ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

56 / 57
第五十五話 「船に罪はない」

 

トムが島へ来て三日目。

 

相変わらず毎朝レイン工房へ現れていた。

 

「ワッハッハッハッハ!」

 

港から聞こえてくる笑い声だけで誰が来たのか分かる。

 

従業員達も完全に慣れてしまった。

 

「トムさん、おはようございます」

 

「おう!」

 

トムは豪快に笑う。

 

「今日は何を見せてくれるんだ?」

 

「昨日で大体見たじゃないですか」

 

「まだ足りねぇ!」

 

即答だった。

 

レインは苦笑する。

 

どうやら本当に工房が気に入ったらしい。

 

昼過ぎ。

 

仕事が一段落した頃だった。

 

レインとトムは港近くの丘へ来ていた。

 

島を見下ろせる場所だ。

 

眼下には港がある。

 

漁船が行き交い、商船が停泊し、人々が忙しく働いている。

 

三年前と比べると見違えるほど賑やかになっていた。

 

しばらく二人は海を眺めていた。

 

やがてトムが口を開く。

 

「いい港だな」

 

「そうですか?」

 

「ああ」

 

トムは頷く。

 

「生きてる港だ」

 

レインは少し考える。

 

確かに昔より人は増えた。

 

船も増えた。

 

荷物も増えた。

 

工房の依頼も増えている。

 

島全体が少しずつ発展しているのを感じていた。

 

ふと、レインは以前から気になっていたことを思い出した。

 

「トムさん」

 

「ん?」

 

「一つ聞いてもいいですか?」

 

「何だ?」

 

レインは海を見ながら言う。

 

「もし、自分の作った物が悪用されたらどうしますか?」

 

トムが視線を向ける。

 

レインは続けた。

 

「滑車もそうです」

 

「計算機もそうです」

 

「船もそうです」

 

「これから先、もっと色々作ると思います」

 

「便利な物ほど悪用されるかもしれない」

 

「そう考えることがあるんです」

 

前世でもそうだった。

 

便利な技術は人を助ける。

 

だが同時に悪用もされる。

 

技術が進歩すればするほど、その問題は大きくなる。

 

レインはずっとその答えを持っていなかった。

 

トムは少しだけ考えた。

 

そして静かに言う。

 

「船に罪はねぇ」

 

レインが顔を上げる。

 

トムは海を見たままだった。

 

「俺はそう思ってる」

 

穏やかな声だった。

 

工房で笑っている時とは違う。

 

船大工としての本音だった。

 

「海賊が使うかもしれねぇ」

 

「商人が使うかもしれねぇ」

 

「海軍が使うかもしれねぇ」

 

「だが、それを決めるのは船じゃねぇ」

 

潮風が吹く。

 

トムは続けた。

 

「乗る奴だ」

 

「悪いのは船じゃねぇ」

 

「使う人間だ」

 

レインは黙って聞いていた。

 

「だから俺は船を作る」

 

トムは笑う。

 

「最高の船をな」

 

その言葉には迷いがなかった。

 

長年船を作り続けてきた職人の言葉だった。

 

「なるほど……」

 

レインは小さく呟く。

 

正直、完全に納得したわけではない。

 

だが、トムが本気でそう考えていることは伝わった。

 

そして、その考え方は嫌いではなかった。

 

「別に今すぐ理解しなくていい」

 

トムが言う。

 

「お前はお前で考えろ」

 

「自分の答えを探せばいい」

 

レインは頷いた。

 

それで良かった。

 

答えを押し付けられるより、自分で考えたい。

 

そう思っていたからだ。

 

話題は変わる。

 

今度はレインが質問した。

 

「トムさんの工房ってどんな所なんですか?」

 

するとトムの目が輝いた。

 

「おお!」

 

「聞きたいか!」

 

「聞きたいです」

 

その瞬間だった。

 

トムの船大工語りが始まった。

 

「ウォーターセブンはすげぇぞ!」

 

トムが立ち上がる。

 

「世界中の船が集まる!」

 

「世界中の船大工も集まる!」

 

身振り手振りが大きい。

 

だが楽しそうだった。

 

「港へ行けば珍しい船ばかりだ!」

 

「新しい技術もある!」

 

「職人同士で毎日喧嘩みたいな議論してる!」

 

レインの目が少しずつ輝いていく。

 

聞いているだけで楽しそうだった。

 

船大工の町。

 

世界最大級の造船都市。

 

前世で知っていたウォーターセブン。

 

だが実際にそこで暮らすトムの話は想像以上だった。

 

「行ってみたいです」

 

気付けば口から出ていた。

 

トムは笑う。

 

「来いよ!」

 

「歓迎するぞ!」

 

レインは海の向こうを見る。

 

まだ行ったことのない世界。

 

もっと大きな港。

 

もっと大きな工房。

 

もっと優秀な船大工達。

 

その中に飛び込んでみたい。

 

そんな気持ちが少しだけ芽生えていた。

 

夕方。

 

二人は港へ戻る。

 

別れ際。

 

トムが笑いながら言った。

 

「お前、島にいるだけじゃ勿体ねぇな」

 

レインは苦笑する。

 

最近似たようなことをよく言われる。

 

ガレスにも言われた。

 

トムにも言われた。

 

「そうですか?」

 

「ああ」

 

トムは即答する。

 

「お前はもっと世界を見ろ」

 

「面白ぇもんが沢山あるぞ」

 

その言葉はレインの胸に残った。

 

世界。

 

海の向こう。

 

ウォーターセブン。

 

そしてまだ見ぬ技術。

 

今までは島を発展させることばかり考えていた。

 

だが、そろそろ外へ目を向ける時期なのかもしれない。

 

そんなことを考えながら、レインは夕日に染まる海を見つめるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。