ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
朝の港は騒がしかった。
潮風。
飛び交う怒鳴り声。
木材を運ぶ音。
金槌が木を打つ乾いた音。
船乗り達の笑い声。
酒の匂い。
魚の匂い。
海の匂い。
それら全てが混ざり合い、この港独特の空気を作っている。
レインは岸壁へ腰掛けながら、その光景を静かに眺めていた。
朝日が海を照らしている。
波が光を反射し、きらきらと揺れていた。
(……やっぱ良いな)
前世では、こんな景色を見ることはほとんどなかった。
毎日コンクリートに囲まれていた。
高層ビル。
会議室。
パソコン。
契約書。
数字。
もちろん嫌いではなかった。
むしろ楽しかった。
営業で結果を出し、人脈を広げ、会社を成長させていく感覚は確かに面白かった。
だが。
この世界の“生きてる感”は別格だった。
海が近い。
空が広い。
人間がもっと泥臭く生きている。
ONE PIECE世界には、確かにロマンがあった。
「おいレイン!」
怒鳴り声が飛ぶ。
振り向くと、船大工のおっさんが額に汗を浮かべていた。
筋骨隆々。
日に焼けた肌。
いかにも港の男という風貌だ。
「ぼーっとしてねぇで手伝え!」
「はいはい」
レインは苦笑しながら立ち上がった。
まだ子供だ。
だがこの港では既に船大工見習いとして働いている。
最初は周囲も驚いていた。
五歳や六歳の子供が工具を触るのだから当然だ。
だが。
レインは異常だった。
飲み込みが早すぎる。
一度見ただけで覚える。
しかも発想がおかしい。
大人達は口を揃えてそう言った。
「そっち持て!」
「うお、重っ……」
レインは木材を抱える。
ずっしり重い。
まだ身体が小さいせいで普通にきつかった。
だがその時。
ふと違和感を覚える。
(……効率悪すぎるな)
木材運搬。
完全人力。
ロープのみ。
滑車なし。
前世基準なら、かなり原始的だった。
もちろん、この世界ではそれが普通なのだろう。
だがレインには、非効率にしか見えなかった。
(滑車作れば終わるのに)
レインは周囲を見る。
ロープ。
木材。
金属輪。
材料は十分あった。
なら。
(やるか)
数時間後。
港の隅。
レインは工具を握っていた。
「おいガキ、何してんだ?」
「実験」
「は?」
レインは答えず、木材へ金属輪を固定する。
ロープを通す。
さらに柱へ固定。
簡易滑車。
前世なら小学生でも知っている単純な構造。
だが。
この世界には存在しなかった。
「……よし」
レインはロープを引く。
その瞬間。
重い木材が、信じられないほど軽く持ち上がった。
沈黙。
周囲の船大工達が固まる。
「……は?」
「お、おい待て」
「なんだそれ」
レインは小さく笑った。
「滑車」
「力の方向変えてるだけ」
大人達は意味が分からない顔をする。
だが。
便利なことだけは一瞬で理解した。
「ちょっと貸せ!!」
一人の船大工がロープを掴む。
引く。
木材が軽々持ち上がる。
目を見開く。
「軽っ!?」
「なんだこれ!!?」
一気に港がざわついた。
レインは少し苦笑する。
(文明レベル差、エグいな……)
だが。
これは始まりに過ぎない。
発電。
通信。
飛行。
この世界には、まだ存在していない未来が山ほどある。
そして。
その未来は、本来この世界にも存在していたのかもしれない。
地下で見た文明。
巨大な王国。
失われた未来。
世界政府は、それを恐れて消した。
なら。
(もう一回、未来まで辿り着けば良い)
レインは静かに空を見る。
雲がゆっくり流れていた。
その時だった。
「……レイン」
低い声。
振り向く。
父親だった。
相変わらず無精髭で、職人らしい格好をしている。
だが表情は険しかった。
レインは首を傾げる。
「何?」
父親は滑車を見る。
そして、小さく息を吐いた。
「お前、目立ちすぎるな」
その声は静かだった。
だが真剣だった。
レインは肩を竦める。
「便利な方が良いじゃん」
「それが危険なんだ」
父親の目が細くなる。
「この世界は、未来を嫌う」
レインの動きが止まる。
潮風が吹く。
港の喧騒が、どこか遠く聞こえた。
父親は周囲を見回し、小さく続ける。
「便利な技術は、人を救う」
「だが同時に、世界政府に狙われる」
静かな声だった。
だがその言葉には、重みがあった。
地下で見た文明。
消された歴史。
世界政府。
全部繋がっている。
レインは静かに海を見る。
(やっぱり)
八百年前。
巨大な王国は、ただ負けたんじゃない。
“未来そのもの”を恐れられた。
だから滅ぼされた。
レインは小さく笑う。
「なら、見つからないようにやるよ」
父親は数秒黙り込む。
そして呆れたように笑った。
「……お前、止まる気ないだろ」
レインは即答した。
「もちろん」
その瞳には、静かな熱が宿っていた。
地下深くで眠っていた未来は、もう動き始めている。
誰にも止められないほど静かに。
だが確実に。
この世界を変えようとしていた。