ONE PIECE 〜船大工レイン〜   作:ペンギンって可愛いですよね

60 / 60
第五十九話 「三か月の成果」

 

軍艦バッグを始めてから三か月が経った。

 

結論から言えば...甘かった。

 

レインは心の底からそう思っていた。

 

最初の一発を殴った日。

 

船に傷一つ付かなかった。

 

それどころか、自分の拳の方が壊れそうになった。

 

あの日からレインは訓練方法を見直した。

 

いきなり船を殴るのは無理だ。

 

だからまずは木材。

 

次に丸太。

 

その次に硬い木材。

 

段階的に強度を上げていった。

 

当然、筋トレも続けている。

 

朝の走り込みも欠かしていない。

 

工房の仕事もある。

 

以前より忙しくなったと言ってもいい。

 

そんな生活を三か月続けた結果。

 

レインの両拳は常に包帯が巻かれている状態になった。

 

傷だらけだった。

 

皮が剥ける。

 

治る。

 

また剥ける。

 

その繰り返し。

 

さすがに周囲も気付き始めていた。

 

ある日の昼休み。

 

ルークが不思議そうに尋ねてくる。

 

「レインさん」

 

「ん?」

 

「最近ずっと包帯巻いてますよね」

 

レインは作業中の図面から顔を上げた。

 

「そうだな」

 

「怪我ですか?」

 

「まあそんな感じ」

 

嘘ではない。

 

怪我と言えば怪我だった。

 

だが説明はできない。

 

毎日船を殴っています。

 

などと言ったら確実に止められる。

 

ルークは少しだけ首を傾げる。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

レインは笑った。

 

その笑顔を見て、ルークはそれ以上聞かなかった。

 

昔からそうだった。

 

レインが本当に話したくない時は話さない。

 

無理に聞いても教えてくれない。

 

だから信じるしかない。

 

父も気付いていた。

 

夕食の席。

 

レインが箸を持つ手を見る。

 

包帯だらけだった。

 

「レイン」

 

「何?」

 

「何やってる?」

 

父は直球だった。

 

レインは少し考える。

 

そして答える。

 

「鍛えてる」

 

完全な嘘ではない。

 

むしろ真実だった。

 

父はしばらく黙る。

 

それから苦笑した。

 

「無茶はするなよ」

 

「分かってる」

 

本当は分かっていないかもしれない。

 

だが父もそれ以上は聞かなかった。

 

息子が何かやっている。

 

それだけは理解していた。

 

そして今日、工房の仕事を終えたレインは解体場へ向かっていた。

 

夕日が差し込む。

 

今ではすっかり日課になっている。

 

仕事が終わった後、約二時間ひたすら拳を振るう。

 

最初の頃は十分も続かなかった。

 

今では二時間続けられる。

 

それだけでも成長だった。

 

解体場へ到着する。

 

目の前には三か月間付き合ってきた廃船があった。

 

レインは拳へ包帯を巻き直す。

 

深呼吸。

 

構える。

 

そして。

 

拳を振り抜く。

 

ドン!

 

鈍い音が響く。

 

もう悲鳴は出ない。

 

痛いことは痛い。

 

だが最初の日とは比べ物にならなかった。

 

もう一発。

 

さらに一発。

 

何度も拳を打ち込む。

 

汗が流れる。

 

腕が重い。

 

それでも止まらない。

 

ふと、違和感を覚えた。

 

レインは手を止める。

 

船を見る。

 

夕日に照らされた船体。

 

その一部分に目が止まった。

 

「……あれ?」

 

近付く。

 

目を凝らす。

 

そして。

 

思わず笑った。

 

へこんでいた。

 

ほんの僅か。

 

本当に僅かだ。

 

言われなければ気付かない程度。

 

それでも確かにへこんでいる。

 

三か月前。

 

傷一つ付けられなかった船が。

 

今は少しだけへこんでいた。

 

「おお……」

 

思わず声が漏れる。

 

達成感。

 

それは工房で新しい発明が完成した時に少し似ていた。

 

努力が結果として現れる。

 

それが嬉しかった。

 

レインは拳を見る。

 

傷だらけだ。

 

包帯だらけだ。

 

痛みもある。

 

だが、無駄ではなかった。

 

確実に前へ進んでいる。

 

その時だった。

 

後ろから声が聞こえた。

 

「何してるんですか?」

 

レインの肩が跳ねる。

 

振り返る。

 

そこにはルークが立っていた。

 

買い物帰りなのだろう。

 

荷物を持っている。

 

そして、船体のへこみと包帯だらけの拳を交互に見た。

 

数秒の沈黙。

 

「……」

 

「……」

 

さらに沈黙。

 

やがてルークが口を開く。

 

「もしかして」

 

「うん」

 

「三か月ずっとこれやってたんですか?」

 

レインは少し考えた。

 

そして、素直に答えた。

 

「そうだな」

 

ルークは空を見上げた。

 

何かを諦めたような顔だった。

 

「やっぱりレインさんでした」

 

その言葉にレインは苦笑する。

 

ルークも苦笑する。

 

理由は分からない。

 

だが、レインならやりそうだった。

 

夕日が沈んでいく。

 

船体には小さなへこみ。

 

それは世界最強への道から見れば、あまりにも小さな一歩だった。

 

それでも、確かに前進だった。

 

レインはその小さなへこみを見つめながら、静かに拳を握る。

 

まだ足りない。

 

だが、少しだけ手応えを感じ始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

赤犬になった男の奮闘記(作者:甘瓜)(原作:ONE PIECE)

【あらすじ】▼目が覚めたら、赤犬ことサカズキに転生した男がONE PIECEで奮闘する話。▼少年漫画の世界とは言え、ここまでハードモードだなんて聞いてないんだけどぉ!?▼果たして、サカズキ(転生者)の運命は如何に!?


総合評価:424/評価:7.43/連載:4話/更新日時:2026年05月31日(日) 20:59 小説情報

白翼の機械人形になった転生者は海賊(人助け)をしながら、世界を見守る。(作者:キング・クリムゾン!!)(原作:ONE PIECE)

とんでもなく長い話にする予定なのでどうかよろしくお願いします。


総合評価:431/評価:7.38/連載:19話/更新日時:2026年06月27日(土) 16:41 小説情報

斬魄刀は海を斬れるか(作者:ひよこ大福)(原作:ONE PIECE)

超新星が集うシャボンディ諸島。▼そこに現れたのは、“魂刀の刀神”霊牙イツキ。▼【ヒトヒトの実 幻獣種 モデル:刀神】の能力者である彼は、自らの魂を削り、斬魄刀を創り出す。▼『流刃若火』『氷輪丸』『千本桜』『神槍』。▼原作の斬魄刀たちは人格を持ち、擬人化し、共に海を渡る。▼これは、斬魄刀を従えた一人の男が、大海賊時代を進むもう一つの航海譚。


総合評価:157/評価:3.4/連載:10話/更新日時:2026年03月10日(火) 01:29 小説情報

『 灰被りの海兵 』(作者:meiTo)(原作:ONE PIECE)

▼主人公: 現代日本からの転生者。原作知識あり。▼※勢いと創作意欲が出てる時に書いてる作品です。


総合評価:1128/評価:7.86/連載:10話/更新日時:2026年02月11日(水) 20:54 小説情報

三度目の侍(作者:最強系妄想おじさん)(原作:ONE PIECE)

▼ワンピース世界。▼龍を斬った侍リューマに転生した男。▼一度目は平凡。▼二度目は最強を目指した修行の人生。▼そして三度目――目覚めたのは原作時代。▼技量は完成済み。▼覇王色も扱える。▼これは▼最強の剣士が▼麦わらの一味に加わる物語。▼原作沿い/微改変。


総合評価:303/評価:5.2/連載:13話/更新日時:2026年03月10日(火) 20:48 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>