ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

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第五十八話 「最初の一発」

 

それから三日後。

 

今日は工房の定休日だった。

 

レイン工房は週に二日休みを設けている。

 

最初はレイン自身の研究時間を確保するためだったが、従業員が増えた今では貴重な休日として定着していた。

 

もっとも、今日のレインに休むつもりは無かった。

 

朝食を食べ終えると、父と母へ一言だけ告げる。

 

「ちょっと出掛けてくる」

 

「研究か?」

 

父が尋ねる。

 

「そんなところ」

 

完全な嘘ではない。

 

ある意味では研究だった。

 

筋肉の研究である。

 

解体場へ向かう道を歩きながら、レインは少しだけ緊張していた。

 

勢いで決意したものの、本当にやるとなると話は別だ。

 

前世で読んだ時は笑っていた。

 

軍艦を殴る修業。

 

漫画だから成立する話だと思っていた。

 

だが今は違う。

 

自分がやる側である。

 

改めて考えると意味が分からない。

 

「何で船殴ろうと思ったんだろうな……」

 

自分で言っていて少し悲しくなった。

 

やがて解体場へ到着する。

 

休日ということもあり、人の姿はほとんど無い。

 

目の前には役目を終えた船が並んでいる。

 

小型船。

 

中型船。

 

大型船。

 

解体を待つ廃船が山のように積まれていた。

 

レインはその中から比較的小さな船を選ぶ。

 

とは言っても船だ。

 

子供から見れば十分大きい。

 

木材も厚い。

 

近くで見ると圧迫感すらある。

 

「よし」

 

レインは深呼吸した。

 

六歳から走り込みは続けている。

 

筋トレも欠かしたことはない。

 

前世の知識を活かして無理のない範囲で鍛えてきた。

 

そのおかげで体力には自信があった。

 

島の大人達と競争しても負けない。

 

少なくとも同年代では敵無しだと思う。

 

だから少しくらいならいける気がしていた。

 

少しくらいなら。

 

本当に少しくらいなら。

 

拳を握る。

 

構える。

 

目の前には船。

 

ガープ。

 

クザン。

 

コビー。

 

前世で見た修業風景が脳裏をよぎる。

 

「いや、あの人達やっぱり頭おかしいな」

 

最後にそう呟いてから。

 

レインは思い切り拳を振り抜いた。

 

ドゴッ!

 

鈍い音が響く。

 

次の瞬間だった。

 

「っっっっっ!!?」

 

声にならない悲鳴が漏れた。

 

激痛。

 

とんでもない激痛だった。

 

殴った瞬間、自分の拳が壊れたと思った。

 

慌てて後ろへ飛び退く。

 

拳を抱える。

 

痛い。

 

ものすごく痛い。

 

涙が滲む。

 

というか普通に涙目だった。

 

「痛っ!!」

 

誰もいない解体場に叫び声が響く。

 

レインはその場でしゃがみ込んだ。

 

拳を見る。

 

幸い折れてはいない。

 

赤く腫れている程度だ。

 

だが痛い。

 

信じられないくらい痛い。

 

「骨折れたかと思った……」

 

涙目のまま呟く。

 

そして船を見る。

 

当然ながら。

 

傷一つ付いていない。

 

圧倒的敗北だった。

 

しばらくその場でうずくまる。

 

ようやく痛みが少し落ち着いた頃。

 

レインは改めて船を見る。

 

そして思った。

 

「これを毎日?」

 

ガープ。

 

クザン。

 

コビー。

 

改めて考える。

 

頭がおかしい。

 

どう考えてもおかしい。

 

普通の人間なら途中でやめる。

 

というか始めない。

 

だが、そこで諦める気にはならなかった。

 

むしろ逆だった。

 

レインは立ち上がる。

 

そしてもう一度船を見る。

 

今の一発でよく分かった。

 

今の自分は弱い。

 

島の中ではそこそこ体力がある。

 

だが世界基準では話にならない。

 

船に傷一つ付けられないのだから当然だった。

 

「なるほどな……」

 

レインは小さく笑う。

 

「これは強くなるわ」

 

実際にやってみて理解した。

 

この修業が効果ある理由を。

 

単純だ。

 

続けられる人間がほとんどいないのである。

 

もちろん、今日はいきなり終わりだった。

 

これ以上やれば本当に拳を壊す。

 

レインは前世の知識を持っている。

 

無茶と努力は違う。

 

継続できなければ意味が無い。

 

だから今日はここまでだ。

 

代わりにメモ帳を取り出す。

 

そして書き始める。

 

拳の保護方法。

 

段階的な鍛え方。

 

回復期間。

 

トレーニング内容。

 

どうすれば怪我を減らせるか。

 

どうすれば効率良く鍛えられるか。

 

発明家らしい発想だった。

 

帰り道...

 

拳はまだ少し痛む、それでもレインの表情は明るかった。

 

失敗した。

 

思い切り失敗した。

 

だが前へ進んだ気もしていた。

 

世界へ出たい。

 

ウォーターセブンへ行きたい。

 

飛ぶ船を完成させたい。

 

そのためには強くならなければならない。

 

今日の一発は、その第一歩だった。

 

レインは腫れた拳を見ながら苦笑する。

 

「まずは拳を壊さない方法から考えるか」

 

十歳の発明家は、強くなることすら研究対象にしようとしていたのだった。

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