガレスの動きが止まった。

 

「……今なんて言った?」

 

「ガロアークですよ」

 

父が首を傾げる。

 

次の瞬間。

 

ガレスが勢いよく立ち上がった。

 

「お前、ガロアークなのか!?」

 

突然の大声にレインも驚く。

 

「知っているんですか?」

 

するとガレスは呆れたような顔をした。

 

「知ってるも何も……」

 

大きく息を吐く。

 

「あのガロアークだぞ?」

 

「幻の栄誉って呼ばれてるやつだ」

 

レインは目を瞬かせた。

 

そこまで有名だとは思っていなかった。

 

長老達が騒いでいたから凄いものだとは思っていた。

 

だが、それは島の中だけの話だと思っていたのだ。

 

ガレスは続ける。

 

「この島と関わりのある商人なら誰だって知ってる」

 

「海軍も名前くらいは知っているだろうな」

 

「世界政府も把握しているはずだ」

 

レインの目が少しだけ見開かれる。

 

(そんなに有名なんだ……)

 

初めて実感した。

 

自分が思っていたよりもずっと大きな意味を持つ称号だったらしい。

 

ガレスは腕を組んだ。

 

「なるほどな」

 

「色々納得した」

 

「何がですか?」

 

「お前が普通じゃない理由だ」

 

そして何気なく尋ねる。

 

「ところで今何歳なんだ?」

 

父が答えた。

 

「この前七歳になりました」

 

沈黙。

 

ガレスの動きが止まる。

 

数秒。

 

いや十秒近く固まっていた。

 

「……今なんて言った?」

 

「七歳です」

 

父が答える。

 

「七歳」

 

「はい」

 

再び沈黙。

 

ガレスはゆっくり椅子にもたれ掛かった。

 

そして真顔で言った。

 

「子供って何だっけ?」

 

工房中に笑い声が響いた。

 

ルークは吹き出し。

 

父は肩を震わせている。

 

レインだけが不満そうだった。

 

「ちゃんと子供ですよ」

 

「嘘だな」

 

ガレスは即答した。

 

「俺が七歳の頃なんて魚捕まえたり、泥だらけになって遊んでたぞ」

 

「俺もです」

 

ルークが頷く。

 

「だろうな」

 

ガレスも力強く頷いた。

 

「それが普通なんだ」

 

レインは納得できない顔をしていた。

 

その日の夕方、点検を終えた変形滑車を受け取ったガレスは港へ向かう。

 

船へ乗る前に振り返った。

 

煙突から煙を上げるレイン工房。

 

そこで働く職人達。

 

そして中心にいる一人の少年。

 

ガロアーク。

 

発明家。

 

制度の創設者。

 

そしてまだ七歳。

 

「規格外にも程があるだろ……」

 

ガレスは苦笑した。

 

十年後。

 

二十年後。

 

この少年がどこまで成長するのか。

 

想像もできない。

 

だが一つだけ確かなことがある。

 

きっと世界は、この少年を放っておかない。

 

そんな予感を抱きながら、ガレスの商船はゆっくりと港を離れていったのだった。

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