ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
レイン工房が東の海で少しずつ名を知られるようになってから数ヶ月。
その日も工房は慌ただしかった。
「工房長!」
「北採掘場の滑車交換終わりました!」
「了解」
「港の修理依頼も来ています!」
「ルーク、修理班を連れて行ってくれ」
「分かりました」
ルークがすぐに動く。
十三歳になった今では立派な職人だった。
製作も修理も安心して任せられる。
レインは机の上に積まれた見積書へ目を通した。
従業員が十人になったとはいえ、仕事はむしろ増えている。
島全体の発展と共にレイン工房への依頼も増え続けていた。
そんな時だった。
工房の扉が勢いよく開く。
「工房長!」
港の作業員が飛び込んできた。
「どうした?」
「すごい船が来ました!」
「すごい船?」
「今まで見たことないくらい大きな船です!」
その言葉に工房内がざわつく。
レインも顔を上げた。
この島へ来る船は限られている。
大抵は商船だ。
だが作業員の興奮した様子を見る限り、それだけではなさそうだった。
「行ってみるか」
レインが立ち上がる。
ルークも付いてきた。
港へ到着した瞬間。
レインは思わず立ち止まった。
大きい。
とにかく大きい。
今まで見たどの船よりも完成度が高かった。
船体の曲線は美しく、無駄がない。
帆の配置も絶妙だ。
遠目からでも分かる。
一流。
それも世界レベルの船大工が造った船だ。
「すごい……」
ルークが呟く。
レインも同意だった。
船大工として、純粋に感動している。
そんな二人の前で、一人の男が豪快に笑った。
「ワッハッハッハッハ!」
港中に響く大声だった。
巨大な体。
魚人。
そして圧倒的な存在感。
男はレインを見るなり笑顔を浮かべる。
「お前さんがレインか!」
「そうですけど……」
男は嬉しそうだった。
まるで昔からの知り合いに会ったかのような笑顔である。
「やっと会えたぞ!」
レインは首を傾げる。
「どちら様ですか?」
男は胸を張った。
「トムだ!」
その瞬間。
レインの思考が止まった。
(トム?)
(あのトム?)
(ウォーターセブンの?)
未来において海賊王の船を造った男。
海列車を発明する男。
伝説の船大工。
そのトムが目の前にいた。
「ガレスから話は聞いてるぞ!」
トムは豪快に笑う。
「東の海の端っこに面白ぇ船大工がいるってな!」
なるほど、原因はガレスだった。
レインは苦笑する。
あの商人なら言いふらしていても不思議ではない。
「わざわざ来てくださったんですか?」
「もちろんだ!」
トムは即答した。
「面白ぇ話を聞いたら見に行く!」
「船大工なら当然だろ!」
レインは思わず笑った。
確かにそうかもしれない。
しばらくして、トムはレイン工房へ案内された。
工房へ入った瞬間。
その目が輝く。
「おおおおお!」
大声が響いた。
歯車を見る。
滑車を見る。
工具を見る。
計算機を見る。
まるで子供のようだった。
「面白ぇ!」
「これもお前が作ったのか!?」
「はい」
「こっちは!?」
「それもです」
「最高じゃねぇか!」
従業員達は呆然としていた。
島の外から来た大物だと聞いていた。
だが目の前にいるのは技術を見るたびに大興奮する巨大魚人だった。
やがて、トムは変形滑車の前で足を止めた。
ガレスへ売った物と同型の試作品である。
「これが例の滑車か」
トムが手に取る。
回す。
角度を変える。
荷重を確認する。
そして無言になる。
工房が静かになった。
皆が様子を見守っている。
数十秒後。
トムが口を開いた。
「なるほどな」
その一言だった。
だが職人には分かる。
本気で見ていた。
本気で評価していた。
「どうですか?」
レインが尋ねる。
トムは笑った。
「面白ぇ」
「それだけですか?」
「それだけで十分だ」
トムは再び滑車を見る。
「職人にとって面白ぇは最高の褒め言葉だぞ」
レインは思わず笑った。
確かにそうかもしれない。
さらにトムは工房全体を見渡す。
従業員達が働いている。
誰もがレインの指示を待ち、動いている。
その様子を見たトムが父へ尋ねた。
「あの坊主、本当に工房長なのか?」
「本当ですよ」
父が笑う。
「俺はほとんど口を出してません」
トムは驚いた。
普通なら信じられない。
十歳の子供だ。
だが誰一人として不満そうな顔をしていない。
むしろ尊敬している。
技術だけではない。
人も付いてきている。
そこにトムは驚いていた。
「すげぇな……」
思わず漏れる。
技術者は沢山いる。
だが人を率いる技術者は少ない。
まして十歳である。
完全に規格外だった。
そして、トムの視線が工房の奥で止まった。
棚の上に置かれた設計図。
レインが誰にも見せていない研究資料だった。
「見てもいいか?」
「どうぞ」
トムは設計図を手に取る。
一枚。
二枚。
三枚。
黙ったまま読み進める。
誰も話さない。
レインも。
父も。
ルークも。
静かに待っていた。
数分後。
トムが呟く。
「船じゃねぇな」
「はい」
「鳥でもねぇ」
「はい」
さらに設計図を見つめる。
そして、ゆっくりと笑った。
「空へ行きたいんだろ?」
レインの目が見開かれる。
今まで誰も気付かなかった。
だがトムだけは理解した。
設計思想を。
構造を。
目指している未来を。
「……飛ばしたいんです」
レインは静かに答えた。
トムはニヤリと笑う。
そして。
「ワッハッハッハッハ!」
豪快に笑い出した。
「最高じゃねぇか!」
その目は本気だった。
「面白ぇ!」
「本当に面白ぇぞ!」
船を愛する者同士だからこそ分かる。
そんな表情だった。
やがて夕方。
トムは港へ戻る準備を始める。
レインは少し意外だった。
「船に戻るんですか?」
「当たり前だろ」
トムは笑った。
「宿は船だ」
そして指を突きつける。
「だが!」
嫌な予感がした。
「明日も来る!」
「はい?」
「こんな面白ぇ工房、一日じゃ見足りねぇ!」
レインは苦笑した。
トムは満足そうに笑う。
「徹底的に話そうじゃねぇか」
「船大工同士な!」
夕日に照らされた港に豪快な笑い声が響く。
伝説の船大工トム。
東の海で噂になった天才発明家レイン。
二人の出会いは、まだ始まったばかりだった。