ONE PIECE 〜船大工レイン〜 作:ペンギンって可愛いですよね
船板を割ってから数日後、レインはいつものように工房で仕事をしていた。
机の上には見積書が並び、新しい依頼の資料も積まれている。
最近は工房の規模が大きくなったことで、以前より設計や経営に時間を使うことが増えていた。
製作や修理はルーク達が中心となって動いている。
だからこそ、レインは新しい技術や経営の仕組みを考えることに集中できていた。
そんな時だった。
工房の入り口が開き、聞き覚えのある声が響く。
「久しぶりだな!」
その声を聞いた瞬間、レインは思わず笑った。
「ガレスさん」
大柄な商人が両手を広げながら工房へ入ってくる。
相変わらず元気そうだった。
「いやぁ、忙しかった!」
ガレスは近くの椅子へ腰掛ける。
その後ろには荷車が止まっていた。
どうやら商売の途中で立ち寄ったらしい。
「何かありましたか?」
レインが尋ねる。
するとガレスは大きく頷いた。
「ありまくりだ!」
「お前のおかげでな!」
その言葉に工房内の視線が集まる。
レインは首を傾げた。
「俺ですか?」
「お前以外に誰がいる!」
ガレスは笑った。
「例の変形滑車だ」
その言葉でレインも理解する。
以前、ガレスへ売った特許第一号。
変形滑車だった。
「評判が良かったんですか?」
「良いなんてもんじゃない」
ガレスは机を叩いた。
「大当たりだ」
「荷物の積み下ろし時間が大幅に減った」
「人手も減る」
「作業効率も上がる」
「しかも壊れにくい」
商人としては最高だった。
一度使った者は手放さない。
そんな評価を受けているらしい。
「追加で二十基欲しい」
工房内が少しざわつく。
二十基。
今までの注文とは桁が違う。
レインも少し驚いた。
「二十ですか」
「足りないくらいだ」
ガレスは笑う。
「しかもだ」
そこで意味深な表情になる。
「他の商人も興味を持ち始めてる」
レインの表情が変わる。
「他の商人?」
「ああ」
ガレスは頷いた。
「東の海で少しずつ噂になってるぞ」
工房内が静かになる。
従業員達も耳を傾けていた。
ガレスは続ける。
「東の海の端にいる船大工の島」
「そこに天才発明家がいる」
「そんな噂だ」
ルークが思わず吹き出した。
レインも苦笑する。
本人達からすると大袈裟すぎる話だった。
しかしガレスは真面目だった。
「笑い事じゃないぞ」
「実際に商人達は探し始めてる」
「レイン工房ってどこだってな」
その言葉を聞いて、レインは少し考え込む。
嬉しくないわけではない。
むしろ工房としては良いことだ。
だが同時に目立つということでもある。
この世界では、目立つことが必ずしも良いとは限らない。
その考えが頭をよぎった時だった。
「そうだ」
ガレスが荷物の中から新聞を取り出した。
「最近の新聞だ」
レインの目が少し輝く。
この島にはニュース・クーは来ない。
だから新聞を読む機会は少ない。
商船が持ち込む新聞だけが外の世界を知る手段だった。
「ありがとうございます」
レインは新聞を受け取る。
そして何気なく紙面をめくった。
その途中。
ある記事で手が止まる。
賞金首の記事だった。
写真付きで大きく掲載されている。
『鉄斧のバルド』
懸賞金八百万ベリー。
東の海で商船を襲撃している海賊だった。
レインは記事を読み進める。
襲撃。
略奪。
負傷者多数。
商船沈没。
見慣れない言葉ではない。
前世でもニュースは見ていた。
だが、ここでは現実だった。
この世界では海賊が実在する。
そして人が死ぬ。
「最近増えてるんだ」
ガレスが真面目な顔で言う。
「こういう連中がな」
レインは顔を上げる。
「危険なんですか?」
「危険だぞ」
即答だった。
「商人は命懸けだ」
ガレスは笑う。
だが、その目は笑っていない。
「運が悪ければ死ぬ」
「それが海だ」
レインは再び記事を見る。
八百万ベリー。
東の海では大物だろう。
前世の知識があるから分かる。
もっと強い海賊はいくらでもいる。
それでも、今の自分が勝てるかと言われれば分からなかった。
船板を割った。
確かに成長した。
だが、海賊と戦えるかは別問題だった。
(まだ足りないな……)
レインは心の中で呟く。
技術も。
知識も。
そして力も。
まだまだ足りない。
世界へ出るには。
海を渡るには。
もっと強くならなければならない。
夕方。
ガレスを見送った後。
レインはいつものように解体場へ向かっていた。
夕日に照らされた廃船が並んでいる。
少し前まで恐ろしく見えた船も、今では挑戦相手にしか見えない。
レインは包帯を巻き直した。
そして拳を握る。
新聞の記事が頭をよぎる。
海賊。
賞金首。
危険な世界。
トムの言葉。
ウォーターセブン。
海の向こうに広がる世界。
全てが繋がっていた。
「やっぱり続けるしかないか」
レインは小さく笑う。
そして、
ドンッ!!
拳を船へ打ち込んだ。
鈍い音が夕暮れの解体場へ響く。
世界は待ってくれない。
だからこそ、今できることを積み重ねるしかなかった。
十歳の船大工は、今日もまた静かに前へ進んでいくのだった。