ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
少し悩んだのですが、ここから物語を三年ほど進めることにしました。
理由としては、七歳から十歳までを細かく描くと、工房の発展や発明が中心になり、どうしても似たような展開が続いてしまうと感じたためです。
もちろん、この三年間もレインは止まっていたわけではありません。
工房の拡大。
従業員の増加。
技術の発展。
島外との取引。
様々な出来事がありました。
今回はその三年間の変化も含めて、十歳になったレインの現在を書いていこうと思います。
それでは第五十二話をお楽しみください。
第五十二話 「十歳の工房長」
時は流れた。
レインが七歳だったあの日から三年。
島も。
工房も。
大きく変わっていた。
レイン工房。
今では島で知らない者はいない。
工房の敷地は以前の数倍に広がり、作業場も増設されていた。
工具を作る職人。
農具を作る職人。
修理を担当する職人。
採掘用機材を担当する職人。
それぞれが忙しそうに働いている。
工房の入口には次々と依頼人が訪れ、注文書が積み上がっていた。
「工房長!」
一人の従業員が駆け寄ってくる。
「北採掘場から追加注文です!」
「見積書は?」
「こちらです!」
レインは受け取った書類へ目を通した。
数秒。
「この数量なら鋼材を変更した方が安いな」
「分かりました!」
従業員はすぐに走っていく。
その姿を見ながらレインは苦笑した。
いつの間にか皆が自分を工房長と呼ぶようになっていた。
そして今では正式な肩書きでもある。
十歳になった今年。
父から正式にレイン工房の代表を引き継いだからだ。
工房の奥。
父が顔を出した。
「忙しそうだな」
「父さんこそ」
レインは笑う。
「船の方はどう?」
「忙しい」
父は即答した。
正式に工房をレインへ引き渡してから、父は本業である船大工へ専念している。
もちろん今でも相談には乗る。
だが経営にはほとんど口を出さない。
工房の判断は全てレインへ任せていた。
「もう俺がいなくても回るしな」
父が周囲を見る。
十人の従業員。
大量の注文。
整備された作業場。
三年前とは比較にならない規模だった。
現在。
レイン工房の従業員は十人。
全員が自ら応募してきた者達だった。
理由もほぼ同じである。
『レインと働きたい』
『レイン工房で働きたい』
『レインの技術を学びたい』
最初は父も警戒した。
だが問題は起きなかった。
むしろ逆だった。
信者と言ってもいいほど熱意が高かったのである。
朝は誰より早く来る。
仕事も真面目。
勉強熱心。
新しい技術にも積極的。
半年も経つ頃には立派な戦力となっていた。
「工房長!」
「どうした?」
「新しい工具の改良案なんですが!」
「見せて」
最近では従業員の方から提案してくることも増えた。
レインは内心嬉しく思う。
技術は一人では発展しない。
皆が考えるようになったことこそ大きな成長だった。
そして工房にはもう一人。
欠かせない存在がいた。
「レインさん」
聞き慣れた声だった。
振り返る。
そこには十三歳になったルークが立っている。
身長は大きく伸びた。
体格も職人らしくなっている。
以前の少年らしさは残っているが、今では立派な若手職人だった。
「修理終わりました」
「早いな」
「慣れましたので」
ルークは笑う。
今では製作と修理の責任者だ。
島の職人達と比べても遜色ない。
むしろ上位に入る実力を持っている。
「助かる」
「いえ」
ルークは少し照れ臭そうに笑った。
もっとも...レインと比べると霞んでしまう。
それだけだった。
工房の運営も大きく変わった。
以前はレインと父で行っていた会計。
見積。
在庫管理。
今では従業員達へ任せている。
だからこそレインは自分にしかできない仕事へ集中できるようになった。
難しい見積。
新製品の設計。
工房全体の方針。
そして未来の計画。
それが現在のレインの仕事だった。
夕方。
工房二階の事務室。
レインは一枚の手紙を読んでいた。
差出人はガレス。
今ではすっかり定期的な取引相手である。
内容を読み終えたレインは思わず苦笑した。
「またか……」
「どうしたんですか?」
ルークが尋ねる。
「見学希望」
「またですか?」
「まただ」
ここ一年で何度目か分からない。
原因は一人しかいない。
ガレスである。
最初は変形滑車。
次は計算機。
そして特許制度。
さらに工房そのもの。
商人達の間で少しずつ噂が広まっていた。
『東の海の辺境にある不思議な工房』
『見たこともない技術を生み出す発明家』
『十歳の工房長』
『島唯一のガロアーク』
ガレスは商人だ。
良い商品や面白い話を広めるのも仕事の一つだった。
その結果。
レイン工房の名は少しずつ島の外へ広がっていたのである。
「最近は商人だけじゃないですからね」
ルークが苦笑する。
「海軍まで来ましたからね」
「あれは驚いた」
半年前には補給のため立ち寄った海軍の船員達が工房を見学して帰ったこともある。
噂は確実に広がっている。
レインは窓の外を見る。
港。
採掘場。
工房。
働く人々。
三年前とは全く違う景色だった。
工房は完成した。
組織も育った。
人材も揃った。
そして今。
レイン工房の名は海を越え始めている。
レインは静かに笑った。
「そろそろ本当に島の外を考える時期かもしれないな」
十歳。
レイン工房工房長。
その名は既に東の海の商人達の間で知られ始めていた。
そして本人もまだ気付いていない。
その噂が、これからさらに大きな人物達の耳へ届いていくことを。