ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
トムが島へ滞在してから五日。
気付けば、その五日間はあっという間だった。
工房の従業員達もすっかり慣れてしまい、朝になると、
「今日はトムさん来てないですね」
などと話すようになっていた。
そんなトムも、今日はいよいよ出航の日だった。
朝...
レインはいつもより少し早く港へ向かった。
既にトムの船では出航準備が始まっている。
船員達が忙しそうに荷物を積み込み、帆の点検を行っていた。
その中心で、トムが大声を上げている。
「そこはもっとしっかり縛れ!」
「海を舐めるな!」
「ワッハッハッハ!」
相変わらずだった。
レインは思わず笑う。
するとトムも気付いたらしい。
大きく手を振った。
「おう!」
「来たか!」
「見送りに来ました」
「そうか!」
トムは嬉しそうに笑った。
やがてルークもやって来る。
続いて父。
従業員達も仕事前に顔を出していた。
気付けば港には結構な人数が集まっていた。
トムは周囲を見渡しながら笑う。
「人気者は俺じゃなくてお前だな」
「違いますよ」
レインが否定する。
すると近くの従業員が言った。
「いや、トムさんも人気ですよ」
「毎日話が面白かったですし」
「船の話もっと聞きたかったです」
あちこちから同意の声が上がる。
トムは豪快に笑った。
「ワッハッハッハ!」
「そうかそうか!」
まんざらでもなさそうだった。
しばらくして。
出航の準備が終わる。
船員の一人が声を上げた。
「トムさん!」
「いつでも出られます!」
トムは頷く。
そしてレインへ視線を向けた。
「少し歩くか」
「はい」
二人は港の端へ移動した。
波の音だけが聞こえる。
数日間。
毎日のように話した相手だ。
不思議と沈黙も気まずくなかった。
「楽しかったぞ」
トムが言う。
「俺もです」
レインは素直に答えた。
本当にそう思っていた。
飛行船の話。
船大工の話。
ウォーターセブンの話。
今まで知らなかったことを沢山教えてもらった。
そして何より、初めて自分の夢を本気で聞いてくれる船大工だった。
「正直な」
トムが笑う。
「最初は噂を確かめに来ただけだった」
レインは苦笑する。
「ガレスさんですか」
「そうだ」
トムは頷く。
「東の海の端っこに天才だが、変なガキがいるってな」
「ひどいですね」
「実際変なガキだった」
即答だった。
レインは少しだけ頬を引きつらせる。
トムは豪快に笑った。
そして、少し真面目な顔になる。
「だが」
「はい」
「お前は本物だ」
レインが顔を上げる。
トムは真っ直ぐこちらを見ていた。
「技術もある」
「頭もいい」
「人も集まる」
「だが一番いいのはそこじゃねぇ」
レインは黙って聞く。
「お前はちゃんと夢を持ってる」
トムは笑った。
「職人はそれが一番大事だ」
潮風が吹く。
レインは少し照れ臭くなった。
褒められるのは慣れていない。
前世でも、この世界でも、どちらかと言えば成果ばかり評価されてきた。
夢を褒められたのは初めてだった。
「飛ぶ船」
トムが言う。
「完成したら見せろ」
「完成したらですね」
「完成させろ」
トムは笑う。
「俺が生きてるうちにな」
その言葉にレインも笑った。
「努力します」
「努力じゃねぇ」
トムは首を振る。
「作れ」
その言い方が妙にトムらしかった。
すると今度はレインが尋ねる。
「トムさん」
「ん?」
「また会えますか?」
トムは一瞬だけ目を丸くした。
そして、豪快に笑った。
「当たり前だ!」
港に響く大声だった。
「俺は船大工だぞ!」
「お前も船大工だ!」
「ならまた会う!」
理屈になっていない。
だが、妙に納得できた。
トムは船へ戻る。
タラップを上りながら振り返った。
「レイン!」
「はい!」
「ウォーターセブンへ来い!」
「いつか必ず!」
その返事に満足したようにトムは笑う。
そして船員達へ叫んだ。
「出航だ!」
「おおーーー!!」
船員達の声が響く。
帆が広がる。
ロープが外される。
巨大な船がゆっくりと港を離れていく。
レインはその姿を見送っていた。
隣にはルーク。
後ろには父。
工房の仲間達もいる。
船は少しずつ小さくなる。
やがて水平線へ近付いていく。
その時だった。
遠くからトムの声が聞こえた。
「飛ぶ船作れよーーー!!」
港中に響く大声だった。
思わずレインは笑う。
「言われなくても」
小さく呟く。
そして船が見えなくなるまで、その場に立ち続けた。
帰り道。
レインは空を見上げた。
飛ぶ船。
ウォーターセブン。
世界の技術。
まだ知らないことは沢山ある。
島の発展も大事だ。
だが、それだけでは足りない。
もっと知りたい。
もっと学びたい。
もっと遠くへ行きたい。
トムとの出会いは短かった。
だが確実にレインの世界を広げていた。
十歳の少年の視線は、少しずつ海の向こうへ向き始めていたのだった。